第42話 厳選素材のバーベキュー ☆☆☆
ああ、秋だなあ。
なーんてね。
天気はいいし、澄んだ空に端々が千切れた薄い雲は高いし、ついそんな素人詩人めいた気分になって言っちゃいました。
ああ、恥ずかしい (笑)
(じゃあ言うな)
だそうです。
そう、バーベキューですよ。
荒野を旅してれば屋外で食事は日常茶飯事、あれ、ちょっと違うか。少し意味がダブってるような。
とにかく! 屋外食は当たり前なんだけど、今日はせっかく1日ずっと山でのんびりしたんだし、別荘はあるし、ここは何としても純粋に遊びに来たつもりでリゾートっぽいバーベキューを楽しみたい。
海老やロブスター、イカや魚、貝類などを使うのも豪華でいい。でもここは山なので、それではちょっと興醒めだ。
今日はやっぱり肉や野菜などを中心にしよう。
ということで、陽が傾いてきた頃からテラスの前にテーブルや椅子を並べて、谷川の水でキリっと冷やしたジュース類やお茶を用意して準備にかかる。
炭はもちろん上質の木炭。
表面が白くって目が詰まってて、叩き合わせるとカチン・カチンなんて音がしそうな代物だ。
これをグリルに入れて火をかける。
材料は
まず、ビーフはやっぱり欠かせない。
本格的なバーベキューは大きな塊肉を蓋をして蒸し焼きに、焼き上がったらそれを薄切りにして食べる物だって聞いたりするけど、別に本式に拘る必要もない。
いいサーロインがあるので、これをステーキ風に切って、例のように直前に塩胡椒をする。
断面に見るからに上質そうな脂がうっすらと靄のようにかかって、う~ん、もう既に視覚的にも期待が高まるなあ。
これを網に乗せて遠火の強火で、レアでもミディアムでもウェルダンでも、各人の好みに合わせて網の上で焼く。
頃合いに熱が通ると見た目にも小さく脂が泡立って、耳にも小さくジュウジュウいう音が聞こえてきて、予想通りとんでもなく美味しそう!
次はスペアリブ。
これも本式でやると時間がかかるので、キッチン内で下準備を済ませておく。
1人分ごとに骨に沿って縦に切って、1時間ほど下茹でして余分な脂を落とし、それから数時間、甘辛のソースに浸けて味を沁み込ませておく訳だ。
じっくりじんわり焼くのが最高なんだろうけど、そうするとやっぱり時間がねえ。
リゾート気分で軽くっていう今日の雰囲気には似合わない。
ま、自分もゆっくり食べるのを楽しみたいっていう私の都合に合わせたんですけどね。
これはグリルの隅の方の火が弱い箇所でじっくりと。
ときおり引っくり返しながら焼いていくと、だんだんと表面にいかにも美味しそうな焦げ目がついて、香ばしい匂いも食欲をそそるねえ。
ソーセージはやっぱり必要だ。
特に今日はお子ちゃまが2人も居るから。
子供は噛むとぷっちんぷるぷるのソーセージの食感は大好きだもの。
でもね、今日のソーセージは君らが普段食べてるものとはひと味違いますよぉ。
何と鹿肉のソーセージ!
これがまた微かに土っぽいような素朴な、なにしろ鹿肉だから脂っぽ過ぎないあっさりとした風味で、これをマヨネーズと好みでマスタードを混ぜたソースで食べると絶品。
暫くは普通のソーセージが食べられなくなるかもよぉ。
そして、ラムチョップ! ラムチョップ! ラムチョップ!
あ…… 想像しただけで我を忘れて連呼してしまいました。
骨付きのラム肉を軽く塩胡椒しただけで、蓋をして弱火で蒸し焼き風に仕上げる。
こ、これは、もしかしたら最高の肉料理かも。
柔らかくって、仔羊だからほんのりミルクっぽい匂いと味がして、この上なくジューシーで。
そのままでもうっとりしちゃうけど、擂りたての林檎を適量乗せて食べてもこれがまた……
新鮮な野菜類も欠かせないよね。
トウモロコシとか輪切りにしたタマネギ、薄切りのポテトやカボチャ、赤や黄色、緑のパプリカやピーマン。
トマトを焼くのもお勧め。そのまま丸ごと焼いてもいいし、プチトマトだったら角切りに切った肉やソーセージと一緒に串に刺してもいい。
マッシュルームとかのキノコ類も美味しいし、キャベツを大きな三日月形に切って焼いたものも、野趣は楽しめるし、普段は食べない芯までほっくりしっとりとして、ちょっとキャベツとは思えない不思議な味わい。
グリーンアスパラなんて、軽く茹でて塩を振って食べても絶品だけど、バーベキューにしたら炭の香りで軽く美味しい燻製っぽくなっちゃって、うん、これは普段はなかなか味わえない妙味だぞぉ。
茄子もいいよ。細身の茄子があったらそれこそ丸ごと、大きな丸い茄子は2つに切って、炭火の端の一番火の弱い所でじわっと焼くと、中の身は見た目は綺麗な翡翠色に舌触りはとろりと、そして「茄子の季節がきたぞぉ」的な野菜のあっさりとした自然な甘みと他にない繊細な食感が味わえます。
後は〆かなあ。
でも、その前に
鱒はいかがでしょう?
ふふふ、実はコレ、ついさっき渓谷を散歩のついでに魚影の濃いのを見て、その気になって釣竿と毛鉤を取り出して釣ってきた鱒でございます。
ちなみに、自作の毛鉤の名前は「魔弾」でございます。
どうですか?
串に刺して、岩塩を振って焼いただけの簡単な料理ですけど、それだけに新鮮な素材の味が引き立って美味しゅうございましょう?
バターを乗せたり、レモンを振っても旨味が引き立つでしょうが、まあ、その辺はお好みで。
そしてバケット。
今日はそれだけではなく、ピタパンも用意してみました。
軽く焼いて、それだけで食べても美味しゅうございましょうし、バターを塗ったり、オリーブオイルと岩塩でも、ああ、炒めた刻みニンニクを少し乗せて「ガーリック・トースト」でも、それらの上にちょっと刻みパセリを振ってもいいですねぇ。
ソーセージや他の焼いた具材を乗せたり、小さな鉄鍋で熱して溶かしたチーズに浸して、チーズ・フォンデュっぽく食べても宜しゅうございましょう。
あ、焼いた野菜にチーズを絡めて食べても、もちろん美味しいよ!
ソースは定番のステーキソースにトマトソース、ケチャップ、このあいだ作っておいたサルサソース、それにマヨネーズ、マスタードやピリッと辛いホースラディッシュ、レモン汁、岩塩、オリーブオイル、それに、ふふふ、このあいだ入手した味噌の上澄みで作っておいた「テリヤキ・ソース」だ。
不味い筈がない!
つい今しがたまで夕陽が射していたのが、辺りはもうすっかり暗くなってきて、少し気温が下がり空気はますます清澄になってきた。
あらまあ、お行儀の悪い。
手づかみでスペアリブや鱒を食べていらっしゃるお子様方の口の周りはソースや食べかすで一杯じゃありませんこと?
全然いいけどね (笑)
あ、ベリアル君もイシュタルも、ピーマンもちゃんと食べなさい!
好き嫌い言ってると、立派な悪魔(?)になれないよ。
さあ、デザートはマシュマロだ。
お子ちゃまたち、こっちにいらっしゃい。
軽く拭いた細長い木の枝に刺したマシュマロを遠火でじっくりと、少し焦げ目がつくくらいに焙るのだ。
食べてみると、ほーら、外側は軽くぱりっとして、中は全てと~ろとろ。
う~ん、美味しいねえ。幸せ!
2つめは横に切れ目を入れてチョコレートを挟んで焼いてみたりすると、うん、これがまた違った風味で……
ああ、のんびりした。
お子ちゃまたちはもちろん、オスカル君も例の「さいえ〇す・だい〇っと」に加えて肉やら何やらを少しずつ貰って大満足の御様子だ。
よ~し、明日は目的地までの道筋にある名所旧跡(?)を巡る観光旅行かな。




