第31話 オシャレな別荘を創ろう
創るって、誰が?!
まさか私じゃないよね。
(お前に決まっておる。まさかこの山中に今から職人を連れてくる訳にはいくまい。それに、そんな事をしていたら、家一軒建てるのに何か月かかるのだ? ここは創造の魔法でサクサクっと……)
あのねえ、子供は甘やかすほどつけ上がるんだから。
ここで甘い顔を見せると、この先、何かあるとすぐ泣いて思い通りにしようとする癖がつくんだよ。
(おや、お前も子供ではなかったのか?)
う…… それはそれ、これはこれ。
少なくとも、こんな始末の悪いガキンチョじゃありません!
(では、朝までこの騒音に耐えるのか? 言っておくが、こ奴は一度こうなったら、自分の望みが叶うまで決して泣き止まぬぞ)
「びええええ――――――――!!!」
う! また更にデシベルが上がったみたい。
内臓にまで響く振動がいっそう破壊力を増して……
(だろう。これが何時間も続けば、本当に健康を損なうぞ。なあに、こ奴の言うような高級ホテルや豪邸でなくとも良いのだ。簡素でも、なんなら一晩用の使い捨て欠陥住宅でも、家でさえあれば仕方なく納得するであろうよ)
でも、そんな特殊な魔力を使えば、もしかするとヒト族の術者に探知されるかも。
(もう相当な山中に入って来たからな。この距離であれば大丈夫だろう。心配する事はあるまい)
う――ん。
「びえええええ――――――――——!!!」
う、また……
ということで、何だかんだで押し切られて、家を一軒、急ぎ創造する羽目になってしまった。
「びええええええ――――――――——!!!!」
「あーっ、もう、ウルサイ! お望み通り家を創るから、出来上がるまでちょっと黙ってなさい! そうじゃないと、集中できなくって失敗しても知らないよ!!」
すると
「…………(ぴたっ!)」
これだ! いきなり沈黙。
なんて現金なヤツ! はぁ……
さあて、創ると決まったら気持ちを切り替えなくちゃ。
どんな家にしよう。
心の声さんは「簡素」とか言ってたから、手っ取り早くログハウスでもと思ったけど、それじゃあつまらない。
ここはやっぱり、それなりに瀟洒で快適な別荘にして、まだまだ余裕のある亜空間収納に入れておこう。
そして、旅に出て必要な時はいつでも取り出して宿泊できるようにするのだ。
だって私、魔王なんてさっさと辞めて冒険者生活に戻ること、まだまだ諦めてませんから。
考えてみれば、もっと早くにそうしておけば良かったのだ。
さすが私ってプラス思考?
まず、地盤が多少緩い場所でも安定するように、基礎部分には長くて頑丈なスパイクが何本も必要だ。
屋根は赤瓦がいいなあ。洒落てるもの。
となると、壁は漆喰だ。さすがに真っ白は汚れが目立つから、少し生成り色に近くして、窓は大きめのものを沢山つくって、明るい家にしよう。
玄関脇にはバルコニーをしつらえて、そこで朝や夕方はお茶とか飲めるようにしておくと素敵。
そして、玄関を入ったらまずはやはり2階までの吹き抜けでしょう。
1階はいっそのこと、ほとんど全部を広ーいリビングルームかなあ。一角を対面型《これ大事!》の開放的なキッチンにして、後は大型のバスルーム。
床は素焼きのタイルで、リビングの中央には織物柄の大きなラグを敷こう。家具はコーナー型の大きなソファーに、白木の素朴なダイニングテーブル。
この季節でも山中は深夜や朝方は冷えるだろうし、この先、寒い地方で使うことも考えるとやっぱり暖炉は必要だ。煉瓦造りの暖炉で赤々と火が燃えてるのを見ると、じんわりと心が和むもんねえ。
折角の広々とした視界を邪魔しないように、2階までの上り下りは螺旋階段にしよう。
階段を登りきると床は全面のフローリングがいいかな。
総二階造りにするとしても、吹き抜けの残りの分の面積を考えると部屋はせいぜい3つ。その内の主寝室は精一杯広く、豪華にしたい。だって施主兼建築家の私が寝る所だから。
専用の浴室とシャワールームを作って、ベッドはもちろんキングサイズの天蓋付きにして、ウォークイン・クロゼットも欲しい。
後はこれでメイドさんでも居れば言うこと無しなんだけど、さすがにそれは無理か……
よし、イメージは固まった。
私は精神を集中して異空間への扉を開く。
家の躯体だけなら土魔法でもいいし、その方が魔力も遥かに少なくて済むけれど、家具やその他の設備も必要だから、ここは創造の魔法でいく。
すぐに頭上の空間が大きく揺らぎ始めて――――――
―――――― そして異空間から導き入れた膨大なエネルギーが次第に形を整え、ついには物質に変換されて光と熱を失い、数分後、《《そこには私のイメージ通りの家があった》》。よし、成功だ!
「「「…………!!!」」」(連れの2人と1頭・談(?))
ふふふ、少しは驚いたかね。
まあね、今回は規模はさほどでもないけど、エネルギーを複雑な構造体にするには結構な集中力が要る。
古いおとぎ話みたいに杖を一振り、ビビデ・バビデ・ブゥ、なんてお手軽にはいかないんだよ。
さあ、今日の仕事もこれで大半は終わったし、後は家の中に入ってゆっくり休息だ。何時間も背中に乗って走って来たから、正直ちょっとお尻が痛い。
でも、その前に
「ボケ―っとしてないで、オスカル君は家に入って、まずお風呂! それから、ベリアル君とイシュタルは暖炉に使う薪をその辺から拾ってきて」
「えーっ、何でアタシが薪拾いなんか?!」
「ぐずぐず言わない。言うこと聞かないなら家に入れないからね!」
「う、う……」
ということで、1人はしぶしぶ、もう1人は素直に目の前の森に薪になりそうな枯れ枝拾いに、オスカル君は山へ芝刈りに、ではなくてバスルームに直行だ。
「……ぁ、あのう、アスラ様。ぉ、お風呂とは……」
「あなたを洗うの。汚いままで家に入られると困るから」
「ぉ、お風呂などというものは……」
「入ったことないんでしょ。臭いよ! だから綺麗にするの。文句を言わない!」
「は、はぁ…………」
私は、嫌がるオスカル君を強引にバスルームに押し込んで、まずはシャワーで盛大にお湯をかけた――――――




