第18話 さあ、何を作りましょう ☆☆☆
私はまず、ゼブルさんに尋ねてみた。
「ふだんはこの材料をどうやって料理してるの?」
「人数が多いですから、大抵はごった煮ですな」
「味付けは?」
「塩胡椒と材料自身の持つ旨味、他は香草程度でしょうか」
うーん、それはあんまり美味しくないし、飽きそう。
私だったら、今更そんな食事が毎日続いたら簡単に気が狂っちゃうかも。
ファフニール君に聞いてみる。
「あなただったら何を作る?」
「は、オレ? いや、じ、自分なんかとても……」
「あー、面倒くさいなあ、もう! 聞いてるんだから、謙遜しないで言ってみて。立派な腕前をしてるんだし」
「そ、そうですか、では…… な、なにしろ相当な大人数相手の料理ですから、手間を考えると、やっぱり、まず思いつくのは煮込み料理ですかね。月並みで申し訳ないっす……」
「別に謝らないでいいから。それで、例えばどんな煮込み料理?」
「肉やタマネギ、ジャガイモやニンジンも豊富にあるんで、そう、ビーフシチューなんかどうでしょう。トマトでデミグラスソースを作って、何なら炊いたコメの上にかけてハヤシライスやビーフストロガノフ風にして。上にサワークリームか、それが無ければ生クリームを垂らしてもいいし、コメは長粒種なんで軽くバターで炒めてバターライスにするといいかもっす」
おお、さすが料理人の発想だ。それはちょっと美味しそう。
でもねえ、今からデミグラスソースを作るのは時間がかかり過ぎるかな。
お昼どきまであと2時間程度しかないし、大量のブイヨンの用意もないし。
するとゼブルさんが
「お好み焼きは如何ですか?」
「え?」
あー、びっくりした!
しれーっと言うけど、この人の口から「お好み焼き」とか、似合わねー。
それに、お好み焼きなんて、よく知ってるなあ。
「小麦粉もキャベツも卵も、それから肉も大量に有りますし、手間もかからず、それに、目の前で焼いて見せれば彼らも喜ぶのでは?」
うーん、それはひょっとすると悪くない考えだけど、やっぱりソースが問題だ。
あの独特のソースを今から大量に作ってる時間はない。
あ、そう言えば、この街に来た初日に、通りで立派な石造りのレストラン(!)の店先に「タコヤキ」って書いてあるのは見かけたけど、まさかあのレストランに何千人分のソースがあるとは思えないしねえ。
それに、マヨネーズも必要だし。カツオブシなんてものも無さそうだから、和風はちょっと難しそう。
「ぴーぴー、ぴーぴー」(言ってみたかっただけ? それとも自分にも聞けということか?)
お好み焼きとか、目先が変わって面白そうなんだけどねえ。
洋風でそれっぽいものというと、ピザか?
でもあれもねえ、オーブンを使うし、まさか今から巨大なピザ窯を作る訳にもいかないし……
待てよ。
トウモロコシ粉があるぞ。それにレタスやトマトも。肉や卵はもちろん揃ってるし、チーズも豊富だ。
そうすると、アレが作れるじゃないか!
アレだったら時間も手間もかからないし、設備もそれほど必要ないし。
「よし、決めました」
「「おお!」」
「ぴーぴー!」
そして、真っ先に聞いてくるのは、やっぱりゼブルさん。
「で、何を御作りに?」
「メキシカン・タコスです」
「成程。あれならば短時間で出来るでしょうし、ちょっと変わったメニューで彼らも喜ぶでしょうな」
さすが、と言うか、この人はやっぱり知ってるんだ。
でも
「???」
ファフニール君には初耳の料理だったみたい。
でも、説明してる暇は無いし、どうせ実際に作って食べてみればわかることだ。
「とにかく人を呼んで来て。大量の材料を厨房に運んでもらわなくちゃいけないから」
「あ、は、はい!」
人が来るのを待つ間、またゼブルさんと話す。
「お好み焼きがヒントになりました」
「それは良かった。わたくしの思い付きが役に立つ事も、たまにはあるのですな」
「はい。でも、さっきのマダガスカルはちょっと……」
「う…… それはそうと、タコスならば、他に何かスープ的な物があった方がよろしいのでは?」
「いい物を見つけたので、それでスープを作ります」
私が指差す先にあるのは、幾つもの大きな樽。
その中には塩水が張ってあって、ちょっと口を開いて呼吸をしている大振りの二枚貝が沢山入っているのだ。これなら、もう砂抜きも必要ない。
「これとジャガイモ、それにマッシュルームで、クラムチャウダーはどうでしょう」
「おお、素敵な組み合わせかと! それは是非、私も頂かねば」
「ぴーぴー、ぴーぴー!」(自分にも食べさせろということか? それとも、とにかく会話に参加したかっただけ?)




