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第14話 アスラのびっくり極大重力魔法

「飛ばすだと? しかも宇宙! そんな事が可能なのか?」

「だって、飛翔魔法は大得意だし、その応用ですから」

「簡単に言うが、これだけの規模じゃぞ。アスラ一人で魔力は足りるのか?」

「ガイアさんだって、この巨大遺跡を一人で凍らせたじゃないですか。それに、中間の加減はともかく、大規模なのは却って得意ですから。それよりも……」


 詳しい事情が知りたい。

 ヒト族が遺跡に侵入して武器や兵器を狙ってるっていうのはわかったけど、他は全く状況が掴めてないから。

 とりあえず遺跡全体が超低温で凍結して、仮に侵入者が生き残って(ひそ)んでるとしても、移動はままならないし、これで暫くは時間の余裕がある筈だ。


 するとガイアさんが教えてくれた。

 今朝早くに遺跡近くのドワーフ軍の駐屯地に何者かの襲撃があり、かなりの犠牲が出たのだという。火炎魔法らしきもののせいで営舎や武器庫に火災が起こったりしたので、ドワーフ軍首脳は、これはきっとエルフ軍からの攻撃に違いないと判断したのだそうだ。

 襲撃者たちはその後すぐに遺跡に入り込んだので、実際には正体は不明だったらしいが、ドワーフ族自身は魔法が使えないし、何しろ普段からエルフと仲が悪いからねえ。彼らからすれば、「襲撃」に「魔法」とくれば、真っ先に思い浮かぶのはエルフな訳だ。で、すぐさま軍隊を派遣し、エルフ軍に威圧をかける。

 ところが、身に覚えのないエルフからすれば、これはドワーフ軍からの言いがかりでしかない訳で……


「常日頃から古代文明の遺物に興味津々のドワーフの狂言……」


 ん、「狂言」って何だ?


「ああ、そうじゃな。つまり、自作自演の芝居だと言うのじゃ」


 ああ、そういう意味ね。

 と、ここでチャウチャウ氏が話に割って入った。


「だからガイア様、それは有り得ませんぞ!」


 おお、興奮してるなあ。


「確かに未知の技術に強い関心を抱くのは我らの宿痾(しゅくあ)といえ、この遺跡は複数の勢力の緩衝地帯ではないですか。そのような場所に無断で侵入など……」


 ん、「シュクア」?

(長年の、この場合は特に心のビョーキということだ)

 ああ、そうなんだ。何だか今日は難しい単語が多いなあ。

(ふぅ……)


「だからこそ、策を(ろう)したのかと考えたのだ」(チワワ嬢・談)

「黙れ! しかも、この遺跡は手に負えない機械の魔物に守られ、危険な罠に満ちている事は判明しているではないか。そのような場所に今更なぜ犠牲を払ってまで調査の手を伸ばさなくてはならんのだ!」(チャウチャウ氏・談)

「さあな。技術や科学などという低級なものに固執する、愚かなドワーフどもの考える事など、私には分からぬ。我等エルフは、そんなものに頼らずとも、万物の精霊と対話し、その力で快適な暮らしができるからな」(チワワ嬢・談)

「何をぬかすか! そちらこそ、領土欲に駆られて攻撃を仕掛けてきたのではないか」(チャウチャウ氏・談)

「ふざけた事を言うな。遺跡は勿論、このような岩砂漠に等しい荒野など、領地としても何の関心もないわ!」(チワワ嬢・談、あ~、めんどくせー)


「という訳なのだ」(ガイア嬢・まとめ)


 はぁ…… 話には聞いてたけど、本当にドワーフとエルフって仲が悪いんだな。

 こりゃあ、(あいだ)を取り持つ魔王も大変だ。他人事だけど。ん、そうだっけ?


「双方とも嘘は言っていないと妾には分かるからな」


 え、そうなの?

(心臓の鼓動や発汗の変化で明らかではないか。お前も少しは勉強しろ)

 はあ、反省しました。頑張ります。


「しかし、だからこそ面倒なのだ。あまりに話がこじれる様だったら、いっその事、爆裂魔法で遺跡全体を吹っ飛ばしてやろうかと思っていた矢先にアスラがやって来たという訳だ」

「あらら、やっぱり危なかったんですね」


 核兵器には寿命があるっていうけど、ひょっとすると生きてるものも残ってるかもしれないしねえ。爆裂魔法とか使ったら、どれかが爆発して、更に周りが誘爆して、ここら一帯どころか、もっと広い地域が汚染されて……

 しかも細菌兵器まであるからねえ。研究所の培養液は自動的に補充されて、中の細菌はまだまだ生きてるみたいだったし、それが爆発の衝撃でそこら中に飛び散って、風で運ばれたり、地下水に紛れ込んだり。それに毒ガスだって…… ああ、考えただけで恐ろしい。


「ところで先程の、3ヵ月ぐらい前にアスラが遺跡に、という件じゃが」

「あ、その事ですが、まずは遺跡を宇宙に飛ばしましょう」

(ふふ、それで誤魔化せるかな……)


 と、ここでチャウチャウ氏が今度は不安げに口を挟んだ。


「本当にそんな事をなさるのですか?」

「何じゃ。妾が見込んだ新魔王であるアスラが断言するのじゃぞ。出来るに決まっておる。それとも、アスラの力を疑っておるのか?」

「い、いいえ、そういう話ではなく、遺跡の中には古代文明の貴重な遺物や資料が残されている訳で、それを無にしてしまうのは、いかにも勿体ないかと……」


 ああ、いかにも技術大好きなドワーフさんらしい意見だなあ。

 でも、私は断固として言った。


「核や細菌兵器みたいなアブナイ代物(しろもの)はこの地球には不必要でしょう! 旧文明だって、そう判断したからこそ、魔導兵器に転換したんじゃないですか」


 するとガイアさんが


「亜空間に封じ込めるのでは駄目なのか」


 うーん、それも考えたんだけどねぇ。


「やっぱりダメですね。下手すると私の亜空間が汚染されて、収納やら何やらに使えなくなっちゃうから。やっぱり、誰にも迷惑のかからない宇宙空間に追放です」


 あ、そうだ。


「それ以外の武器や兵器に関しては、他の遺跡にも同等の科学技術の資料がある筈だから、役に立つ情報は随時、魔王からの補償として、ドワーフの国に提供するのはどうでしょう?」

「うむ、それは良いな。妾もそろそろ他の亜人の国々に、古代の文明や文化の情報を提供する頃合いではないかと思っていたところじゃ。そうすれば、魔王領全体で文明や文化の復興も加速するであろう」


 ということでチャウチャウ氏も何とか納得。

 ただねえ、勘違いが加速しないといいけど……


 とにかく、さあやるぞ!

 極大重力魔法発動だ。

 おっと、その前に


「兵士さんたちをもっと遠くに退避させてください。とんでもない大穴が空くから、崖崩れや地震とかに巻き込まれるといけないので」

「それは大丈夫じゃ。妾が大地魔法で支援しよう。地盤をしっかり安定させれば良いのじゃろう?」


 う~ん、頼れる姉? 母親? それとも300歳超だから祖母の祖母のそのまた祖母? が出来たみたいな気持。心強いなあ。


 ということで私は遺跡の方を向き、心の中にその全体を思い描く。

 ガイアさんに説明した時と同様、縦横2マイルの正方形、そして地下が2000フィート。この直方体にかかる重力を打消し、そこに逆に斥力を生じさせるのだ。

 斥力は最初はごく弱く。一気にやるとそれこそ大惨事になってしまう。

 意識を集中し念じると、重苦しい「()()()」という音と共に地面が激しく揺れた。

 ガイアさんの大地魔法のサポートがあって、それでもこの振動か!

 集中を保つために私は身体を少し浮かせる。

 これなら足元の振動に惑わされることはない。


 ゆっくりとゆっくりと眼前の遺跡が浮き上がり、最初は土にまみれたコンクリートの壁が姿を現し、それがだんだんと、際限なく上昇して―――― ついには基底部が見え、巨大な塊の全体が空を覆うまでになった。


 よし成功だ! ここから浮遊速度を増して、一気に宇宙に飛ばすぞ。

(油断するなよ。ここで気を抜いて落下などさせると大変だぞ)

 はいはい。そのぐらい承知してますって。ウルサイなあ。


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