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第07話 ファフニールの絶品パンケーキ ☆☆☆

今回は昼食なので、軽くパンケーキ。

 それは白いシェフコートを着て、黒いエプロンをした、ティアお婆さんの所にいた竜人さんだった。

(お前がグーパンチを浴びせた相手だな)

 あ、起きたの?

(ああ、良く寝たぞ。おはようだ。まだ少し頭が痛いような気がするがな)

 え、どういうこと?

(三日前の夜、お前が寝ている時に…… いや、大したことではない。むにゃむにゃ)

 ふーん、何だか怪しいなあ。

 でも、今はそれより目の前の竜人さんと昼食の方が先だ。


「あ、オレ、い、いや、じ、自分、その節は、殴られて、今回は御礼参りに、メンゴ……」


 はあ、何を言ってるんだ?

 意味がわかんないぞ。

 心の声さん、「御礼参り」って、どういう意味?


(ふむ、それには二義性があるのだ。まず第一は字義通りに、神社や神殿に祈りを捧げ、その願いが叶った事を感謝して、再び参篭する事。もう一つは、反社会的集団、まあつまりヤクザ、これを八九三と隠語的に数字で書く場合もあるが…)


 あー、だからウンチクはいいから、早く続きを言って!


(やられた恨みを暴力でやり返すという事だ)


 え? それって、あの時は反省したふりして、実は殴られたことをしつこく恨んでたってこと? だったら「メンゴ」ってのも、ふざけた口調でわざとケンカ売ってるんの? だったら買うぞぉ。上等じゃないか!


(あ、いや、ちょっと待て。早まるな)


 すると


「ははは。随分と緊張して言葉がうまく出て来ないようですな。これはつまり、その節は御世話になりました、申し訳ございません、ということです」


 はあ? 話が全然違うじゃないですか。

(だから我もそう言おうとしたところだったのだ。こ奴は「お礼に」に来たのを、緊張して「御礼参り」と言い間違えたのだ。それを、お前が先走るから……)


「オレ、いや、じ、自分、ファフニール、改めて自己紹介……」

「再度わたくしゼブルが通訳致しますと、改めて自己紹介致します、ファフニールと申します、という事です」


 あ、いや、それは通訳不要。


 それにしても、ファフニー()だって……

 また「ル」かあ。

 どうしてこう「ル」の付く名前が多いんだろう。

 ただでさえ私、人の名前覚えるのが苦手なのに。


 で、何でそのファフニールさんがここに?


「じ、実は、ティアマト様が戦いの様子を感知されて、アスラ様の魔力がある時から一気に途絶えたので、何かあったに違いないと。それでオレ、いや自分を、様子を見てくるように、必要ならばお世話するように、ここに寄越されたんです」


 おお、少し落ち着いたら、ちゃんと話せるじゃないか。

 そうかあ。確かガイアさんと戦った時も気付いたって言ってたし、あのお婆さんだったら、どれほど遠くにいても、戦いを感知してても不思議はないか。

 けっこう魔力を使ったしね。


 と、ここでゼブルさんが


「まあ、話は後で良いではありませんか。折角の昼食が冷めてしまいますぞ」


 と言う。

 うん、それはそうだ。まずはやっぱり昼ご飯だ。

 なにしろ三日ぶりだからねえ。

 メニューは何だろう。楽しみぃ!


 看護の人がバベル君とふーちゃんの抜け毛や羽が飛び散った毛布を換えてくれて、ベッドで食事を摂るための小さなテーブルを置き、そこに並べられたのはオレンジジュース、ミルク、スープ、そしてパンケーキだった。

 大振りのお皿にパンケーキが2枚。程良いきつね色に、ふっくらと焼きあがったそれはいかにも美味しそう!

 バターのいい匂いと、ほんのりバニラの香りがして、上にはイチゴやマンゴー、キーウイの薄切りとアイスクリームが乗せてある。果物の産地や季節がごっちゃな気がするけど、ティアお婆さんの気候魔法なら、このぐらいは容易(たやす)いんだろう。

 横にはベーコンとソーセージが添えてある。やったあ! 食事にするには果物や甘味だけじゃなくて、やっぱりコレが必須だよ。


 ジュースやスープも放っておいて、とりあえずシロップもかけずにパンケーキだけを小さく切って食べてみる。

 するとこれが表面には張りがあって、中身はしっとり、ちょうど良い温かさで、わずかに甘く、でも塩味もうっすらとして、やっぱり美味しいの何のって!!

 このふっくら感は、きっと生地にたっぷりメレンゲが混ぜてあるな。口に入れた瞬間にとろけそう。


 たぶん私、あまりの驚きと満足と喜びに瞳孔開いちゃってると思う。


 で、オレンジジュースを口に含むと、甘過ぎず、その酸味で口の中が引き締まって、またパンケーキにナイフとフォークが伸びる。

 うーん、止まらない。いくらでも食べられそう。


「気に入って頂いたようで、良かったですな」


 ゼブルさんが竜人さんに言う。


「は、はい。アスラ様が『パンケーキ食べるぞぉー!』と叫んでおられたと聞いた、い、いや、聞きましたんで。それに、三日ぶりの食事だからあまり重いものはどうかと思って、これにしたっす。でも、喜んでもらって、オレ、い、いや、自分も苦心した甲斐がありました」


 え、「パンケーキ食べるぞぉー!」とか、私そんなこと言ったっけ?

(大声で絶叫しておったぞ。ほら、獣王を時間魔法で細切れにした後だ)

 ああ、そう言えば言ったなあ。でも、このパンケーキは、私の頭の中にあったものよりもずっと上を行ってるぞ。

 改めて思う。この竜人さん、いい腕だ。

 爪は? 良し。ちゃんと切ってるな。


「材料も自分なりに吟味したつもりっす。ティアマト様の農場と牧場直送のバター、ミルク、果物はもちろん、小麦粉もパンケーキ用に適したものを選んで、卵も朝採りの有精卵です」


 だんだんと気持ちにゆとりが出て来たみたいで、竜人さんの説明もなめらかに、雄弁になってきた。


 私はそれを聞きながら、今度はパンケーキの新たな一切れにメープルシロップをかけて、ベーコンと一緒に食べてみる。くーっ! この適度な塩味と甘みの組み合わせが食欲を増すんだよ。最高!

 次はスープを一口。昼食用にカップに入れたスープだけど、たっぷりの牛すね肉や骨に野菜や香草を加えて、ちゃんとアクを取りながらじっくり煮込んだブイヨンらしくって、味にしっかりとしたコクと華やかさがある。小さく刻んで具にしたトマトやセロリなどの風味も加わって、これもびっくりの美味しさだ。

 そしてまたパンケーキを、今度はイチゴとアイスクリームと一緒に、チョコレートソースをかけて食べる。うーん、予想通り、甘すぎないイチゴの酸味にアイスクリームの冷たさと空気をしっかり含ませたふんわり感、チョコレートソースの僅かな苦みが加わって、これはもう口の中が幸福で一杯!!


 スープを一口飲んでソーセージ、次はマンゴーとパンケーキをやはりチョコレートソースで、ミルクの後はキーウイと一緒にメープルシロップで、これは違った食感がまた別の美味しさで……


 とか何とかで、我ながらあっという間に完食。

 お皿の上も、カップやグラスの中身もきれいさっぱり何もなくなった。

 あまりの食べっぷりに皆さんが拍手してくれました。


 するとここで


「さあ、ではファフニールさん、アスラ様にお願いがあるのではなかったですか?」


 と、ゼブルさんに促され


「は、はい……」


 ん、竜人さんが私にお願いって、何だろう?


「じ、自分を、ア、()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 はあ?


この流れで、夕食は何にしようかなー。

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