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第03話 夢博士(3) ☆

気付いた読者もおられるかと思いますが、第1章1話から第2章最終話まで、実は丸1日ちょっと、時間にして30時間ぐらいしか過ぎてないんですよね。

 乗っているのは木造の巨船。吃水は浅い。

 一応、帆を張ってはあるが、風よりもむしろ人力で櫂を漕いで進むのが主動力の、いわゆるガレー船だ。

 私のいた時代、いや、ひょっとするともっと原始的な、旧文明でも古い時代の船だ。

 まわりには剣や斧などの武器を持ち、鎧を着た大勢の人がいる。


 船は一艘ではなく、かなりの数の船団群だ。

 その先頭を進んでいるのが私の乗った船。

 今からどこか別の国を攻めに行くのだ。

 そして私は、その軍勢の主力を成す2つの傭兵団、その一方の団長らしい。

 嫌だなあ。私、別に何の遺恨もない相手と戦いたくなんてないのに。


 傭兵団? そう言えば、「デリーシャス傭兵団」なんて名乗ってた連中がいたなあ。

 考えてみれば、あれはつい昨日の昼のことだ!


 船が揺れる度に小さく「じゃらじゃら」なんて金属音がする。

 私は、青銅か鉄製かの無数の小さな鱗のようなもので身体を覆う、青い鎧を着込んでいるのだ。

 兜は被っていないようだが、全身が重い。


 右手には大剣を持っている。

 これは誰もが知る伝説の名剣で、その名を「真実の剣」とかいうらしい。

 はあ? なんてクサい名前!


 剣に自分の姿を映してみると、20代かそこらの男性になっていた。

 雇われ兵士にしてはシュッとした、うん、そこそこいい男だ。

 少し安心した。


 船の舳先に私より二回りは大柄の、縦も横もぶっとい、いかにもむさ苦しいオッサンが何か大声で怒鳴ってる。

 そのオッサンが戦斧の柄に付けた鎖を振り回して、何か周りを威嚇している様子だ。

 鎖の先端には重そうな、(とげ)トゲの大きな鉄球があって… これがこの人の得意の武器なんだろうけど、人のいっぱいいる船の甲板でそんなもの振り回すとか、危ないから止めて欲しいなあ。


 その禿げ頭、髭面の巨漢は、私が気に入らないらしい。

 不満を露わにした顔、唾を飛ばしそうな大声で、こちらに向かってなかば叫ぶように言った。


「おい貴様、いい気になるなよ!」


 いや、別に「いい気に」なんてなってませんけど。

 むしろ、この状況がよく把握できなくて、戸惑ってるぐらいですけど。


「この戦いの主役は、あくまで俺様だからな。大層な剣を持ってるからって、偉そうにするんじゃねえぞ!」


 ああ、この人は、もう一方の傭兵団の団長っぽい。

 で、だからって、自分の強さを誇示するために私にむやみに突っかかってくるとか、迷惑だなあ。


 するとオッサンは私との間に居並ぶ兵士を押し分けて近づいてくると、いきなり斧を高く振り上げて言った。


「聞こえねえのか! 何ならここで勝負をつけても…」


 私は持っていた大剣を両手で横に薙ぎ払った。

 相手との間にはまだ少し距離があり、斬ったのは空気だけで手応えもなかったが、あらら、その一閃で斧と鉄球が同時に真っ二つになる。


 驚愕する相手に、私は静かに言った。


「わが剣は真実の剣。この世の形あるものは全て斬ることができる。斬れぬものは幻影のみ」


 え? 私、そんな気障なセリフ、これっぽちも言うつもりなかったんですけど!

 我ながら、恥ずかしぃにも程がある。

 どうなってんの?


 その時、声が聞こえた。

 いや、声ではない。私の頭の中に直接響いてくる思念の伝達だ。


「どうだ?」


 え、え? 「どうだ」って、何が?


「これで分かっただろう。夢に現れるものは、全てお前の隠された願望や不安。先の二人の制服姿も、次の傭兵姿も、つまりはお前の願望が、夢として姿を現したものだ」


 いえいえ、私、こんなもの全く望んでませんけど。

 不気味な女子学生とか、恥ずかしいゲーム的世界とか……


「ほとんど無意識の心理活動なのだ。本人も覚えていないような、些細な望みや恐怖が表出するからこそ夢なのだ。起きている時に、心のどこかで、この戦士に女装させたら気持ち悪いけれど面白いかな、とか、自分は一度男になってみたいとか思った事はないか? ゲームの中のような中世的世界に、ほんの少しでも憧れた事はないか?」


 う…、そう言われると、そんなこともあったかも……

 でもさあ、そんなこと言っても、指を鳴らして夢の中で私をあちこちに飛ばしたのはアンタでしょうに。


「ワシ自身には本来は何の力もない。お前が、たまたま夢に出てきたワシを勝手に『自称神』と勘違いして、それにワシが『夢博士』と答えた事で、お前が『こいつには何か不思議な力があるに違いない』と思い込んだから、こういう力を得たのだ。

 もっとも、ワシにそう答えさせたのも結局はお前自身だがな。まあ、つまるところ、夢の中の全ての奇妙な現象は、お前の願望や不安が源泉という訳だ」


 う―ん、わかるような、わかんないような……


「まあ良い。所詮は夢の中の事だからな。だが、本当のお前の生きる現実世界でも、事情は似たようなものではないのか?」


 え?


「教会やヒト族の願望や信仰、魔族の不安や恐怖が、お前の言う自称神の力の源泉ではないのか? たった一人のほとんど無意識の思念でさえ、その者の夢の中ではこれ程の影響力を持つのだ。無数のヒト族や魔族の明確な思念の対象ならば、現実世界において、いわゆる奇跡を起こす程の絶大な力を発揮しても何ら不思議はなかろう。

 神を自称する者を相手に戦おうというのなら、このことは覚えておけ。我、いや、ワシの言いたいのはそれだけだ……」


 そして声は消えた。

 あれ、でも、さっきから「わたし」とか「ワシ」とか、一人称の自称が混乱してるぞ。

 それに今、最後に自分のこと「我」とか言ってなかったっけ?

 もしかすると……


 船は唐突に桟橋に着いた。

 ついさっきまで、辺りに島影もない大海を進んでいた筈なのに。

 それに、これから戦争をしようっていうのに、敵国の桟橋に接岸って変じゃないか?

 とか思ったら、甲板にいた筈の大勢の兵士の姿もいつの間にか消えている。


 その桟橋の突端に家がある、と思ったら私はいきなりその家の中にいた。

 一方の壁の大部分が透明なガラス張りになっていて、陽当たりがいい。

 見たこともないシンプルな形の家具が並んでいる。

 これは私の家だ。訳もなくそう感じた。

 それに、姿も少女に戻っているようだ。いや、これはもっと幼い。おそらく7・8歳といったところかな。


 ここで私を呼ぶ声がした。


「アスラちゃぁーん」


 話し方は気色悪いけど、この声自体はきっとあの人だ。

 声のした方に歩いて行ってドアを開けると、そこはバルコニーになっていて、やっぱりあの人がいた。顔はよくわからないけれど、間違いなく心の声さんだ。

 釣竿を持ち、海に糸を垂らしている。

 隣に座ると


「やっと来てくれたねぇ。パパ、寂しかったよお」


 なんて、また猫なで声で言って、釣竿を放り出し抱きついてきて、頬ずりをする。

 え、これが私の願望?

 何だかなあ、ちょっと違うと思うぞ。


 そこにお母さんがお茶を持ってやって来た。

 ああ、これはガイアさんだ。

 で、二人は、娘の前だなんてお構いなしに抱き合ってキスをする。

 うーん、すっかり立派なバカップル。


 飼い猫もやって来た。お喋りこそしないけど、これはバベル君だ。

 二人がベタベタしてる間、私はバベル君を膝の上に乗せて撫でてやったりして、ちょっと時間をやり過ごし、落ち着いた頃を見計らって聞いた。


「何を釣ってるの?」


 すると二人はびっくりした顔で言う。


「ワニに決まってるじゃないか」

「そうよ。淡水棲のワニと違って、海のワニは泥臭さが無くて美味しいんだから。ちょっと固いけど、肉をよく叩いて、ワインかヨーグルトに浸けておくと、柔らかくなって、ステーキにしてもフライにしても最高。鶏肉に似た風味で、アスラも大好物じゃないの」


 え、海にワニ?

 しかもそれを「釣って」食べる?

 鶏肉に似た味で私の大好物?!

 これは確かに恐怖だ。


 バルコニーの手すりから上体を乗り出して下を見ると、体長3フィート程の小型のワニが、わらわらと何十匹も群がって、釣り糸の先に付いている何かの肉片を誰が食べるか争っているらしいのが見えた。うげげ。


 カモメも寄って来た。餌を貰える時間だと勘違いしたらしい。

 その内の何羽かが私にまとわりついて、顔や頭を突いてくる。

 痛い痛い痛い。


 ここでやっと目が覚めた。

 すると目の前には……!?


ワニは実際に食べる国や地方もあるんですよね。

例えば、アメリカでも南東部(フロリダからルイジアナ辺りにかけては)フライにして、レストランなんかでもメニューにあったりします。

でも、食べた友人の話では、鶏みたいな味だけど固くって、あんまり美味しくないそうです。

あと、本当は海にはワニは居りませんので、念のため……

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