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第02話 迷子

 三人にそれぞれ与えられた部屋は最上階だったので、ここから出口まで行くには、けっこう面倒な迷路めいた通路を辿(たど)らなくちゃいけない。

 あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

 階段を下りたら、なぜか行き止まりで上に戻ったり。

 途中、番犬役と思われる怖い顔のケルベロスがいたんで、その3つの首にそれぞれクッキー(ケルベロスは甘いもの好き!)をあげて吠えないように手懐(てなず)けたり。

 割と人(なつ)っこいケルベロスで助かった。

 それからまた右へ行ったり左へ行ったり。

 で、ははは、結局


 ()()()()()()()()


 もう、案内が欲しいなあ。

 すると


「もしも案内人が必要なら、ここに居るぞ」


 タイミング良く、背後から、そんな声がする。


「ガイアさんっぽい声だったけど、まさか違うよねえ」

「「まさかあ」」

「まさかではない。その通り、ガイアじゃぞ」


 三人揃って振り向くと、げっ、本当にガイアさんだ。


「何をしておるのだ? さっきから三人して、あっちへこっちへと」

「「「見てたんですか?」」」

「見てはおらぬが、城内には用心のために常に感知を働かせておるのだ。それで気付いたのじゃ」

「あ、いやあ、それがっすね、アスラがどうしても散歩に行きたいって言うもんで。俺たちは止めたんすけど」

「そうそう、ワタシたちは気が乗らなかった」


 責任転嫁かよ!


「ここは北方なので、秋になると日の暮れるのが早いぞ。もう外は真っ暗じゃ」

「いやあ、暗くなってからの散歩も、却って風情があるもんすよ」

「では妾も一緒に行こう。たまに夜風に当たるのも良いものじゃ」

「「「はあ?」」」


 ということで、ガイアさんも一緒に外を目指すことになってしまった。


「(小声で)おい、アスラ、お前が責任持って何とかしろ」

「(これも小声で)ん、何とか言いくるめて追い払うのだ」

「えーっ、そんなこと私に言われても」


()()()()()()()


 あ、やっぱり、わかってました?


「ならば妾も一緒に逃げるとしよう。久し振りの自由な外界じゃ。楽しみじゃなあ。わくわくする。お、そこの階段を下に行くのじゃ」

「え、でもガイアさんは魔王じゃないですか? 責任があるでしょう」

「もう妾は魔王ではない。さっき辞めたからな。後は新しい魔王であるアスラの責任じゃ」

「えーっ、そんなあ!」

「ほら、そこの突き当りを右じゃぞ」


 とか言ってるうちに居館から抜け、中庭に出た。

 なんとそこに、なんとなくガン〇ムに似た警備の大型ゴーレム兵がいる。

 これがまた、戦闘用のミスリム製。


「俺に任せろ!」

「あ、ちょっと待って」


()()()()!!!」


 だから、その無駄な大声の気合はやめろって。

 戦う時はいつもこうだから薄々予想はついてましたけど。

 自分から「逃げよう」って言った癖に、これじゃあ台無しじゃん。


「たあーっ!! とおーっ!!」


 はあ、大声で耳だけじゃなくて頭も痛い、ような気がする。

 で、その一体をやっぱり、ガラガラ、ガッシャーンって騒音を響かせて倒すと、お約束の決めポーズを取る。

 ぶっとい腕でこれ見よがしに力こぶ。

 振り向きざま、白い歯を覗かせて暑苦しい笑顔。

 ありえねー!

 うーん、アイツ、殴っていいかな。

 それとも、いっそ蹴りの二三発でも入れて…


「何なのだ、あれは?」

「アレについては私は何も語りたくありません! ガイアさんも、どうか見なかったことにしていただきたい」

「あの様に大きな音を出しては、こっそり逃げる意味が無いではないか。それに、あのポーズは何なのじゃ?」

「だから、しっかり忘れてください」


 ほーら、音に気付いてミスリムゴーレムが何体も集まって来た。


「妾なら、もっと静かに片付けられるぞ」

「えっ、だったらお願い! でも最後のポーズは無しで」

「当たり前じゃ。あんな恥ずかしいポーズを取る位なら、舌を噛んで死んだ方がマシじゃ。では」


 ガイアさんがゴーレムたちをリズムを取るように指さす。

 すると、その順番で1体ずつ、頭、胴体、それに手足が音もなく大小の部品ごとに分解された。

 そしてネジに至るまで、ボールのように跳ねながら音も無く地面に散らばった。


「どうじゃ。各部品の接触面の摩擦をゼロにしてゴーレムを分解し、直後に大気を濃縮して全ての部品にそれぞれ(まと)わせ、静かに跳ねて地面に落ちるように工夫したのじゃ」

「凄いです! こんなの初めて見ました」

「そうか! ふふふ、ならばその心のままに、妾をしっかりと尊敬して良いのじゃぞ」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 あら、背後から聞こえるこの声は……


「わたくしの自慢の大切なゴーレムをオモチャになされて、何のお遊びですかな?」

「ゼブルか! 音で気付いたか」

「音もそうですが、この城のゴーレムは、わたくしの魔力で動いている事をお忘れですか? 故障したり破壊されたりすれば、魔力の繋がりが途絶えるので即時分かりますとも」

「しまった、忘れておったのじゃ」

「で、この有様は何なのか、御説明頂きましょうか」

「あ、いや、これはアスラが外に散歩に行きたいと言うので、それも良いかと思っちゃったりして」

「はあ、また私のせいに?」

「ほほう、それでガイア様も御一緒に?」

「そ、そうじゃ。妾もたまには夜の空気を吸いたくなっちゃっちゃ、あ、噛んだ」

「ふーん、そうでしたか。その為に、わざわざ警備のゴーレムまで破壊して」


 あ、これはまずい。

 顔は笑ってるけど、目は全く笑ってない。

 口調こそ穏やかだけど、頭から湯気が出てる感じ。


「ではアスラ様、どうぞこちらへ。場所を変えて、ゆっくりとお話を致しましょうか」

「えーっ、なんで私だけ。せめてガイアさんは?」

「ガイア様は良いのです。もう魔王を辞められたのですから」

「そんなあ」


 あーあ、今からたっぷりお説教かよ。

 とほほ。


やっぱり脱走失敗!



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