第47話 無敵海賊艦隊?
「あっはっは、見違えたかいな。どうじゃい、この非の打ちどころのない完璧な海賊姿。やっぱ格好は大事じゃ。そうじゃにゃーと気分が盛り上がらんけ」
はあ、でも、外見や恰好から入る人って、ろくな結果が出ないケースが多いような気がしますが。
ほら、初心者なのにウエアや道具は立派なのを買っちゃって、全然上達せずに、すぐに飽きちゃうとか。
(何の話じゃ!)
「特に気に入っとるのはこの帽子じゃあ。両脇と後ろのつばを折り返したトリコーンさあ。海賊船長は、やっぱ、こうでなくちゃいけんわい」
あ、いえ、凄ーく有名な海賊さんに、麦わら帽子をかぶった人もいらっしゃったような。
ほら、あの、手も足もびよーんとか伸びる人。
(こら! 危険な発言は慎め。訴えられるぞ)
「絵に描いたような見事さと思わんかい。まあ、絵をもとにデザインしたのだから当然じゃがな。わっはっは。どうした? ここは笑うところぞい」
「はは……」
「これで片腕が鉤爪だったり、顔に大きな傷があったり、片目が無くて眼帯でもしちょったら完璧じゃけんどな、まあ、そこは勘弁して貰おうかい。わっはっは、ほれ、お嬢ちゃんも子供たちも遠慮ばせんで、笑うばい」
「「「はっはっは」」」
「なんじゃ、元気が無いのっし。まあええ。ワシは気持ちがますます昂ってきたぞい。おーし、教会軍なんじょ、ひと捻りじゃあ」
意気上がる爺さんの放言を聞きながら、私たちは港へと向かう。
港に着くと、びっくりしたことに、埠頭には既に多くの船が勢揃いしていた。
「海賊衆はなぁ、半農半漁ならぬ半漁半海賊《ゴロが悪いなあ》じゃけん、常に船の整備は怠っちょらんぜよ」
大型船の全艦に、髑髏の下に湾曲した剣が交差した図を描いた旗。
おお、初めて見た。
風雨に晒され年季の入った、正真正銘の「ジョリー・ロジャー」だ。
ちょっと、期待できそうな気がしてきたぞ。
船も普通の軍船とも輸送船とも違う、特異な形。
吃水は浅く、帆船だが、風のない時も航行したり小回りが利くように多数の櫓を備えている。
(遠洋の航海には向かないが、近海の浅い海での戦いには最適だな)
そしてなんと、狭間から顔を覗かせる多数の大砲!
「驚いたかいよ。なにしろ、この地には、かつて侵略者の火器にしてやられた悲惨な歴史があるけぇのう。じゃけん、二度とそげん事が起こらんように、火器はちゃーんと装備してごわすべっちゃあ」
ごわすべっちゃあ!
今更だけど、どこの方言だ?
「ワシも若い頃は、この無敵艦隊を率いて暴れまわり、バルバロッサ・ルイジ、つまりじゃ、赤髭のルイジと恐れられたもんじゃもんじゃ」
無敵艦隊!
赤髭のルイジ!
もんじゃもんじゃ!
「嘘だべさ。ワシの若い頃はもう、海賊をしようにも、獲物はここらにも、どこにもおりゃーせん。魔導大戦後やさけえのぅ。無敵ちゅーのも、たーだ敵もいっかな居らんかっただけじゃあ。わっはっは!」
「嘘ぉ? はぁ、そうですか。それで、もんじゃもんじゃって?」
「知らんのかえ。古代のある国の言葉の強調法だあ。語尾を繰り返して強い気持ちを表すさあ」
「じゃあ、特に強調したい時は語尾を3回も4回も?」
「わっはっは、それも嘘だぴょーん。信じおったけぇ。おっかしいだにゃーも」
それも嘘!
ぴょーん!
このクソジジイ、元気になったと思ったらこれかい。
好き放題に暴走しやがって。
殴っていいかな?
それともいっそ、老い先短い寿命を更に縮めてやろうか。
(おい!)
そうこうするうちに港に集まった人の数も増え、弾薬の積み込みも完了したようだ。
爺さんに指示されるまでもなく、軽装の海賊衆は船に乗り込み、鎧を着込んだ兵士たちは海岸で陣形を整える。どうやら、討ちもらした敵の上陸に備えているらしい。
(手際が良いではないか。なかなかの訓練を積んでおるな)
私たちは爺さんに連れられて、中央の桟橋に接舷された3隻のひときわ大きな船に向かう。
近付いてみると、遠目にも他と違って真っ黒に見えたその船はなんと
「鉄甲船ばい」
マスト以外は艦橋も甲板も側舷も全て鉄の船だ!
「全て鉄造りという訳にはいかんかったが、木造の船に鉄を張ってある。大砲や銃の弾なんか、軽く跳ね返すけぇ。さすがに漁には使えんが、この3隻は万一の海戦の時には心強い主力だすけ」
こ、これは予想以上!
今日だけ海賊艦隊、侮れず。
「錦地に菊の花の旗があったじゃろう。あの旗を皇帝軍の旗としていた二ホンちゅう国があったのは知っちょるけぇ?」
私は船を見た驚きにちょっと言葉を失ったまま、黙って首を縦に振る。
確かにそういう旗があった。
アマテラスとかいう名の太陽の女神を祀る、二ホンの民族の旗だったはず。
「この3隻は、その国からやって来た者たちの子孫に伝わる話を参考に作ったさあ。昔々のぉ、オーサカ湾の木津川口ちゅうところで起こった海戦で、『ノブ』たら何ちゃらいう名の極めて先進的な武将が造らせた鉄の船がよぉ……(以下省略)」
はいはい、ジジイの好きなウンチクはもういいです。
「船の名を聞かんのかいな(聞いて欲しいらしい)」
「はぁ、船名は何ていうんですか(かなりウンザリしながら、嫌そうに)」
「ほーか、知りたいか(いかにも嬉しそうに)」
「いや、無理に知らなくてもいいような気も……」
「聞いて驚け。『やまと』號さあ! シッダ様の話では『アルカディア号』とか『タートル号』とかも良さげだったがのっし、やはり『二ホン』の民に敬意を表してそう決めたっぺ」
おお、かの有名な宇宙戦艦か!
でも、この船は残念ながら宇宙は飛ばないけどね。
(大和はともかく、アルカディア号もタートル号も、全て架空の宇宙海賊の船の名ではないか。シッダ様とやらも、この爺も、大概のマンガの知識とパクリ癖だな)
爺さんは私たちのそんな感想も知らず
「出港じゃあ!」
と,意気揚々とした合図を発した。
船は帆を張り、帆は風をはらむ。
どーん、どーんと規則正しい太鼓の音が響き、音に合わせてわっせわっせと櫓が漕がれ、水しぶきを上げる。
鉄張りの巨船はさすがの重量だ。
帆と櫓の両方の推進力でさえも最初はごくゆっくりと、そして次第に速度を上げ外海へと向かっていく。
湾を出てほんの少し行ったところで、艦隊は湾の入り口を封鎖するように陣形を左右に広く展開して静止した。
ざっと数えてみると、大型艦がおよそ30隻、中型艦が50隻、小型の船が70艘といった、それなりの陣容だ。
でもねえ、教会軍はなんせ300隻だからねえ。
この陣形だと、少し真ん中が薄いんじゃないか。
もしも敵艦隊が中央突破を狙ってきたらどうするんだ?
(300といっても全てが戦闘艦とは限らぬ。おそらく半分程は輸送船だろう。それに、中央の鉄甲艦によほどの自信があるのだろうよ)
でもさあ、両翼の船はみんな側舷を晒してるよ。
横っ腹はそれこそ船の弱点じゃ?
(お前は船の戦いに詳しいのか?)
うっ、それは知識で知ってるだけで。
(浅薄な知識など実戦では何の役にも立たぬ。まあ、この爺と海賊衆とやらに任せておけ)
「おい、敵はまだかい? いつ来るんか教えい。レーダー代わりじゃ」
レーダー!
またまた、超近代的なことを……
「オスカル君、敵は今どのあたり?」
「は、は、はぃぃ。もう30分ぐらいで現れるはずですぅぅぅぅぅ」
「どうしたの。いつもに増して気弱な話し方じゃない」
「は、はぃ。海に落ちたら犬掻きぐらいしか泳ぎができないので、もう、怖くって怖くってぇぇぇ」
ありゃりゃ。
そんなことなら陸に残して、海岸の守りに就けておいた方が良かったなあ。
そして待つこと30分あまり、ついに教会の船団がその姿を見せた。
さあ、いよいよ海戦の始まりだぜよ!
Today’s Mission:敵船隊の壊滅 or 撃退!
(当たり前ではにゃーか。何を今さら、分かり切った事を大声で言っとるけぇ)(心の声さん・談)