プロローグ …… 神はなぜ、我ら人類の愛おしき子供たちをそんなにも憎み、滅ぼそうとなされるのか? ☆☆
Fine Del Mondo!(フィーネ・デル・モンド)とはイタリア語で、直訳すれば「世界の終末」という意味。そこから転じて、この上なく美味しい料理を食べた時、有名な Buono!(ボーノ)、またはその最上級の Buonissimo!(ボーニッシモ) にもまさる感嘆の言葉としても使うのだそうです。
料理の味を激賞するのに「この世の終わり」とは!
では、こんなお話はいかがでしょう。
舞台は、どこかの異世界や遠い宇宙の彼方、とかではなくて地球。
文明が栄華を極めては崩壊し、時を置いて、また別の文明が栄えては滅ぶ、そんなことが幾度も繰り返された末の、はるか未来の物語。
神はお考えになった。
なぜ人類は、こうも容易く自滅の道へと進むのか。
それも過去の失敗から一切学ぶこともなく。
ある時は科学と称して大地に蓄えられた資源を枯渇させ、大気や海を汚染し、ある時は魔導と称して決して手出ししてはならない自然の力を操り、ついにはあろうことか生きとし生けるものの遺伝子を弄んで、魔物を生み出し、自らも魔族と成り果てるに至った。
当たり前のように互いに相争い、再び一つの時代の文明が滅ぶ。
その末裔が現在のあ奴らではないか!
これはもう進化とは呼べない、慈悲に値しない歪な末路だ。
ならばいっそ新しい人類を創るとしよう。
我の教えに忠実な、まっさらな人類、そ奴らに古い人類、今は魔族となった者たちを駆逐させるのだ。
彼らには、他の戒律に加え、美食に対する欲求を最大の罪とし、美味を感じる器官も与えないこととしよう。
人の一生は食の快楽から始まって物欲・色欲へと進み、それらが叶えられると傲慢・怠惰に浸り、叶えられなければ憤怒や嫉妬の念に駆られる。
文明の爛熟、腐敗の過程も同様だ。
美味を志向する社会は、いずれ例外なく技術や利便に偏向し、労働なき富を求め、良心なき快楽に耽溺するようになる。
そのうえ始末の悪いことに、食の快楽は他のあらゆる種類の快楽に伴うことができ、それらを助長するではないか。
そして際限なき欲望ゆえに秩序は害され、平和は乱れ、世界は破滅に向かうのだ。
まさしく美味への希求こそは堕落への一歩であり、核心でもあると言える。
人は皆、敬虔であり、無垢であるべし。
そのために、一切の美食も、美味を求める試みも禁ずる。
そんな身勝手な神(?)によって遣わされた新たなヒト族は、その旺盛な繁殖力によって急速に数を増し、今は魔族と呼ばれるようになった旧人類の多くを駆逐して地に蔓延った。
激しい攻防が延々と続くこと二千数百年。大方においてヒト族の優勢に推移してきたその戦況も、しかしながら、今代の強力な魔王の登場以来、これまでにない長い膠着状態に陥ってしまっている。
という時代の、ある大陸から本編は始まります。
さあ、始まり、始まりぃー!
(あまり調子に乗るなよ。ちと、はしゃぎ過ぎではないのか?)
えっ? 誰の声?