第1話:『異世界転生屋』
俺は、昔から異世界転生に憧れていた。
異世界転生のライトノベルが流行っている今、俺はどうやって転生できるかなどを考えていた。
「やっぱ自殺すればいいのかなぁ」
しかし、転生できるかもわからない現実世界で自殺はばかばかしい。
俺は、別に病んでいるわけではない、別に死にたいわけではないのだ。
そんなある日の夕方のことだった。
東京、新宿西口の歩道橋の下を歩いていると、
「占い」と書かれたダンボールの看板を持って座っているおじさんや、ホームレスが眠っている人がいる中で、一人、
「異世界転生屋」というダンボールの看板を持った長い白髪で長い髭の生えた、おじいさんが座り込んでいた。
俺は、胡散臭いと思いながら通り過ぎていく。
しかし、やっぱり気になる。
俺は、京王線の改札口まで行っていたが、また「異世界転生屋」のところまで戻っていく。
どうしよう、話しかけてみようかな。
そう思った時には、もう異世界転生屋のおじいさんに話しかけていた。
「すみません、異世界転生屋ってなんですか?」
おじいさんはお客さんが来なさすぎて珍しかったのか、目を丸くしていた。
「童よ、そなたは珍しい人間じゃ。わしに話しかけてくる人は滅多にいない」
まあそんな見た目だもんな、とツッコミそうである。
というか、よくこんな人に話しかけたものだと自分でも感心していた。
「そうなんですか」
「童は今、異世界転生屋とは何か、と申したな?」
おじいさんは興奮気味に話す。
まるで酒で酔っ払っているような具合だ。
「はい」
「異世界転生屋は、希望者の異世界転生を支援するのじゃ。童はわしに話しかけたと言うことは、もしや、異世界転生を希望する、ということかの?」
「異世界転生できるんですか!?」
俺は夢を見ている感覚だった。
現実でこんなことがあり得るのだろうか。
いや、ありえないだろう。
こんなのは嘘に決まっている。
「そうじゃ、しかも今なら無料で転生できるのじゃ。そのかわり、転生場所を選択することは、不可能じゃ。どの異世界になるかわからないから、心の準備が整っておらんと苦労するぞ。実際、変な世界に飛ばされて自殺したやつだっておる。慎重に決めるが良い」
俺は、この話が信用できなかった。
どうせ嘘だろ、こんなの。
まあ、無料なんだ。
この話、乗った!
「俺は、心の準備ができています」
おじいさんは再び目を丸くする。
「わしの人生で出会った中で、お主が一番輝いておる。安心したまえ、こっちの世界では、お主は存在しなかったことになる」
存在しなかったことにか。
少し悲しい気もする。
しかし、この世界には悔いはない。
「準備はよろしいか、童」
「はい」
「じゃあ、こっちに来るが良い」
俺はおじいさんについていく。
JR新宿駅の改札に入り、JR総武線のホームに上がる。
するとおじいさんは杖をもって、なにやら呪文をぼそぼそと唱え始めた。
やがて、紫色の不思議な光を放つ。
その光がどんどんと眩しくなって、なにもみえなくなる。
そして、光が消えると、新宿の街が暗闇に包まれていた。
「ここは裏の世界じゃ」
「裏の世界?」
ホームには7と4分の3番線と書いてある。
ん?ハリ○タ??
「そうじゃ。あと1分後に童を異世界に連れていってくれる電車が来る」
ポッポーと汽車の警笛が聞こえてきた。
そして、その汽車はプシューと音を立てて、止まった。
「さあ、童よ、いくのじゃ」
「ありがとうございます」
俺は胸を踊らせながら汽車に乗った。
俺以外誰も乗っていない。
ポッポーと大きな警笛を鳴らし、裏新宿駅を出発した。