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9)リリンの帰還としゃけとたるたるそーす


大都市サルーンの端の端。城壁にへばりつくように並んでいる街並みの、さらに細い裏路地を入ったところにある、「食事」の看板。


入るのに勇気がいるその扉を開け「戻りましたぁ〜〜」と声をかけるのは、帽子を深くかぶった見た目は少女と呼べそうな女の子だ。店に入り、帽子を脱ぐと、狐耳がぴょこんと飛び出した。


「ああ、お疲れだ。それで、首尾はどうだ?」


薄暗い店内の厨房には、体格の良い男が一人。凄みのある顔でこのようなセリフをはけば、もはや怪しい取引以外の何物でもないように思える。


「遠かったですよ〜、でも、言われた通りに、買い求められるだけの量を買って、冷凍魔法で凍らせてきました〜」


狐耳の娘は荷車から下ろして、店内に山と積んだ荷物を男に見せると、男はニヤリと「上出来だ、リリン」と言った。


そのセリフを聞きながら、リリンと呼ばれたカウンターに突っ伏す。

「ちょっと海まで行ってきてくれ」と頼まれたのはもう10日以上前のことだ。安易に「わかりました」と答えたのが間違いだった。

サルーンは内陸部にあり、海までは恐ろしく距離があるということをリリンは知らなかったのだ。


それでも行きは良かった。人目に触れないところからは空を飛んで行ったので、さしたる日数をかけずに行けたのだ。

だが、帰りは大量の荷物がありそうは行かない。事前に店主であるカーヴァインから渡された資金には、荷車や荷物を詰めておける樽の現地調達費用も含まれていた。


つまり、帰りはこれらをひたすら引きながら、延々とサルーンまで帰ってきたのだった。

リリンとて魔族の端くれである、魔法が得意とは言え、人族に比べれば身体能力は高い。それにしたって疲れた。


そんなリリンを横目に、店主は、樽から戦利品を取り出し「おお、これは、、」とか、「こんなものも売っていたか、、」などと言いながら、冷気の魔法がかかっている箱の中へといそいそと仕舞ってゆく。


途中で、その箱から果実と氷を取り出すと、絞ってリリンに提供してくれた。

コクリと口に含むと、強い酸味と、後からくる甘みが疲れを癒してくれる。


一通り仕舞い終えると、カーヴァインは「よし」と呟き、


「頑張ってきた礼に、うまいものを食わせてやろう」と、リリンが仕入れてきた魚の中から一つ、取り出した。


果実水をこくこくと飲みながらカウンター越しにカーヴァインの手元を眺めるリリン。

まな板に置いた魚から、凍ったまま身の一部を切り出すと、中から現れたのは目に鮮やかなオレンジ色。


「すごい色していますけど、、、食べられるのですか?」


リリンは食べられないものを買ってきてしまったのかと、少々不安げに尋ねる。


「もちろんだ。この色は、エビのような生き物を餌にしているから身が赤くなる、鮭という魚だ、美味い」


「しゃけ。。。」


鮭の身は早速焼き始める。その間に鍋に卵を投入。


それからカーヴァインは卵黄と油、それに酢と塩を加えてかき混ぜ始める。

しばらくかき混ぜていると全てが混ざってぼってっとした固形物へと変わってゆく。マヨネーズの完成だ。


すると今度は茹で上がった卵の殻を剥き、細かく切り分け、合わせて瓶に詰めて漬けられていた緑の野菜を取り出した。


興味深そうに覗いているリリンに「胡瓜のピクルスだ。このままでも美味い」と言って、ピクルスを小皿に乗せて出してくれる。


齧ってみると、思ったよりも歯ごたえがあり、酸っぱい美味しさが口に広がる。


「面白い食べ物ですね」とリリンが感想を述べる間ににも、カーヴァインは鮭の焼き加減を見ながら、先ほど刻んだゆで卵とピクルスをマヨネーズに和えた。


「それは何ですか?」


「これはタルタルソースと言う。味の濃いものに合わせると、すこぶる相性のいいソースだ」



再び鮭の焼き加減を見るカーヴァイン。


「よし、焼けたな」


鮭の身にしっかりと火が通って、程よい焦げ目がついたのを確認すると皿に盛り、先ほど作ったタルタルをかける。


「焼き鮭のタルタルソースかけだ。タルタルしっかり絡めて、どうぞ」



差し出された皿をまじまじと見ていたリリンは、「あったかいうちに」と言うカーヴァインの声に「は! はい!」と慌ててフォークを掴む。


身を切り取り、言われた通りにタルタルをたっぷりとまぶしたシャケのみをぱくり。


しゃけの柔らかな身が口の中でほろりと崩れる。豊かな油分と強い味を感じる魚だ。そしてたるたるそーす! しゃけの身を全て包み込んで、優しい酸味と大きめに刻まれた卵が味わい華を添える。時折主張してくるピクルスの酸味もいい感じだ。



夢中で食べるリリンに、カーヴァインが声をかける。



「リリンの持ってきた海鮮、ほかにもたくさんの美味いものになる。楽しみにしていろ」



リリンはしゃけをモグモグしながら、無言でひたすらコクコクと頭を振るのだった。





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