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4)カリ、プチ。陶酔の胡麻団子


魔王幹部のカーヴァインの朝は早い。

彼が起きたのは人気のない山裾にある自作の掘っ建て小屋である。

粗末なベッドから降りて伸びをすると、建て付けの悪い扉を開けた。



カーヴァインの眼前には広々とした畑が山の方まで伸びている。

環境に合わせて育てる場所を変えるためだ。ここは彼が世界中を飛びまわって、向こうの世界と同じかよく似た食材を集め、育てている畑である。


今日収穫を楽しみにしていたのはコレだ。指の長さ程度の枯れ枝のような物をカゴへと投げ込んでゆく。

その拍子に、いくつかの枯れ枝から中身が飛び出した。


飛び出したのは、紅く、つやつやとした小さな実だった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「なんですか? その、黒いの?」


最近よくこの店に来るようになった、女性の2人客。

若い方がエミリア、もう1人がレイアと言うらしい。深く詮索はしていないがやりとりを見る限り、エミリアという娘はそれなりの身分の人間のようだった。


その、エミリアの方がカウンターからこちらを覗き込んでいる。


「これは餡子という」


「アンコ? たべられるの? それ?」


懐疑的な視線で餡子を見つめるエミリア。


「まずはこのままで食べてみるか」


と聞くも、真っ黒な見た目に少々二の足を踏んでいる。


「このままでも甘くて美味い」


カーヴァインがそのように添えると、「甘いの!? それ!?」とエミリアが驚くと同時に目を輝かせ、食べると宣言した。


現金なものだと少し苦笑しながら、小皿に2人分の餡子を取り分けてやる。

一口程度の量だが十分だろう。


甘いと聞いたので食べて見たいと思ったエミリアだったが、近くで改めて見てもとても甘いものには見えない。

顔に近づけて見たり、匂いを嗅いでみたりしているうちに、レイアがパクリと口へ運ぶ。


驚愕の表情でレイアを眺めるエミリア。レイアはしばらく咀嚼すると、うっとりと頬に手を当てた。

レイアはうまい物を食べると頬に手を当てる癖があるようだ。


それを見たエミリアも思い切って餡子を口へ。


少しして「あまぁ〜い」と満足げな言葉が返って来た。反応が大仰なこの2人の客は見ていて飽きない。



そんな2人の反応を聴きながら、カーヴァインは水と白玉粉もどきと砂糖をこねてゆく。

だんだんと弾力のある生地に変わる様は、楽しい時間の一つである。


耳たぶほどの柔らかさになった生地に、餡子を包む。ひとつひとつ、丁寧に。



そして忘れてはならないのはこれだ。胡麻。

こんな小さな粒が料理にどれほどの影響を与えるものかと疑問だったが、作ってみれば胡麻こそが主役ではなかろうかと言わんばかりの存在感を発揮する。



生地に満遍なく胡麻をつけると、鍋に満たした油の中へ。油の温度は低め。


「え!? 甘いものを油の中に!?」エミリアが驚いた声をあげる。


「まぁ、見ていてください」


少しするとプチプチと胡麻団子に熱が入ってゆく音がする。少しづつ揚がり始めると、その身をゆっくりと浮き上がらせた。

頃合いを見て引き上げた胡麻団子の油を切ると、2人の前に2つと、自分のところにも2つ置いた。


「どうぞ。胡麻団子です。熱いので、お気をつけて」


「ゴマダンゴ、、、、」


聞き慣れぬ料理名と、甘いものを油で揚げると言う珍妙な調理方法。しかし、中に入っているアンコは甘くて美味しかった。

これならハシという食器でも食べられそうだ。ハシを握ると、胡麻団子にざくりと刺した。


その感触だけで外側がパリパリしているのがわかる。


ふうふうしてから一口。


「あっふい!」


なんとかひと欠けかじり取ると、最初に油の風味、直後に強烈な木の実のような香りが口の中を支配する。先ほどのアンコにこのような風味はなかった、外側についた胡麻、という実から発せられた風味なのだ。小さいのにとても香ばしい。


そして食感、外側のパリパリを越えると、なかはしっとりモチモチとした優しい食感。そしてその中から先ほどの甘いアンコの味わい。


陶酔の味とはこのようなものの事を言うのだ。そう、エミリアが確信しながらレイアを見ればやはり頬に手を当ててうっとりとゴマダンゴをかじっている。そして正面に目をやれば、なぜか店主もうっとりと胡麻団子を堪能していた。


その視線に気づいたカーヴァインが


「温かいうちが美味しいですよ」と勧めると、エミリアも慌てて次のひと齧りに取り組むのであった。


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