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うまい物を喰わせたい魔王軍幹部と、うまい物を喰いたい第11王女  作者: ひろしたよだか


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18/19

18)冒険家と第11王女

今年一発目の更新! 何とか月一更新目指します〜


 コトコト、コトコト。


 大ぶりに切った大根には十字の切れ目を入れて。


 コトコト、コトコト。


 じゃがいもは火が通りやすいように小さめに。


 コトコト、コトコト。


  しっかりと水分を切った豆腐を油で揚げる。パチパチと小君良い音を立てて、豆腐はきつね色に変わってゆく。


 コトコト、コトコト。


 棒に刺してしっかりと炙った練り物。


 コトコト、コトコト。


 忘れてはいけない茹で卵


 コトコト、コトコト。

 

 手頃な大きさに切ったメイン食材は串に刺して。


 コトコト、コトコト。


 コトコト、コトコト。


 コトコト、コトコト。


 お出汁の良い香りが、狭い店内にふわりと漂っている。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 今日もお出かけ~と、鼻歌まじりに宮殿を歩くエミリア。その後ろに側仕えのレイア、護衛役のリリカが続く。いつもの3人が宮殿を出ようとしたところで、後ろから声をかけるものがあった。


「エミリア様! お待ちください! エミリア様!」


 振り返れば見知った高齢の男性が、息を切らせながらこちらへ走ってくる。名前は知らないが、顔に見覚えはある。お父様付きの文官だ。


「どうされたのです?」


 文官の息が整うのを待って、エミリアはなるべく上品な態度で質問する。


「お出かけになられるところ、申し訳ございません。王がお呼びでございます」


「お父様が? 何のご用かしら?」


「私からは何とも、、、とにかくご同行いただけませんでしょうか」


 文官はお父様ではなく、”王”が呼んでいると言った。つまり公務として呼びつけられたらしい。であれば、エミリアに断るという選択肢はないに等しい。本日のお出かけは中止とせざるを得ないようだ。


 「、、、わかりました、レイア、リリカ、参りましょう」


 エミリアは文官には見えないように小さくため息をついて、文官の後についてゆくのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「来たか、エミリア」


 呼ばれたのは玉座の間ではなく、歓待の間の方だ。公的な謁見よりも少し砕けた会談に使用される。


「失礼致します。ごきげんよう、お父様。リベリアお姉様。そちらのかたは、、、」


 歓待の間にいたのは、お父様と第6王女のリベリア姉様と見知らぬ男性。顔中に髭を生やし、とても貴族には見えないが、服装から察するにそれなりの人物のようだ。同席するリベリア姉様は先日失脚した第4王子、オーサル兄様の後釜に座ったと聞く。


「そうか、エミリアは初めてだったか。こちらは冒険家貴族のハロルド侯爵。名前くらいは聞いたことがあろう」


「まぁ、あのご高名な! 初めまして、エミリアでございます。お会いできて光栄ですわ」


 冒険家貴族のハロルドといえば有名人だ。とにかくひと所に落ち着いていない性格で、若い頃からちょくちょく放浪の旅に出ている。ここまでならはただの穀潰しの放蕩息子だが、ハロルドは中々に規模の大きな男で、魔族領へ足を踏み入れて情報を持ち帰ったり、近年では大海原へ飛び出して、新しい島や珍しいものを発見したりと、国に益をもたらしている。


「こちらこそ、サルーンの秘宝と呼ばれるエミリア様にお会いできるとは、光栄の至り」


 サルーンの秘宝はとまた大袈裟な、とエミリアは内心げんなりする。最近ちょこちょこ耳にし始めた言葉だ。誰が言い始めたかわからないけれど、エミリアは王の器たる才能を隠し持っているのではないか、という意味らしい。はっきり言って迷惑である。


 ひとしきり社交辞令が終わり、エミリアが席に着くとサッと紅茶が用意される。少し香りを楽しんでから、やおら口を開く。


「それで、私が呼ばれたのは、どういった、、、?」


 エミリアの言葉に答えたのは王だ。


「うむ。エミリア、お前は普通の貴族、王族にない発想をしておる。その柔軟な頭脳で、ハロルド侯爵を歓待して欲しいのだ」


「歓待ですか? けれど、私、他の兄弟のようにハロルド様が喜びそうな素敵な景色の領地もありませんし、珍しい宝物も持っておりませんけれど、、、せいぜいが、この街をご案内するくらいしか、、、」


 その言葉を聞いて、ハロルドがパンと手を叩く。


「エミリア様! 美しい風景や珍しいものなど見飽きました。今の私にはそういうのが良いのです!」


 そのように言うハロルドの目には、何か焦燥感のようなものが感じられた。


「えっと、どういうことでしょうか?」


「実は私、以前ほど冒険に魅力を感じなくなってしまったのです、もう、見るべきものは見尽くしてしまった気がしてしまって、、、困ってしまい、僭越ながら引退も視野に王にご相談差し上げたところ、リベリア様のご協力のもと、気持ちが上向きになるような珍しいものを拝見させていただいたのですが、、、」


 それでも心が動かないなら、もう引退させてあげれば良いのでは? とは言えない。王が引退を惜しむなら、何かしらの理由があるのだろう。


「そこで、お前だ」


「私ですか?」


「うむ。お前は普段サルーンの街中を好き勝手に歩き回っておるであろう。そんなお前の視点でハロルド侯爵を連れ回せば、また新しい発見があるのではと思ったのだ」


「、、、はぁ、では、いつも通りに街を歩き回れば良い、と?」


「うむ。それで構わん」


「どうか、、、、よろしくお願い致します」


 ハロルド侯爵が立ち上がって深々と頭を下げ、急遽私は侯爵を連れて街へ出かけることになったのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「私に気遣いは無用」と言うので、言葉通りに受け取っていつも通り歩き回ることに決めたエミリア。最近生まれた子犬を見に下町へ足を運んでみたり、城壁の工事を眺めに行ったりする。城壁工事は一年中どこかしらで行われているので、それを眺めるのが楽しい。かと思えば通りに出て屋台の品物を物色する。


 レイアとしては、さして面白くもないところばかりを散々連れ回されるハロルド侯爵がいつ怒り出すかと内心ハラハラしていたが、ハロルド侯爵は楽しそうだ。心なしか口調も軽くなっている。


「なるほど、大都市の下町というのも一つの冒険ですな」


「冒険家のハロルド様なら、下町なんてその気になればいつでも来れるのでは?」


 エミリアの何の気なしの言葉に、ハロルドはちょっと困った顔をする。


「なかなかそうも行かぬのですよ、これでも一応貴族ですので、許可なく他領の街をほっつき歩けば差し障りがある。もし何かあれば先方の手落ちともなりまねませんからな、そんな迷惑をかけてまで出歩くわけにはまいりません。。。。そうだ、もしかすると、私が外の世界に目を向けたのは、貴族付き合いの煩わしさからというのもあるのかもしれませんなぁ」


「気を使うのって疲れますものね」


「左様左様。畑と知らずに踏み込んでそこの親父に叱られたり、見知らぬ村の給仕もおらぬ飯屋で、何が出るかも分からんとドキドキしながら料理を待ったり。肩肘張らぬ生活が性に合っておるのです」


「あ! それなら夕食も食べていきませんか!? 良ければですが?」


「ほう、城に帰らずに街で夕食ですか。悪くないですな」


「レイア! リリカ! あの店に行きましょう!」


 嬉しそうに言うエミリアに、最初から完全にそのつもりだったなと、レイアは少し呆れながらも微笑んだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 大都市サルーンの端の端。城壁にへばりつくように並んでいる街並みの、さらに細い裏路地を入ったところにある、「食事」の看板。


 控えめに言ってもとてもまともな料理は出てこなさそうな外観に、ハロルド侯爵は少し尻込む。


「こ、ここですか? もしかして、エミリア様の初めてお入りになるとか?」


「いえ? よく来てますよ。さ、行きましょう」何の躊躇もなく扉を開けて中に吸い込まれてゆくエミリア。ハロルド侯爵も覚悟を決めて店内へ。


「いらっしゃいませ、あ、エミリアさんお久しぶりです!」


「あ、リリンさん、こんにちは。食材探しから帰ってきていたのですね!」


「そうなんです! って言っても、またすぐに出かけるのですけど、、、」


「もう、カーブさん! あんまりリリンさんをこきつかってはダメですよ!」


 薄暗くて狭い店内にもかかわらず、給仕がいるのにも驚いたが、エミリアの反応にも驚いた。本当にこの店の常連だったのか。


「ハロルドさん、こちらへ!」


 入店するにあたって、エミリアからここでは身分を隠しているので、そのつもりで対応してほしい。ハロルドも一市民のつもりで楽しんでほしいと頼まれていたので、ハロルドも自分の考える市民の雰囲気を醸し出しつつカウンターへ座る。


 店内にはすでに良い香りが漂っており、ハロルドの期待感は自然と高まってゆく。


「カーブさん、今日は何を作っているの?」


 エミリアは厨房にいる体格の良い男に気さくに話しかけると


「今日か? 今日は、”おでん”だ」と返ってきた。


 それは、幾多の冒険を乗り越えたきたハロルドでも聞いたことのない料理名だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「どうぞ」


 それぞれの前にお皿が用意されて、そこにとん、と円柱の野菜が置かれる。茶色っぽくて美しい色味ではないが、妙に食欲をそそる。


「これは?」


「大根だ」


「大根にしては何だか色が変わっているわね」


「出汁が染み込んでいるからな」


「だし?」


「まあ、食べてみろ」


 店主とエミリアの会話を横目で見ながら、エミリアがフォークで大根を突き刺すのを見て、それに倣う。会話からしてエミリアも初めての食べ物だろうが、躊躇なく口に運んだ。


「ほふっほふっ、あっひゅい!」


 およそこの国の王女がしてはならないような表情をしながらも、大根を噛み砕くと「美味しい!」と叫んだ。


 それを見てハロルドも大根に口をつける。


 どれほど煮込まれたのであろう、ほろりと崩れた大根の中から、スープの旨さが爆発する。


「あふい!!」


 エミリア同様にハフハフしながら大根を噛み砕いてゆく。熱いが、美味い。このスープ、だしといったか、どこか記憶の奥底にある味わいが見え隠れする。


「もしや、、、魚介のスープか」


 思わず呟いたハロルドに、店主がニヤリとしながら「ほう、わかるのか」と言った。


「王都ではあまり魚介は出回らぬと聞くが、、、」


「この出汁には鰹節を使っているからな。別に海から遠くても問題はない」


 そのように言って取り出したのは、


「木の棒?」


「違う。これは魚を干し固めたものだ」


 そう言って薄く削り取ると、「食べてみろ」とハロルドの前に突き出す。どう見ても木片だが、ここで断るのは冒険家の名が廃る。ハロルドはそれをつまんで口へ放り込んだ。すると、鼻に抜ける心地よい風味と、僅かに感じる魚の旨味。


「これは、、、うまいな」


「だろう」店主は嬉しそうにして、次の品物を皿に出してくる。皿を取り替えることはない。見たところ、同じ出汁でさまざまな食材を煮込んだ料理のようだ。


「じゃがいもだ」


 食べ慣れた食材だが、これも味が染み込んでうまい。


「厚揚げだ」


「あつあげ?」


「豆腐を揚げたものだ」


「とうふ?」


「、、、まあいい、食べてみろ」


 厚揚げは外の狐色の部分に多く出汁が染み込んでいて、中はほろほろととても優しい味がする。


「ちくわだ」


「ちくわ? なぜこの食材は中央に穴が空いているのだ?」


「魚のすり身を棒に塗りつけ、火で炙ったものだ」


「ほう、変わった技法だ」


 ちくわもうまい。普通に魚介を食べるのとは全く違った味わいだ。お腹の中から温まってくる。


「タマゴだ」


 味が染み込んだタマゴは薄茶色をしている。半分に割ると中から目に鮮やかな黄身が現れて、ハロルドは何だか楽しくなってきた。


 しかし、


「最後はタコだ」


 次に出された物に、ハロルドは驚愕して立ち上がる


「タコ!? タコと言ったか!? ああ、確かによく見ればこの悍ましい吸盤と色味、タコではないか!?」


 そんなハロルドの狼狽など意に介さずに


「だからタコだと言ったろう? タコは苦手か?」


「苦手とかそういう問題ではない、あんな気味の悪い生き物が食えるのか!?」


「食える。うまい」


 見れば店主の言葉とともに、エミリアが今まさに串に刺さったタコを口にするところだった。


「あっ!!」止める間も無く、タコはエミリアの口の中へ。エミリアだけではない。レイアやリリカも平然とタコを口にする。


 しばらく無言の時が続く。今まではすぐに「美味しい!」と言っていたエミリアが無言。やはり食べてはいけない物だったのではないか?


 見かねたハロルドが「吐き出したほうがいい」と進言するつもりで口を開いた瞬間。


「「「「美味しい!」」」」と女性陣の声が重なる。何か人数が多い気がしたと思えば、給仕の女もちゃっかりとタコを口にしていた。


 ハロルドは女性陣の反応と、タコを何度も見比べて、ごくりと喉を鳴らす。


「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 何やら深く、深く、懊悩したハロルド。真剣な顔つきになって席へと座り直した。


 ハロルドはこの国で冒険家として知られる男だ。怖いもの知らずの男と呼ばれ、子供たちの憧れなのだ。震える手を押さえつけ、串を握る。そして目を瞑ってタコを、口に。



 クニュクニュ。クニュクニュ。



「ふ、ふふふふふ」


 不意にハロルドが笑い始めた。


「は、ハロルドさん、、、」流石に心配になったエミリア。だが、ハロルドの笑いは止まらない。


「はははははははは!! 何だこれは!? 何という旨さだ! 噛めば噛むほど旨味が染み出してくる! これがタコか!? ぶははは! これがタコ! これがタコだと!?」


「ハロルドさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫どころか、、、私はまだ何も見ていないではないか! 何度も目にしたことのあるタコの味ですら知らん!! 何が見るべきものは見た! だ、笑わせるな! すまんが私はこれで失礼する! すぐにでも新たな冒険の準備を始めたい!!」


 言うなりエミリアたちが止める間も無く店を出て行った。


「、、、大丈夫か?」流石に呆れ顔のカーヴァインに対して、


「多分?」と、エミリアも困った顔をするばかり。





 王すら諦め気味だった冒険貴族ハロルドのやる気を引き出したエミリアは、人の気持ちを掌で転がすことができる。


 そんな噂が立つのは、ハロルドが王都を立ってすぐ後のことだった。






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