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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第四歩は果てぬ熱情です
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73.機械

「知っている限りでは、彼らは――、自律し意思を持つ、機械人間を作ろうとしている……その方法やら目的やらはこれっぽっちも知らん。上層部から直々に耳にしたというわけでもないただの噂だが……信憑性は高いとのことだ……」


 頭が真っ白になっているだろう中、目の焦点すら合わないまま流れるように放たれた言葉。しかしそれを、インステードはしっかりメモしている。

 ほかにも知っていることがないか、目の前ではレンが尋問と拷問をうまく掛け合わせて情報を集めていた。

 どんな断片的なモノも、抽象的なモノも、インステードは一字一句逃さずメモを取る。


(『帝国上層部は機械人間を作っている』『それらは自律し意思を持つ』『上層部にしか詳しい情報が開示されない』『一応中上層部に位置するディーンですら、その存在をしか知る事が出来なかった』……しかも噂のみ。かなり厳戒態勢を引いてるみたいだけど……帝国が何をやっているか知らないわたし達にとっては、かなり有力な情報なの)


 勇者として昔は帝国の中心に居たインステードだったが、彼らはインステードを道具だとしか思っておらず、何の核心情報も教わることはなかった。

 一方セーヴの実家や、他の侯爵家の人間すらまだまだ上層部に食い込む事が出来ず、恐らく持つ情報はディーン以下と推測できる。

 ディーンは帝国の最も核心部に居る『四大剣聖』に近い場所にいるので、先輩や同僚など周りから情報を得ることができた。しかしそういった伝手がなければ、大貴族であろうとも帝国の闇など知る由もないのだ。

 ただひとつ。莫大な覇権を握るティアーナの実家、公爵家を抜いて。


「……インステード様、もう終わりみたいっす。メモは終わったっすか?」

「えぇ、メモは大丈夫なの」

「――終わり、か……? なら、約束を……!」

「そうね。わたしは約束は守る人間なの。アデルには拷問を仕掛けない事。あんたとあの子を一緒に死なせること。もちろん、忘れてないの」

「……私は、自分勝手だ……」


 ――アデルのいないところで色々決めて話しておいて、勝手な取り決めに喜びを感じてしまっていること。

 

 ディーンは口にしないが、『自分勝手』とはそういう意味がある事をインステードだけではなく、レンもまた察していた。

 だが彼は相当アデルに盲目で、彼女のためならどんな事だってやってきた。

 それこそ彼女の知らないところで、アデルのためにほかの人を蹴落としたり――これは、その報いであろう。


「それじゃあ、明日アデル、ディーンの処刑を行うの。レン、すぐに処刑台にて準備を行って。大衆が来るように、前々から知らせておいて。任せられる?」

「もちろんっす! それじゃあこいつの身柄については任せていいっすか?」

「うん。任せるの。そろそろセーヴも来ると思うし……」


 敬礼をして笑みを浮かべるレンに、こくっと頷いたインステード。

 尋問を行うインステードらとは違って、セーヴは特にそういった事を行うことはしない計画だ。それが、今功を奏したとも言えるが。

 それはさておき、セーヴが使う時間は恐らくインステードらより短い。

 もうそろそろ、セーヴが来てもおかしくはないだろう。それを聞いたレンは、「そうっすね」と短くつぶやいてから一礼して去って行った。



「情報を聞き出そうとして言ってるわけじゃあないから、答えたくないなら答えなくてもいいんだけど。君から見て、四大剣聖はどんな人間だった?」


 セーヴは肘を机について、手の甲に頬を預けてアデルにそう問うた。世間話は先ほどからずっと続いていて、ふと彼が思い立った質問だ。

 話していて彼女の真っ直ぐな『人間性』が疑うに値しないと判断できたので、本当に情報を聞き出すつもりではなく、踏み入った世間話という認識である。

 ただ、疑わないのと許容する事は同じではないので、そこをはき違えるつもりはないが。


 アデルは少し思案するそぶりを見せた。

 セーヴの真意を探っているのかもしれない。言うべきか、言わないべきか。はたまた、当たり障りのない言葉の選択だろうか。


「……四大剣聖……彼らは『四天王』と呼称しておられますが、皆様がしっかりと情熱を持っていらっしゃいます。彼らは盲目的に帝国に従っているわけではなく、明確なメリット、目的、熱意を以てここを選びました。詳しくは私も……あの方の事ですら存じ上げないのですが、秘書官は大体がそれを理解して四天王の方々を補佐していますよ」

「それは、私情なし、擁護ナシでの判断かい?」

「……正直に申し上げまして、私情や擁護がないとは言い切れません。ですが、そうですね……私も、四天王の中で、苦手な方はいらっしゃいますよ」


 こんなこともう二度と言えませんけれど、とアデルは苦笑した。もうすぐ死ぬから、言いたいことは言っておきたいのかもしれない。

 ただ、それはセーヴにとって好都合。

 四大剣聖――四天王の情報は、何だったとしても入手しておきたいのだ。


「ほう? まあ、どうせ僕は彼らに敵対しているし、言っても大丈夫だよ」


 より多くの情報を手に入れるために、少し打算的な言葉を投げかけてみた。しかし言葉を模索しているのだろう彼女に、どうやらその気持ちが感知されることはなかったようだ。


「……えぇと、『賢者』のヨミ様です。少し怖いといいますか。どのような信念をお持ちなのか、その傾向を推測することすらできない……その奥に、人知の及ばない何かを秘めていらしているような。本当怒られてしまいそうなのですが……笑顔で首を絞められそうで……私は少し苦手、です」


 少し冷や汗を流しながら、アデルはそう言った。

 『賢者』のヨミ。セーヴらが未だに会ったことのない四天王の人間だ。確かに最も未知で不気味である、とインステードからも聞いたことがある。

 一体何者なのだろうか。もしや、皇帝を抜いたら最も強敵かもしれない。

 カゲロウやクラヤミですら手こずり、二人の戦士が命を落としたというのに。

 スメラギのときも、完全に殺しきる事はできなかった。三人とも紛れもない強敵だし、初見は大体窮地に追い込まれる。

 インステードとスメラギは因縁の相手と評せるほどなので、熟知した戦闘スタイルのぶつかり合いとシスティナの援護により何とかなったが。

 知らない強敵がまだ一人居るというのは、かなりの脅威だ。


「……なるほど、ヨミね。覚えておくよ。それじゃあアデル、これ以上言いたいことがなければ、明日断頭台にて処刑に移る。今から君はもう一度収容用監獄テントに入れられるが……大丈夫かな?」

「はい。これ以上はもう、ありません」

「それじゃあ」


 世間話も長々としていられない。セーヴは席から立ち上がるため一瞬後ろを向いて――


「あの」


 アデルから声をかけられ、立ち上がって後ろを向いたままセーヴが静止する。


「私が言えたことではありませんし、もしかしたらあなた方の琴線に触れてしまうかもしれませんが。我が帝国の不始末について、お詫び申し上げます……ただ死ぬ前に、後悔せぬよう言っておきたく」

「……受け取るくらいは、しておくよ」


 ひどく無機質な声で、明らかに冷たい雰囲気に移り変わったのは、例えアデルから見えるのが彼の背中だけだったとしても痛いほどに伝わった。

 アデルからは、彼がどんな表情をしているのかは分からない。もしかしたら、般若の形相で怒っているのかもしれないし、無表情の可能性もある。

 だが、どう受け取られようと構わない。言っておきたかったことを、死ぬ前に言えたのだから。


 ――ただ、上官であったスメラギに『ありがとう、大好き』くらいは言いたかったかもしれない。いや、大好きを言うかは別にして、感謝くらいは。


「――それじゃあ」


 くるりと振り返ったセーヴの表情は、いつもと同じつかみどころのない笑みに戻っていた。果たして先ほど彼がどう思って、どんな顔をしたのか。


「はい」


 ――それを、アデルが知ることは永遠に無いだろう。



 そしてインステードとセーヴ、レン、そしてほかのメンバーと共にディーンとの約束内容について再打ち合わせをする事も終わり。

 時は、刻一刻と過ぎて、明日を迎えた。

 帝国、四天王スメラギの秘書官アデル。そして彼女の部下ディーン。その処刑が、大衆の前にて二人同時に行われる。

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