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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第一歩は復讐の開始です
9/96

9.そして、盗賊軍の平和です

 その後、街全体を鎮火させ、慈善盗賊フィオナ軍は元のテントに戻り、短い睡眠を取った。まだまだやる事は多い。明日は早起きである。



 一番最初、日も登らぬうちに起きたのはもちろんセーヴとインステードだった。

 二人は起きると真っ先に司令塔のテントに向かい、鉢合わせた。


「あんたも起きたの」

「うん。先に練っとかないといけない計画があるから」

「そりゃそうなのよ」


 肩をすくめながら、セーヴはインステードから車いすの運転を譲渡される。

 インステードは車いすの運転に常時自身の魔力を消費するので、セーヴがいるときは車いすの運転を任せて、と言ったのは他でもない彼自身であるからだ。

 二人は中に入ると、辺境街マグンナの地図を机に広げ、セーヴは椅子に座った。

 インステードは地図を眺めるセーヴの手元をちらりと見た。そこには分厚い資料と一冊の手帳がある。


「それ、伯爵邸にあった資料なの? よくわたしに燃やされなかったの」

「そりゃ燃やされる前に全部かき集めたよ! インステードちゃんの魔術は収縮が超ハイスピードだからね、強化魔術使って頑張ったよ!」

「で、伯爵の日記はいつ見るの?」

「それは後で。ひとまずは……今日来てくれるだろうレンの奥さんと娘さんへの対応かな」

「え」


 さらっと告げられた言葉に、インステードが固まる。レンの妻と娘が住むところも中々に辺境。レンが反乱に参加し、現在辺境街マグンナにいると知るのも、ここへ来るのにも時間がかかるはずだ。

 それなのにセーヴは一日で全てを終わらせようというのだ。今日彼らに場所を知らせて、同じく今日彼らに来てもらう。

 元勇者でありそれなりに博識なインステードでも、それを可能とする術式を知らない。


「……ってことは、精霊術」

「当たり!」


 二カッ、とセーヴは白い歯を見せて笑った。

 そして懐から羊皮紙とペンを出して、上にレンの妻と娘の名前を達筆な文字で記した。


「そういえばインステードちゃん、精霊術師になりたかった時期もあったって言ってたね」

「……だって……技が、格好いいの……」


 顔全体を真っ赤に染めて、整えられた紫髪を指でくるくる巻きながら、インステードは小さな声で呟いた。

 インステードは照れまくっていたが、精霊術に憧れる者は決して少なくない。

 何せ強大な力を持つ人外を召喚することができるのだ。特に冒険者やそれを夢見る子供達は精霊術が大好きなのだという。


「それじゃあ、ちょっと細かく説明するね」

「お、お願い、するの……」


 インステードは勇者だった時代の時から、精霊術を使いたいと思っていた。しかし幾度もセーヴやティアーナから講義を受けたものの、精霊を呼び出せる気配すらなかったのだ。

 適性がないからあの時は諦めていたが、今なら練習する時間は十分にある。


「使用するのは時空精霊の『タイムスペース・エレメンタル』。まずは時空を歪めてもらって、この場所から彼らの住む場所に通じる扉を開ける。そしてそこに手紙を投入。ちなみに、その手紙にも同じ魔法をかけておく。なお、時空ブラックホールの発動は『向こう』の意思。その辺は手紙の内容に記すつもり」

「どうやって手紙に魔法を施すのか分からないの……」

「あ、そこは僕が自分で編み出した魔法なんだよね。発展だから、精霊術の初心者にはまだ早いかも」

「なるほど……あんた想像力豊富すぎるの」

「本当? ありがとう。……褒め言葉だよね?」


 セーヴは喋りながらも、着々と書状をまとめていった。最後は封筒の下に自身の名前を書いて終了。

 レンの妻子には一応面識があり名前も覚えてもらっているし、今回の事はレンからのお願いでその旨も記してあるので、きっと今日来てもらえるはずだ。

 いきなりの事で戸惑うかもしれないが、セーヴの知る中では妻はレンとアツアツで、娘は両親が大好き。彼らならば応じるだろうという確信が何となくあった。


「よし、じゃあ、よく見てて」

「……!」

「召喚――時空精霊無級『タイムスペース・エレメンタル』」


 ふわり、とセーヴの髪が揺らいだ。胸の前に広げた手のひらに、真っ黒な魔法陣が浮かび上がった。そこからゆっくりと現れ出てくるのは銀髪の少女。

 銀髪黒目に白装束。そして黒い羽根と黒のオーラ。インステードですらも反射的に警戒してしまうほど強い威圧感。

 その少女は、じっ、とセーヴを見つめている。


「――我が想いのままに」


 セーヴの言葉が終わると同時に、少女はまた魔法陣へ沈んでいった。セーヴが腕を降ろすと魔法陣が消え、ゴゴゴ……という音と共にブラックホールが現れた。

 セーヴの前で、ぐるぐると無限な空間が渦を巻く。吹き荒れる風、禍々しい空気。真っ黒で今にも吸い込まれそうな穴の前にいながら、セーヴは微塵も動じはしない。

 やがてブラックホールは机に置かれた手紙を吸引し、それが見えなくなると自然と閉じて跡形もなく消えた。

 しぃん、と空気が静まる。インステードは目を見開いて固まっている。


「大丈夫? インステードちゃん、インステードちゃん!」

「……っな! だ、大丈夫なの……! 全然問題はないの……ただ、わたしにはまだ早そうだとは思ったの」

「はは。大丈夫だって。インステードちゃん才能有り余ってるんだから、いつかきっとできるようになるよ」

「だと、良いの」


 ふん、とインステードは腕を組んでそっぽを向いた。精霊術をいとも容易く扱うセーヴに言われても、嫌味としか感じなかったに違いない。



 その日の午後、セーヴの思った通り、レンの妻子は司令塔のテント内に設置された魔法陣に転移して来た。

 手紙に付与された魔術陣は、ここに通じるようになっていたのだ。

 それを知ったインステードはいつ設置したのかも分からなかったと言いながら、とても悔しそうな表情をしていた。

 一方のレンは、妻と娘を見てぱああと表情を輝かせた。


「レイナ! アリス! 会いたかったっす~~~!!」

「きゃ!」

「わあ~、パパですパパです、パパなのです!!」


 レンは普段の飄々とした感じはどこへやら、頬を緩ませながら妻のレイナに抱き着いた。すると娘のアリスもレンに抱き着きに行った。

 相変わらず仲のいい家族である。

 ちなみに今の司令塔テントにはセーヴ、インステード、レン、レイの四人しかいない。最初は家族の再会を主要メンバーで祝おうという算段だ。

 歓迎式はリーダーのグレイズやエリーヴァスが先頭に立って今準備してくれている。


「本当に自分のお願いを聞いてくださってありがとうっす! セーヴさん一生尊敬するっす~~!!」

「兄さん……泣くな……威厳もクソもない……」

「別にいいじゃないっすか、家族に会えたんっすから!」

「れっ、レン、あなた、そろそろ離して……っその、恥ずかしい、ですから……!」


 涙をどばーっと流しながらセーヴに感謝するレン。そんな彼を呆れた目で眺めるレイ。セーヴは苦笑。レンの妻レイナも恥ずかしさを感じて離れた。


「あ、あの、ごめんなさい」

「いえいえ、大丈夫。あ、それとレイナさん、現金以外の荷物は一度ここに置いてもらってもいい? レイナさん達用のテント、既に張っておいたからあとで僕が運んでおくよ」

「お気遣いありがとうございます」


 セーヴとレイナが荷物の整理をしている最中、レンはまだ感動が収まらない様子で、頬がだらしなく緩みまくっていた。

 セーヴがそれを微笑ましく思っていると、突然レンの娘アリスが目を輝かせてセーヴを見上げた。


「きれーい! おにーさんすっごく綺麗なのです! あとすっごく強いのです! アリスを弟子にしてほしいのです!」

「こっ、こら、アリス……! ごめんなさい、アリスは神聖魔術師の才能がありまして……強さや魔力の本質の色が見えるんです」

「へえ、神聖魔術! レイナさんは確か光魔術師だったし、神聖な一族だね」

「自分以外っすけどね!!」

「兄さん……自信満々に、言う事じゃない……」


 アリスの言葉に一瞬セーヴは戸惑ったが、レイナの説明により納得した。セーヴは全属性の使い手なので、もちろん神聖魔術師の特徴も把握している。

 貴族の子供は五歳になると神殿で魔力量と魔力強度を測る義務がある。それを測るには『鑑定』というスキルが必要で、それを持てるのが神聖魔術師。

 光魔術師の上位互換とされ、神職者の中でも重宝される才能だ。アリスは父や母とよく似て才能がある。


「おにーさん、アリスの師匠になってくれるですか?」


 だから、セーヴはアリスの問いに、


「もちろん。君の神聖魔術はまだまだ磨ける。君はまだ強くなれるよ」


 きらりとした笑みで承認した。

 ちなみにアリスとレイナが盗賊軍に入ることに誰も異論がない。レイナもレンも戦いに身を置く者だし、彼らは盗賊軍の方針に賛成している。

 アリスについてだが、これは彼女が自分から盗賊軍に入ることを志望した。彼女もティアーナに懐いていたので、自分なりに国の事を恨んでいるのだろう。

 アリスにはちゃんと覚悟がある。それを読み取ったセーヴとインステード他仲間達は、それ以上何も言わないのだ。


「ほんとー!? やったあなのです!」

「うん。ふふ。それじゃあ、歓迎会に行こうか。そろそろ準備もできただろうし。とびっきりの料理を準備したんだ!」

「えー! 楽しみっす!」

「あっ、あなた、そんな勢いよく走ったら転びます――って、あなたーっ!」

「あはは! パパおもしろーい!」

「んぐびぃ……」


 目を輝かせるアリスの手を引いてセーヴが歓迎会に向かおうとするが、喜びのあまりレンがレイナの言う通り派手に転んでしまう。

 そんな父を見てアリスがきゃはきゃはと笑っていたが、レンとしては格好悪いにもほどがあった。

 少し焦った様子でレンを心配するレイナ、爆笑中のアリス、そしてぷるぷると恥ずかしさに震えるレン。

 そんな三人を見て、インステード、セーヴ、レイは肩をすくめながら苦笑した。

平和タイムに突入、と言ってもやる事は多いので、ほのぼのばかりではない日常になりそうです(*‘ω‘ *)

ランキング、異世界恋愛日間、10位にランクインしていました!嬉しいです!

お読みいただきありがとうございます!<m(__)m>

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