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悪役令嬢が処刑された後  作者: load
第四歩は果てぬ熱情です
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67.覚醒

 響き渡る轟音と共に耳に入るのは、決して人のものではないであろう不快すぎる大量の断末魔。セーヴは急いでカゲロウを観察するが、どうやらカゲロウも驚いているようだ。


『おやァ……? もしや、創造剣クリエイティヴ・ソードが抜かれちゃったかなァ……?』

創造剣クリエイティヴ・ソード?」

『……あァ、ここまで来たらどォせ知られちゃうかァ……。分かると思うけどォ……三千兵器の一振りだよォ……?』

「三千兵器……!」


 カゲロウが持つ鎌も三千兵器だとすると、もう一本の三千兵器がそこにあるということだ。しかしその剣の性質、危険度が何も分からない。

 創造剣クリエイティヴ・ソードという名から想像するに、何かを作る剣で良いのだろうか。

 そして抜かれたということは、アリスがその剣を抜いたということでいいのか。

 質問したいことは多々あるのだが、果たしてカゲロウに質問して意味はあるのかと思ってしまうセーヴ。

 大人しく答えるメリットなどないのだから。


「恐らく詳しいことを聞いても答えてくれないよね?」

『もちろんだよォ……創造剣についてはァ、いずれ知ると思うしねェ……?』


 そう言いながら、カゲロウが鎌を振り上げる。セーヴ、エリーヴァス、ランスロット、レンが一斉に盾を展開した。

 迎撃の準備を整えながら、セーヴは戦線へ指示を出す。


「インステードちゃん、もう攪乱とか関係ない。レッタさんとレイナさんの二人と合流してアリスちゃんを救出して。それからフレードくん、軍の方は全員で森に結界を。何が起こるかわからない以上、森を封じた方がいい」

『了解なの。カゲロウに邪魔されたらぶっ飛ばすって役目なのね』

「うん、そういう事。実際に救助するのは二人に任せて、援護を頼むよ」

『フレード了解しました! 森を封じます!』


 そんな事を言っている間にもカゲロウの術は整い――その鎌から形成されたのは、カゲロウの姿を覆い隠すほど大きいブラックホールだった。

 しかし吸いこんでくるのかといえばそうでもない。ただ、黙ってそこに有る。


『何でも知りたいっぽいからねェ……良い事教えてあげよォ……。こいつら(・・・・)はボクが召喚したものじゃないよォ……』


 こいつら、とは。

 それは聞かなくても分かった。ブラックホールから、大量の何かがあふれ出てきたからだ。それらが投げ出されてすさまじい勢いで降下を始めると、何なのか認識する事が出来た。

 灰色。ただただ灰色な人間。ダンジョンで見た、クラヤミの発動させていた人間を生贄にささげた魔物と同じ見た目だ。

 もしやクラヤミがあらかじめ大量に生贄を捧げ、それを仲間に共有していたのだろうか。が、クラヤミは禁忌の魔術も使える魔女といえど、生贄系統の魔術は闇すぎるような気もする。


「クラヤミか……?」

『いやいやァ、違うよォ……? 「秘匿の第一天王」――『賢者』のヨミちゃんだよォ……?』

「!」


 初めて話題に上がったと思われる名だ。スメラギはインステードと激闘を繰り広げたし、クラヤミは主要人物全員でも様々なハプニング故攻略できなかった。そしてカゲロウは今ここにいる。

 会ってもいないし主な話題としたこともない、最後の四天王。

 最後だと思ったが、カゲロウによると『第一』の天王である、『賢者』ヨミ。なるほど知識量が並大抵ではない者なら、複雑で大量な生贄魔物を作り上げやすいわけか。


『さァて、時間稼ぎもできたところでェ……』


 カゲロウは更に降下し、森にかかっている結界をすり抜けた。その一瞬だけ彼の体が煙になったのが見える。

 その隙を突くようにレンが矢を放ってみるが、案の定煙をすり抜けた。

 結界を通り過ぎれば、煙はまたカゲロウとなる。セーヴは形状変化の隙も突いてみたが、今度は鎌に防がれてしまった。


『行け』


 カゲロウがそう声をかけると、生贄達が一斉に向かってくる。先ほどから四人で生贄の数を減らそうとしているが、減りが良く分からないほどに大量だ。

 それを惜しみなくぶっ放すと、カゲロウはくるりとセーヴらに背を向けて森深くへ侵入し始めた。

 セーヴはハッとして指示を飛ばす。


「インステードちゃん、カゲロウがそっちに行った。応戦を! それからシスティナさん、可能ならレイさんの二人で隙を狙って! レイナさんとレッタさんは乱れず真っ直ぐ救助に!」

『『『『『了解!』』』』』

「それと――『月鏡げっきょう』」

「こ、これは」

「四天王と戦うんだ、危険度が高い。エリーヴァス。――インステードちゃんをマークしていてくれる?」

「……! はい!」


 一通りの指示を終えた後、セーヴが青いパネルを手に浮かばせエリーヴァスを追跡させた。そのパネルに映されていたのは、カゲロウの気配を感知して後ろを振り返るインステード。

 危険度が高いという理由はもちろん嘘ではないだろうが、セーヴはエリーヴァスがインステードに持つ想いを知っている。

 グレイズに何を言われたのかも察したのか、エリーヴァスにそれは分からない。しかし今、セーヴから温かい気持ちが感じられたような気がする。

 インステードを、守る機会を。

 もちろん、エリーヴァスは当然と言うように意気込んで受け入れた。



 少し時間が巻き戻って。アリスの目に迸った閃光により、眼球に青い光が刻みつけられた。絶えず発光するそれは、まだ使い慣れていないため無差別に発動する。

 神聖魔術師の極限とも言われる力。限界までものを解析し、弱点等々普通の鑑定では表示されないものまでを把握する『魔眼』。

 『千里眼』の進化型と言ってもいい。今のアリスには、この小屋の構造がすべて理解できている。


創造剣クリエイティヴ・ソードにより形成された……ですか……」


 正直良く分からないが、今皆が重要視している『三千兵器』というやつの一振りらしい。魔眼に導かれるまま、アリスは部屋の中央まで来る。

 そして解析された通りの箇所に空中でそれぞれ魔力を流すと、じわじわ姿を見せ始めたのは地面に刺さった刀身の青い剣だった。

 恐る恐るその剣を抜いてみると、凄まじい量の文が目の前に表示される。


「思った通りに……作り変える……」


 脳裏に浮かぶのは、母レイナの使っている両手剣。父も勿論格好いいが、どちらかというと接近戦に惹かれているのだ。

 考えた瞬間、握られていた剣が形を変えてついでに分裂する。

 魔力の温存のためか、創造剣自体に含まれる魔力量がそこまでではなかったのか。分からないが、レイナの剣よりも短いものが出来上がった。

 しかし、アリスにとっては持ちやす――


「きゃ!」


 創造剣の力を失ったせいだろう。小屋が崩れ始め、アリスはぺたんと座り込んでしまう。が、両手に持った剣を支えに何とか体制を持ち直す。

 あまりに大きな音だったので頭がくらくらしてきたが、そんな場合ではない。待機していた魔物たちが次々に襲い掛かろうとしているのだから。


「はぁあ!」


 だが、魔物達の弱点は手に取るようにわかる。元から戦闘のセンスも低くないアリスは、次々に魔物を薙ぎ払っていった。

 が、まだ幼く魔力、体力などあらゆる点がまだ限られている。斬っても斬っても増えるうえに、囲まれているので不覚を取って擦り傷を負うこともあった。このままだと、持久力のないアリスはいずれ推し負けるだろう。

 

「く……!」


 それでも、アリスは叫んだりしなかった。

 両親の名を呼ぶことも涙を流すこともなく、ただ体力を無駄にせぬようがむしゃらに敵を斬っていって。

 その瞳に、絶望は一片たりともない。


 そうして、何秒、何分経っただろうか。


「アリス!」

「アリスちゃん!」


 今にも倒れそうになった瞬間、目の前の魔物を切り裂いて現れたのは――母、レイナ。そして、その背後で援護をするレッタだった。

 レイナは両手剣で魔物を薙ぎ払い、レッタは急いでアリスを抱き上げ少し離れた位置を陣取る。

 そして手を掲げると、そこから出た気体のようなものが魔物たちに広範囲でまとわりつく。すると、彼らの動きが明らかに遅くなった。


「!」

「あらん、驚いたぁん? アタシ、一応毒使いなのよぉん」


 に、と笑ってウィンクするレッタ。アリスの救出が成功したことをセーヴに通達し脱出しようとするが、前は未だ魔物に塞がれている。

 そしてインステードも戦闘中だ。一部結界を緩めてもらって脱出するべきか。しかし隙を突かれるに決まっている。

 どうするべきか。悩んでいると。


「あの、あのね!」

「うん?」

「アリスも、戦うですよ……! ちょっとだけ、ちょっとだけ回復してもらえば、アリスだってたたかえるです……! だってアリス、目が青くなって強くなりましたですから!」

「んん? 今気付いたわん。恐らく……『魔眼覚醒』かしらん。よく頑張ったわねぇ~~~アリスちゃん! だって、セーヴちゃん!」


 どうやらレッタにも神聖魔術師に関する知識があるようで、持って来ていたのであろう回復のポーションを掲げながら、セーヴに確認を取るため通信をする。

 回復ポーションがある事も告げているし、レイナからの反対も特にない。子供といえど戦場に居ることに変わりはなく、戦いたいと申し出られた以上断る理由はないからだ。


『……気を付けて。三千兵器があるし三人もいるけど、グレイズさんの前例があるため油断しないように。とりあえずそこに居る魔物の一掃をお願いできるかな』

「了解したです!」

「了解しました」

「分かったわぁん、アタシがちゃぁんと守るから安心してぇん!」

『……』


 こんな時でも寒気を覚えるのは変わらないようで、セーヴは沈黙してしまったがこれ以上話すこともないためごまかした。

 レッタは気付かないふりをして、アリスを下ろし全力でサポートする準備をしている。

 アリスはもちろん意気込んで、ポーションを飲み両手剣を強く握ってから前線に躍り出た。

 レイナもアリスを保護することもなく、怪我しそうになったら援護する事以外はせず相棒のように背中を預け合って戦う。


 ――それは、紛れもなく『アリス』の一度目の覚醒であった。

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