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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第二歩は真実の欠片です
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36.今度こそは、負けられませんよ?

 一番大きなテントでは、司令官のインステード、副司令官のセーヴ、フィオナ指揮官のグレイズ、神聖第三兵隊ホーリーサードナイト副官のランスロットが会議を進めていた。

 絶えず斥候から入ってくる情報や敵の動向を分析しながら、会議は常により高度なものへと進歩している。

 向こうの指揮官は剣神の秘書であるアデル。さすがに四大剣聖の秘書を務めているだけあって、中々手腕が悪辣だ。


「容赦ないね。重装歩兵の密集陣形……ファランクスかなあ。ほんとは大盾と槍でやるんだろうけど、魔術兵で組んでてもっと容赦ない。その背後には騎士隊と傭兵隊。大胆な編成をするねえ。攻撃力勝負って訳かな?」

「なるほど、この陣形、ファランクスっていうのね」


 呟くようにして吐かれたセーヴの見解には、この世界にない単語が含まれていた。ニヤリ、とインステードが口角を上げてグレイズも微笑む。

 なるほど、こうして転生者な事実がバレたのか、とセーヴは苦笑い。仲間を信頼し過ぎていたのかもしれない、まだまだ自己防衛がおろそかだ。

 例えば今ここでランスロットがセーヴを疑って来たら、割と危険だった。

 幸い彼の性格は根が単純なので、あまりにも皆が『ファランクス』の単語を疑わないことから、自分の学に不足があるのかなとむしろ反省していたりする。


「うんっとね、ファランクスを説明させてもらうと……うわぁぁ、うろ覚えだ。えっとちょっと待って……大盾と槍による密集陣形で、右側をカバーするために斜行して進むんだ。攻撃力というか……打撃力が必要な時に用いられる陣形だったかな。でもこの場合は魔術兵だし右側ハンデとかないから、更に攻撃力が強まってると思うよ。多分向こうは僕らの攻撃力が高いってことを知ってる。それでいて、真正面から対抗しに来たんだ。さすがは武闘派の秘書」

「なるほど、素晴らしき見解です。これは油断していられませんね」


 ランスロットが素直に真剣な顔で頷いた。あまりにも素直過ぎてその内騙されるんじゃないか、とセーヴはちょっと心配する。

 皇子の指揮する隊の副指揮官を任せられるくらいなんだから、ランスロットだってとんでもなくエリートだ。

 そんなエリートが知らない単語をこんな少年が吐いたのだから、少しくらい疑ってもいいのでは、と思う。確かに疑われなくてよかったけども。

 それにしても、セーヴが中途半端な軍事知識を持っている理由は、やはり前世にある。

 高校生だったセーヴには、一人の姉がいた。狂おしいほどの歴史好きで、どんな人間にも片っ端から知識を吹き込んで沼に引きずり落とそうとする狂愛者だ。

 そんな彼女が、弟を引き込まないはずもなく。

 理系だったセーヴがまるで興味ない話を一日中されたこともあるので、嫌でもちょっと位は覚えてしまうのだ。


「ってことは、こっちは防御力の高い編成にするんですかい?」

「……いいや、ちょっと策がある。わりと大掛かりだけど……効果は十分にある。特に、ここにいるメンバーならば簡単だよ」

「なるほどなの。聞かせて」

「うん。まず――」



 戦場のど真ん中。敵軍がまっすぐ突っ込んできているそこには、セーヴとインステードの姿しかなかった。

 敵側も動揺しているようだが、指揮官や将軍が優秀な事もあり、さほど陣形は乱れていない。

 

「そういえばインステードちゃんって、スメラギの秘書の事知ってるの?」

「アデル? あぁ……凄く無口で、感情のない人間だと思ってたけど……どうやらそうじゃないみたいなのね」

「なるほど」


(もしも……スメラギもアデルも演技してたとしたら……最初から勇者は決まっていた? だったら帝国の闇は、もっと深そうだな……)


 というセーヴの考えは、さすがに口に出されることはなかった。当事者を前にそんな事を言う勇気はない。

 場に沈黙が下りる。話すための話題がないからだ。

 そこで、セーヴとインステードの横から一人の長髪の男が駆けてきた。


 エリーヴァスだ。


「セーヴ殿下ぁー! インステード姫ー! 準備が整いましたよー!」


 彼にしては珍しいほどの大声を出しながら、超全力疾走だ。思わずセーヴは苦笑いになる。けれど、彼らしいと言えばそれも間違いじゃない。

 そう。インステードに関することならば、全力疾走などわけないのだろう。

 他のメンバーから見ても、エリーヴァスがインステードに恋心を抱いているのは明白だ。ただ、問題のインステードが鈍感で、彼女自身恋愛を良く分かっていないのである。


 ついでに、セーヴのことが気になり始めているのも一因。


 それに気づかないセーヴもまた、敏感とは口が裂けても言えないのだった。

 ただし本人は自分がわりと恋愛沙汰に敏感な方だと思っている。


「よし、確かにいい感じに近づいてきたね。このままぶち破るか」

「はい。ご雄姿、近くでしかと拝見させていただきます。まことに幸せな任務を与えて頂き感謝する次第でございます」

「あはは、ランスロット以上に固くなってるね。緊張しなくてもいいんだよ」

「そうなの。向こうは確かに悪辣だけど、こっちより突飛的ではないの。ルールに則ったことをやってては、フィオナに勝てはしないの」

「……お二人が、そうおっしゃられるのでしたら……」


 そう言いながらも、エリーヴァスはガチガチに固まったまま不自然な動きで、ずるずると後ろに下がった。

 二人が仰るなら、と言うが、セーヴの耳にはどう聞いても「インステードがそう言うなら」にしか聞こえない。

 微笑ましくていいな、と。この二人が結ばれるときが来るのかな、と、そう思って、気付いた。


 ――自分は一体、何を考えているのだろう。


 ティアーナがいないのに。復讐をしているのに。その手を、血で染めたのに。一体どうやって、幸せになるというのだ?


「――セーヴ!?」

「わっ!? あ、ごめん、ちょっと考え事してた。それじゃあ、やろっか」

「う、うん」


 セーヴは思考を切り上げて、インステードと背中合わせになってから片手を天に掲げた。インステードも同じように、片手を掲げる。

 そこを中心に、莫大な魔力が集まった。

 わりと近づいてきていた敵軍にも見えるほど、圧倒的で。全員が思わず足を止めるほどの重圧があって。

 味方なので限界までダメージを与えられぬよう調整されているはずのエリーヴァスでさえ、気を抜くと意識が飛びそうだ。

 風もないのに、なぜか風は吹き荒れた。空気は破裂音を響かせ、輝く太陽は雲に隠れてしまう。

 天候すらも変えるほどの魔力が虹色に輝き――


「――破滅、愚行、妄想の根源。道徳の喪失こそが道と宣う盲目と狂気の神格化、我らが世の破壊神となりて滅をもたらさん」


 ――それは、不安定な魔力の塊ではなく、目的のあるひとつの魔術として形成される。

 セーヴの補助魔術が、インステードの魔術発動を助けるように包み込む。


「――『破滅神アーテー』」

「発動ッッ!!」


 セーヴの形成した魔術は、インステードの紡ぐキーワードをスイッチに呼応して輝く。敵軍は動けずにいる。

 何が起こるかまるで分らないし、もう威圧に押し潰されてしまいそうな頃だろう。

 だがしかし、この破壊は敵軍を滅するためのものではない。


 大きな大きな魔力波が、地面を深く貫いた。


「「~~~!?」」


 敵軍の動揺がここまで届く。

 ようはセーヴ達のいる場所と敵軍の位置の中間を、深く抉り取ったという事だ。幅も広いし深度も相当、敵軍は何もできず右往左往。

 その内陣形も崩れていく。セーヴの狙い通りだ。

 そして、ここからがセーヴの作戦の真骨頂だ。くるりと未だ戦慄しているエリーヴァスを振り返って、隣にいるインステードに頷く。

 二人はすぐに耳を塞いだ。セーヴは懐から長笛を取り出す。

 そして、奏でられるは美しい音色。それに敵軍は一層ざわつくが、今度の目的は敵軍の戸惑いではない。


「「「うぉおおおお~~~~~!!!」」」


 敵軍の両側から凄まじい勢いで攻め込む、フィオナと『神聖第三兵隊ホーリーサードナイト』の連合軍。

 右側はグレイズ、左側はランスロットの指示で、連合軍は相手の隊列を崩していく。

 まずは長距離以外に相性が悪い魔術師隊――つまりファランクスを成立させた隊を崩す。その後は歩兵、騎士、剣士、傭兵をあっさりと切り捨てる。

 そして最後。重装騎士兵だけには、インステードが動いた。

 ただでさえこちら側は人数が少ないので、少しでも被害を少なくするためである。


「エクスプロージョン」


 爆炎が吹き荒れた。しかし明確な軌道を持って、ただ一点をめがけて襲い掛かる。入り乱れる味方には火の粉ひとつかからず、規則的な動きで。

 それはインステードが常人には考えられないほど、圧倒的な魔力のコントロール力を持っている証だった。

 皮膚を炭にしてもなお燃え尽きぬ煉獄は、阿鼻叫喚の地獄絵図の中広がっていく。

 しかし味方にはかすりもせずに、ゆっくりと敵軍を全滅させていった。


「す、すごい……!」


 思わず背後にいたエリーヴァスが呻く。セーヴも思わず感嘆の吐息を吐く。インステードはこの程度当然だと不敵な笑みを浮かべていた。

 その火が鎮火する頃、大地に味方以外の姿はもうなかった。

 完全に、相手の虚を突いたのだ。

 今回出陣したのが二万の兵だったからまだ良いだろう。もし全軍投入していたら、アデルは任務失敗だ。

 

「それにしても、これで終わりなの? アデルは、もっと……――!」

「確かに、この程度とは思えない。もしかしたら、他に何か目的があるのかも……? ――!?」

「っ……! セーヴ殿下、インステード姫!」

「あぁ、分かってる!」

「この気配……!」


 あまりにもあっさり打ち破ってしまったために、首を傾げたセーヴとインステード。しかし、エリーヴァスと共に強い魔力の波動を感じ、弾かれたように振り返る。

 セーヴ達の後ろ。上空に浮かびながらこれみよがしに武器に魔力を通す、三人組がいた。


 ウィンナイト・リカリアナ。

 オーギル・マクロバン。

 そして『剣神』スメラギ。


 三人はそれぞれの三千兵器の一振りを掲げて、挑発するようにこちらを見ていた。

すみません、熱出して更新できませんでした……<m(__)m>

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