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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第二歩は真実の欠片です
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34.帝国の思惑でしょう?

 その日、四大剣聖の一人であり最初から三千兵器の所有権を持つ男は、ウィンナイト・リカリアナとオーギル・マクロバンと面会をしていた。

 しかし果たしてこれは対等な面会と言えるのだろうか。

 高価な椅子に座り高慢不遜な態度でふんぞり返る男。その足元には、跪くウィンナイトとオーギルがいた。


「きーみ達ねぇ。なぁんでさぁ、見逃しちゃったのさぁ? 皇子がここに来たってくらいさぁ、斥候放ったらさ、分かるんじゃぁないのぉ?」

「い、いえ……東大陸の全体が焼かれており……斥候が近づくのも困難な限りでして。発見される確率が格段に高まるのもありますし……」


 わざとらしくあざといテンションでウィンナイトの顔を覗き込んだ男。この時ばかりは、ウィンナイトも普段のテンションを落ち着かせている。

 心の中で吹き荒れる殺意に、懸命に蓋をして。

 「あーあーあーあーあー!」と、男が余計な抑揚をつけてこれまたわざとらしく頭を抱えた。


「斥候なんてさぁ、バンバン放って殺したってどぉーでもいいじゃんかぁ。何百人か放ったらさぁ、その内一人くらいはさぁ、帰ってくるでしょ? もしかしてぇ、まぁーた邪神様の御命令かなぁ? 皇帝陛下のご意向よりもさぁ、重要なぁのかなぁー?」

「おやめください。人間に邪神様の御命令を測れるはずもございません……」


 明らかに煽っている口調。オーギルは唇をかみしめて怒りを抑えた。本来ならば、邪神ヘルの力でこの男を殺す事さえ彼は厭わないだろう。

 だが、それができない理由があった。

 この男がオーギルよりも、ウィンナイトよりも、皇帝に重用されているからである。

 そんな単純な理由だが、それが二人とこの男の立場の差だった。


「まぁ、そんな事さぁ、どうだっていいんだけどさぁ。君達の領で凄い内戦起きてさぁ、荒れてるって聞いたんだよねぇ」

「「申し訳ございません」」

「謝らなくってもさぁ、いいんだけどねぇ? それは四天王がさ、何とかするからさぁ。それは置いといてさぁ、陛下から命令があるんだよねぇ。『集められるだけの兵を集め、民兵を招集し、一刻も早く辺境地マグンナに攻め込め』だとさぁ。ちなみにさぁ、ボクが援軍を一万送るから、失敗はあり得ないよぉ?」

「「承知いたしました」」

「あ、それと副指揮官にアデルを用意してるよ」

「「感謝いたします」」


 息ぴったりな返しは、ウィンナイトとオーギルがここへ来る前に二人で練習したものだ。相性がいいとはお世辞にも言えない二人だが、仕方のない事である。

 しかし男と皇帝の命令は至極当然なものだろう。

 このまま何もしないで見ていれば、いずれ帝国は侵略される。東大陸が燃やされた時点で皇帝は三千兵器の配布や徴兵作業を行っていたが、もはやもたもたしていられない。

 相手は三十人程度の団ではない。

 バックに神聖アルミテス帝国と昔ながらのライバルであるマヤ大帝国を付けている、強大な宿敵だ。

 隣国と大帝国が動いたという知らせを聞いた瞬間、帝国は間違いなく『慈善盗賊軍フィオナ』を対等な存在として認識したはず。

 なれば、動かぬ道理はないのだ。


「しかし……我々だけで奴らをねじ伏せられるとは思えません」


 ウィンナイトがちらりと男を見上げる。男は余裕綽々な不遜たる笑みを浮かべたまま、動揺した様子もなく「そぉだね」と言って見せた。


 ――次の瞬間、ウィンナイトの首筋に冷たいものが当たる。

 紅く妖しく迸る光を内装した美麗なる細い長剣。それは伝説の宝具。魔王を倒したグループの副リーダーである男が褒美として与えられた、三千兵器の中でも強大な兵器とされる剣。

 火炎聖剣、レーヴァティン。

 炎を自由自在に操り、様々な魔術として使うことができ常識外れで破天荒な効果を持つ、魔王打倒にとても役立った(とされる)聖剣の一振り。

 いくらウィンナイトだろうと、ソレに太刀打ちすることは不可能。彼は冷や汗を流す。問いを、間違えたか。

 一方で邪神ヘルの加護を受け己の力には自信のあるオーギルも、今では脂汗を垂れ流すただの中年男性と化していた。

 いくら加護を受けようともオーギルはヘルではない。邪の力を扱う彼は、圧倒的な聖を前にしては破れるしかない。

 光と闇。それは同等のように見えるが、両者の実力差によって相性の良さも変わる。この場合、オーギルとレーヴァティンの相性は悪い。なぜか。そんなものは決まっている。オーギルの方が弱いからだ。


「だからさぁ、この四天王様も出動するんじゃんねぇ? うちが重用してるアデルまであげたしさぁ? うちの四天王の残り三人はアレだよ、内戦をなんとかするからさぁ、そこは気にしなくってもいいよぉ」

「貴方様が協力してくださるのですか?」

「うん。でも一万の兵をあげてさぁ、バックに四天王のリーダーがいるって事実をさぁ、向こうに広めるだけなんだけどねぇ? 実はリーダー様の仕事はまだ色々あってさぁ、神聖帝国の牽制とかねぇ? 君達も一応三千兵器を持ってる貴族なんだからさぁ、頼むよぉ?」

「「はっ」」

「それじゃー話は終了だねぇ?」

「「失礼します……」」


 これ以上の話はない、と男は手を何度か叩いて話を終わらせる。たったこれだけのために、ウィンナイトらは己の領地から皇都まで来させられたのである。

 だが不満を言うことなどできない。今回の招集は皇帝の命令なのだから。

 怒りを滲ませながらも恭しく頭を垂れた二人が、男の部屋から去っていく。その背中を見送って、完全に足音が聞こえなくなると、男は背もたれに体重を預けてため息をひとつ。

 そんな男の背後から、黒髪ストレートの女がすぅっと現れる。

 気配も姿も見えなかった。弱いとは決して言えないウィンナイトとオーギルが微塵も察知できぬその女は、人類最高峰レベルの高度な気配隠蔽の技術を持っていることだろう。

 男は女がそこにいることを知っていた。驚きも戸惑いもなく、女の気配を捉える。


「アデル、聞いていたねぇ?」

「はい。聞かせていただきました、マスター。今日中にでも彼らの拠点に向かいます」

「うん。……それにしてもさぁ、本格的になって来たよねぇ。向こうから攻めてくる方がさぁ、早かったりして……」

「それはないかと。オーギル・マクロバンの三千兵器により副リーダーが敗北しましたので。今はきっと計画を立てているはずです。より慎重に、成功率の高い計画を」

「なぁるほどねぇ」


 瞳にハイライトのないアデルの無機質な言葉を聞いた男は、表情一つ変えない。なるほど、と言いながらも表情にその素振りがないのだ。

 つまり、彼はアデルの言葉を予想できていたという事。

 そして――男が、フィオナの事などどうでもいいと思っていることを意味する。


 いや、男だけではない。

 帝国ですら、目的を達成できれば帝国の存続などどうでもいいのだ。


「スバル様の調子はどうでしょうか?」

「うーん、まだ感情が不完全でさぁ。ったく、四天王が忙しい時にさぁ、反乱軍の対応なんかに追われてさぁ……」

「まあ、この帝国が滅びたら、生き残るのは皇族と我々四天王のみですね」

「アデル? さらっと凄い事言ったねぇ?」

「私は事実を申し出たまででございます、マスター」


 しれっと全貴族全滅を予言したアデルに、マスターと呼ばれた男が苦笑する。しかし、これは正しい予言だ。

 もし帝国が滅びるのならば、だが。

 そんな事になれば、神聖帝国と大帝国の望みは叶わない。結果的に訪れるのは『フィオナ』との対立。そして三者に巻き込まれる形で世界大戦が広がるはずだ。

 ――その時こそ、皇族と四天王のみぞ知る帝国の秘密を解き明かすときだ。


「さすがにさぁ、見破られちゃいないよねぇ?」

「はい、マスター。ヨミ様が隠蔽をなさっておられますので」

「あっはは、さすがはヨミだよなぁ。よし、行ってこいアデル」

「承知いたしました、マスター」


 最後までアデルの方を振り返らずそう言った男だが、アデルはそれを何とも思わぬ風体で魔力を活性化させ魔術を形成し姿を消した。

 転移魔術だ。

 そんな彼女の魔力の残滓が霧散した後、男はゆっくりと立ち上がった。黄土色の光を反射しない髪が、ゆらりと揺れる。


「四天王様もさぁ、動きますかぁ」


 四大剣聖、また皇族の中では四天王と呼ばれたグループのリーダー、『剣神』のスメラギ。

 そして会話の中に名が出た四天王の副リーダー、『賢者』のヨミ。

 『死神』のカゲロウ。『魔女』のクラヤミ。

 皇帝の右腕。皇族のしもべ。真の目的を達成するため、皇帝の導きを礎に彼らは動く。

怖い怖い……((((;゜Д゜))))

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