4.そして、舞台は整います
ガァァァアアン……!
洞穴の中で眠っていた男たちの目を覚ましたのは、そんな大きな音だった。男たちが目にしたのは、見たことのない乗り物に乗っている少女と、その前に立つ少年。
そして、少年の足元には大きな亀裂が生まれていた。
少年が地面を足で砕いたことによってあの音が生じたと、この場の誰もが理解した。
夜の月をバックに映る少年の顔は冷たく、無情。ただその瞳だけが、従わねば命はないと静かに見下ろしてきた。
男達は、その少年と少女の正体を知っている。
「せ、セーヴさん……」
その中で最も体が大きく強そうな男が、少年――セーヴの名を呼んだ。
「いっ、インステード姫!?」
眼鏡をかけた秀才そうな灰髪長髪男性が、少女――インステードの名を呼んだ。
二人の驚く声に、セーヴは薄っすらと笑みを浮かべた。
その笑みは、男達の背筋を凍らすほど冷たかった。子供とは思えない。良い歳した大人たちが、自分より二回りは下の少年に圧倒されているのだ。
「何? あんなことがあって、僕達が黙っているとでも思ったの?」
「もしそうなら、愚かなのよ。貴方達も黙っているつもりはないでしょう?」
「確かに、あなた方が黙っているとは思えませんね……」
インステードの無表情な問いかけに、秀才っぽい男が黙り込む。
「……慈善盗賊団『フィオナ』。協力するのか、しないのか」
「勿論するさ、セーヴさん。俺たちが『慈善』盗賊団になった恩人のティアーナの姉貴が処刑されるなんざ、絶対に許されることじゃあねぇ」
「じゃあもうひとつ、あんた達はティアーナさんの無実を信じるの?」
「当たり前ですインステード姫! ティアーナ様が悪人なはずありません! だってあの方は、ゴロツキでしかなかった私達に優しくしてくれた……誰かにはめられたんです! 絶対そうです!」
慈善盗賊団『フィオナ』のメンバーは、リーダーらしきいかつい男と秀才らしき男の意見に全面賛成のようだ。
そう。ただのゴロツキの集団でしかなかった彼らに『フィオナ』の名をつけたのも、奪う事しか能がなかった彼らを慈善の道へと導いたのもティアーナだった。
路地裏で寒くて震えていた彼らのため、洞穴を見つけてくれて、食べ物も調達してくれて、一生懸命世話をしてくれた高位貴族の少女。
それからも隙あらば彼らの元に通い、セーヴと共に食料や日用品などを届けてくれた少女。
もはやメンバーに信仰されてすらいた彼女の優しさを、彼らの中の誰が疑うというのだろう。
そんな彼らの信念を耳にして、セーヴとインステードは表情を緩め、顔を見合わせた。
「やったね、協力者ゲット! これで二人で伯爵に突撃するなんて事はしなくていいね!」
「楽になりそうで助かったわ。ちょっと洞穴の中に失礼させていただくの」
親指を立てて先程の冷たさとは真逆の明るい笑顔を見せたセーヴ。そしてメンバー達が道を開けると、セーヴはインステードの車いすを操作しながらニコニコと開けた道を通った。
「インステードちゃん」
「わたしはパシリじゃないわよ」
洞穴の一番奥に辿り着くと、セーヴはインステードの名を呼んだ。
インステードは言葉ではそう言いながらも、不満そうなそぶりは何ひとつなく、パチンと指を鳴らした。
すると、彼女の指先に光が灯ったかと思うと、机と椅子がワンセット彼女の前に出来上がる。
「ってか、さすが勇者様っすね……」
「煩いわね。わたしはもう勇者じゃないの。貴方のリーダーがわたしに会いに来た時に、それは話したはずよ」
「はいはいはい計画練ろう! 今は伯爵倒すのが大事だから!」
「そういやぁ、なんで伯爵なんですかい?」
軽そうな飄々とした男のぼそっと呟いたかのような言葉に、今度こそインステードはぶすっとしてしまった。
ムードがちょっと重くなり始めたので、セーヴが急いで場を取り直す。
彼がさらっと口にした言葉に、リーダーの男が反応する。
「ああ、言ってなかった! 僕ら復讐しに来たじゃん? その最初の一歩としてまずは『呪術伯爵』を消そうと思ったんだ。ようは戦争への第一歩って感じ?」
「なるほど……その計画を立てろという事ですかい?」
「うん。武器とかはインステードちゃんが作ってくれるから。治療とかも僕に任せて。伯爵程度には負けないから安心して」
「それって今すぐじゃないと駄目なんですか?」
「そう。僕が裏切ったっていう悪評が広まったら、伯爵が警戒しちゃうから。兵力が上がるのは嫌だもん。こっちは三十人ちょいしかいないわけだし」
リーダーの男、秀才らしき男の問いにセーヴが応えている間、インステードが地図やペンなど必要なものをバンバン作りまくっていた。
そんな彼女の万能さを目にして、メンバー達の士気も上がったようだ。
早く戦争の第一歩を開戦しなくてはならない理由。
それはもちろん、セーヴが両親に自分を売れと言ったから。彼らがいつ何を言うか分からないため、反乱は早ければ早い方がいい。
「さて、計画練っていこう! 分からないところは遠慮なく聞いて、不満とかも申し出ていいよ」
「それと、各自の得意武器とか分野、魔術を教えてくれるかしら? それに合わせて武器の加工や前衛後衛中衛の配置を行うの」
「「「イエッサーッ!!」」」
セーヴが前に立ってメンバーをまとめ上げると、カリカリと地図に何やら書き留めていたインステードが頭を上げて指示をする。
ようやく復讐の目途がついて嬉しくなったメンバー達は、感謝などあらゆる喜びを込めて力強く返事を返した。
それを見て微笑んだセーヴの目に狂気が渦巻いていた事は、インステードのみぞ知る。
『フィオナ』のメンバー達はティアーナ大好き集団ですが、セーヴともとても親しいです。
ごく少数のメンバーはインステードとも会っていて割と気も合うので、三人とも親しい間柄です。
親しいのもありますが、ここまで早く三十人近くをまとめ上げられるのはやっぱりセーヴ氏のカリスマと……インステードちゃんの威圧感です(笑)
さて、ついに復讐の始まりだ(わくわく)