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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第二歩は真実の欠片です
30/96

23.そして、攻め込まれますね?

 丁度結界が完成した日の事。今日の門番の役を担っていたフレード少年が、ひどく慌てた様子で宿屋『dystopia』に駆けつけた。

 宿屋の前で駄弁っていたセーヴは、肩で息をするフレードを落ち着かせてどうしたのか聞いた。


「っせ、攻めてきます……! 遠くに、大軍を見つけました……!」

「了解。レイナさん、アリスちゃん。全軍に計画した体勢をとれと指示して。インステードちゃん、光要員達を率いて、頼むよ。僕らはあらかじめ設置しておいたテントに向かおう。辺境地マグンナに近づけさせはしない」

「丁度ルル村の近くで止めて、ルル村及び付近の村も一緒に滅ぼしちゃう形っすねー。あ、アレ、もうここにあるっすか?」

「うん。ここにね。あとは発動させるだけだ」


 三十七当主連合軍が攻めてきたとの通達を受け、セーヴはひとつ頷くと凄まじい速さで指示を飛ばした。

 レイナとアリスは慌てて宿屋の中に駆け込み、インステードもそれを追いかけた。グレイズは一足先にダークネスソードの在処ありかを探しに行くので、辺境地マグンナの正門目指して走っていった。彼の背中は瞬時に見えなくなる。

 また、レンの問いにセーヴはウィンクをひとつ。そしてぽん、と自分の懐を叩く。

 彼のポケットには、親指程度の大きさをした瓶が入っているようだ。


「お~! 凄いっす!」

「でしょ? よーっし。それじゃあみんな揃ったようだし、進軍しよう」


 セーヴは前を見た。そこでは全メンバーがキレキレの敬礼で整列している。セーヴは宿屋の隣に置いた筒に差した『フィオナ』の旗を取り出し、高く掲げた。

 表情がキリリと変わるセーヴ。それは、辺境地マグンナを征服する際国民を鼓舞するため、高らかな演説を行った時の表情だ。

 あの時は民を騙すための演説だったが、今は違う。

 仲間であり相棒でもある皆の士気を上げるため。

 そんなセーヴ達の後ろでは、インステード率いる光系統魔術師が合図を送って転移で次々に姿を消していた。


「この戦いは、何のための戦いだ! 僕らの誇りと怒りを、あの人の無念を晴らすための復讐だ! そして、腐り果てて機能もクソもないこの帝国を、ぶち壊しに行くんだ! 我が誇りある戦士たちよ、君達にならできる! いや、君達にしかできないのだ! 『フィオナ』の名を胸に刻め! 君達が成すべきことを成せ! さあ行け我が同胞よ、敵を蹴散らせ!!」

「おーっし! おまえら、続くっす―――!!」

「「「イエッサー!!!」」」


 最前線にいるレンが武器である矢を掲げると、士気が限界まで高まっていたメンバー達は力強い雄叫びを上げる。

 勢いよく駆け出した仲間達を見て、セーヴが安堵のため息を漏らす。

 そして誰よりも先に指揮を執るため、彼は転移で指揮官用の高台に向かった。



 村々を巻き込んで、地を捲って、空気を切り裂いて、あらゆる自然を破壊しながら両軍はぶつかり合う。

 七千に近い軍と、三十人程度の小さな軍が衝突している。

 それなのに、七千の軍はどんどん削れていくが、三十の軍は一人として減らない。誰もが凄まじい勢いで己の剣を振るい血を飛ばす。

 その行動力の源は、勿論。


「さぁ、行け! 君達の想いを証明する方法だ! 今までの恨みを、辛さを、怒りを、今こそ解き放てる時なのだ!」


 最も敵の後方軍に狙われやすい位置に陣取る、指揮官セーヴであった。

 矢や魔術を余裕で撃ち落としながら、セーヴは高らかに声を上げる。七千が五千まで減ったところで、セーヴは頃合いかと思い懐から親指サイズの瓶を出す。

 その瓶の中に詰められていたのは、毒々しい色をした粉。誰がどう見ても有害としか思えぬ謎の物体。

 そしてそれはやはり有害物質。

 だがセーヴは有害だと知りながら、躊躇せず瓶のふたを開けた。


不治の毒(ヒュドラ・ポイズン)!」


 何故ならそれは、セーヴ自身が調合した毒だからである。彼が大声で唱えると、三十の慈善盗賊フィオナ軍は一斉に両脇へ分かれた。

 何が何だか分からず戸惑う『三十七当主連合軍』全体を、紫と黒をマーブルさせた気体が覆い尽くす。

 最前線にいたレンが気を利かせてシールドを展開し、毒がチームメイトを侵害しないよう守った。

 セーヴはじっと戦況を見守る。誰も動かない。セーヴの毒が必ず相手をどうにかするだろう事を、誰もが信じているからだ。

 それは真実となり、狙った通り盾の向こうの兵達はバタバタと倒れていく。

 麻痺の毒。おまけにセーヴの調合した解毒薬がなければ不治である。


「うん。こんなくらいでおっけーかな」


 セーヴは手に持つ瓶を見つめた。既に中身はもうない。彼がレンに合図を出すと、レンはシールドを解除。

 しかし、向こうの隊長や副隊長、魔術師長などは麻痺に何とか耐えて立っている。

 もちろん慈善盗賊フィオナ軍はバカではないので、既に残る力もわずかでフラフラな彼らは秒で倒された。


「じゃあおしまいだね。頑張って五千の兵を回収できるといいね」


 ふふ、とセーヴは他人事のように微笑んだ。実際他人事である。

 もちろん、ただの下級貴族の集まりであり財力も使い果たした三十七当主が、五千の兵をすべて回収できるなど思っていない。

 その上回収しても麻痺は解除できないようになっている。

 使い物にならない兵士を回収することも、財力がないので新たな兵士を雇うこともできない。彼らは八方塞がりだ。


「仕返しだよ、リムリズ子爵、クレル男爵。よくもやってくれたな」


 セーヴの瞳の奥に昏い炎が灯った。

 しかしその瞬間、通信指輪が光る。インステード達からの通信だ。


『今ダークネスソードを発見……したはいいの、でもそれがクレル男爵邸地下室の扉の向こうで……リムリズ子爵達が待ち構えてるの。どうするの? 攻撃する?』

「なるほど……リベンジマッチ、ってことね……。よし、ちょっと待ってて。僕もそっちに向かう」

『了解なの』


 そう言ってインステードは通信を切った。セーヴは戦争の勝利に湧き立つメンバー達に向き直ると、再度声を上げた。


『諸君、お疲れ様! 僕らの頑張りによって、この戦は勝利した! そしてこれより、慈善盗賊軍フィオナは撤収する! 僕は一足先にインステードちゃんらのところへ向かう、勝利の報を待っているがいい!! 転移テレポート!』

「「「頑張れ――――ッ!!」」」


 セーヴはわざと大げさに転移テレポート。全ては格好良く戦争を締めるため。メンバー達が次同じことをするとき、始まりの士気が落ちないようにするため。

 次の事すらも考えていた指揮官、セーヴ。

 彼はリムリズ子爵とクレル男爵にリベンジするため、インステードが言っていたクレル伯爵邸地下室に転移した。



 下劣な笑い声を上げながら、しきりに下品な台詞を吐きまくるリムリズ子爵とクレル男爵。もう全員殺気立って今にも突入しかけている。

 特に色々なじられたインステードは既にキレていた。

 それを到着してすぐに察したセーヴは、苦笑いを禁じ得なかった。むしろ、よく我慢した。


「みんな」


 セーヴは小さな声でインステード達に話しかける。

 インステードらはセーヴの声を聞くと、表情を輝かせて振り返った。


「突入していいの? いいのよね? 良いって言うの」


 狂気の笑みを浮かべるインステード。怒りは十分である。

 これ以上我慢させたら爆発するのも時間の問題だなと苦笑したセーヴは、とても良い笑顔で親指を立てた。

 セーヴだって怒りがないわけではない。

 策を読むことや立てる事には一定の自信があっただけあって、子爵程度に出し抜かれたのは本当にショッキングな出来事だったのだから。

 けれど、今度は仕返しができた。地下室にこもる彼らは、既に軍の勝負が決したとは夢にも思っていないはずだ。

 ゲスな言葉を吐き合いながらワインをがぶ飲みする奴らの肩に、セーヴはそっと手を置いた。


「……あの程度の兵で僕らをどうしようというのかな?」


 扉の奥に透明化して入ったセーヴが、いきなり透明化を解いたことにより、彼らにはセーヴが突然現れたとしか思えないだろう。

 しかも耳元で暗く狂気を込めて囁くので、リムリズ子爵は思い切りワインを投げて転がった。

 比較的落ち着いていたクレル男爵は、すぐに室内の端に差してあったダークネスソードの前に立つ。


「貴方一人では、無理ですよ!」

「僕がいつ一人だと言ったかな?」


「――忘れないで欲しいの」

「先程の言葉、聞き逃せませんね……」

「女子供にあのような言葉たぁ、男の風上にも置けん最低な奴らですな」

「女の敵、女の敵ですよ……!!」

「アリス、この人たち嫌いなのです!」


 頓珍漢な事を言ったクレル男爵にセーヴが首を傾げると――爆音が響いた。勿論爆発はインステードが起こしたものである。

 好きな人を罵られなじられ我慢の限界なエリーヴァス。そして女子供への思いやりが人一倍なのでリムリズ子爵らを許せないグレイズ。

 女として耐えられぬ言葉を聞き殺意を燃やすレイナと、リムリズ子爵らを指さして叫ぶアリス。

 七人から全力で殺意や敵意等々を向けられ、さすがのクレル男爵も尻込みしてしまう。リムリズ子爵は今にも漏らしそうな勢いで震えている。


「さぁ……ツケ、払ってもらおうかな」

「っ……! 望むところです!」

「きっ、貴様らなど野蛮な者が、我ら高貴なる貴族に勝てるはずなかろう!」


 感情の読めぬ闇の笑みを浮かべるセーヴに、ダークネスソードを抜いて靄の蝕みに耐えながら対抗するクレル男爵。

 ただ単純に引きつった笑みを浮かべながらセーヴ達を指さすリムリズ子爵。


「もう勝負は決してんだよ」


 セーヴの絶対零度な響きと共に、七人が一斉に手をダークネスソードへ掲げた。

 何をする、とクレル男爵が問うまでもない。

 全力で怒りと殺意を込めた光の一閃が――まっすぐ自分に向かってくるのだから。

うん。セーヴくんがめちゃめちゃ格好いい……!

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