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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第二歩は真実の欠片です
29/96

22.それは、準備ですね?

 その日、変装をして全くの別人になったセーヴは、首都フォルスナーの図書館に来ていた。古びた本の香り、暗めの色で作られた本棚。

 静かな空間。本を読む人々。笑顔で応対する司書。

 セーヴは侯爵令息であったとき、頻繁に此処へ来ていた。貴族社会に翻弄されて来た彼にとって、唯一安らげる場所だったから。

 司書ともまぁまぁ親しかったけれど、今はお互い初対面同士だ。


「えーっと……」


 目的の本のジャンルを司書に尋ねて、返ってきた答えを元にセーヴは本棚を探した。ずらりと並ぶ『皇帝』ジャンルの中で、セーヴはようやく目的の本を見つける。

 皇帝の持つ『三千兵器』についてである。

 どうやら皇帝には三千の強力な兵器があるようで、だからこそこんなガバガバな政治でも継続ができたのだという。

 ちなみに三千兵器を集めたのは帝国の第一代皇帝。伝説と呼ばれた賢帝は、そのまま剣神とも呼ばれている。


(ほんと初代皇帝が戻ってきたらどんなに良いことか……)


 とりあえず今の皇太子に望みはない。皇太子の顔を思い浮かべただけで百回は殺してやりたくなる。

 セーヴは『皇帝兵器の書』を手に取り、傍にあった机に置いて椅子に座り読み始めた。もちろん目的である『ダークネスソード』についてのページを最初に開く。


 名:ダークネスソード 第十四番目

 三千兵器の中で初代皇帝もタチが悪いと認めた、黒煙剣ダークネスソード

 闇と影を操って分身を大量発生させることができる。また、紫の靄は精神異常をもたらし、半ば呪術のような効果がある。

 元は魔の一族が所有していた剣なので、持つ者すらも蝕む。

 幻覚の発生効果もあり、それは闇魔術の分野。とにかく、ありとあらゆる闇系の術を再現できる兵器。

 また、ダークネスソードが認め蝕まない主は初代皇帝と魔の一族のみである。


 それからはダークネスソードの武勇伝が長々しく書かれていたが、特に大切と思われる個所は無かったので割愛する。


(光系統の魔術でダークネスソードの闇を上回れるなら、こちらにとっては相性がいい。光か……光魔術を使えるのは僕、インステードちゃん、レイナさん、アリスちゃん、エリーヴァス、グレイズさん……それと――)


 無意味とは分かっていても、ティアーナが生きていたらな、とセーヴは思う。

 セーヴは全属性の使い手で、戦闘のレパートリーも魔術の強力さも群を抜いている。だが、ティアーナは光系統魔術オンリーで戦ってもセーヴと互角だった。

 他の魔術も使ったら、少なくともティアーナが生きていた時のセーヴでは勝てない。

 誰よりも圧倒的な光魔術師。けれど今は。


「……この国は貴重な人材を捨てたよなぁ……」


 今まで国はさんざんティアーナの事を利用していた。彼女が処刑されるずっと前から、国の兵器としてあちこちに駆り出されていた。

 勿論非公式なので、彼女の功績は必ず別の人に譲渡される。

 いくら頑張っても、何もメリットがない。その上公爵令嬢なのに戦うことを強要される。ただでさえ苦しかっただろうに――


「駄目だ、考えたらどんどん渦にハマる……とりあえず、コレは借りてくか」


 セーヴは頭を横に振り、立ち上がって司書の元へ向かった。然るべき手続きをして『皇帝兵器の書』を借りると、すぐ図書館を出る。

 人のいない路地裏へ入ると、セーヴは人の出入りを確認してから転移テレポートを起動した。



 宿屋『dystopia』の魔術陣に戻ると、そこにはインステードがいた。いきなりのセーヴの登場に一瞬戸惑ったようだが、すぐいつもの無表情に戻った。


「……望みの本は借りれたの?」

「うん。丁度僕の望んだ本があって良かったよ、ほら。これに全部詰まってる」

「おお。凄いの」

「無表情ッ!?」


 言葉の抑揚すら変えずそう言ったインステードに、セーヴは悲鳴を上げる。


「じゃ、じゃあインステードちゃん、頼んでおいたやつは進んでる?」

「そっちはオーケーなの。あとは、マグンナ全体に結界を張るのを完了させるだけなの」

「さすが。早いね」

「私が頼まれていた物の制作も終了したわ。本当にあと結界だけで終わりなのよ」


 胸(ない)を張るインステード。そして『dystopia』の扉から出てきたシスティナもまた胸(ある)を張って自信満々に親指を立てる。

 インステードは何かのプライドを折られた気がした。

 しかしセーヴがそんなことに気付くはずもなく、インステードにもシスティナにも「凄い! ほんと凄いよ!」と心の底からの感動を表現する。


 宿屋『dystopia』に入ったセーヴは、受付に立つレイナとアリスを見ると彼女らの元へ向かった。


「今日もお疲れ様。実はちょっと頼みたいことがあって。光系統魔術を使える人を全員大会議室に集めてくれないかな」

「あっ、ようこそセーヴさん、お疲れ様です! 分かりました……って、」

「アリスがやるのですー!」

「この子ったら……それじゃあ、私も呼ばれる対象ですね?」

「うん、そういう事になるね。大会議室でみんなを待っているよ」

「じゃあわたしも行くの」


 時は三時ごろ。皆ご飯も食べ終わって、昼寝をする人は昼寝も終わったはずだ。放送が聞こえぬ者はいないだろう。

 一目散にマイクへ駆けたアリスに苦笑するレイナの問いに答えたセーヴは、ぺこりと感謝を表す礼をしてからインステードと共に大会議室へ向かった。



 最初はレイナとアリス。しばらく経つと、同時に全員の光系統魔術を使用できる者達が集合した。さすがの団結力である。

 セーヴは出来る限り自分と近い椅子に彼らを座らせると、口を開いた。


「『ダークネスソード』は知っているね?」

 

 こくり、と全員が頷く。

 セーヴ、インステード、システィナという慈善盗賊フィオナ軍の3エースが奇襲を受けて敗退した、強力な兵器だ。


「僕は今日それについて調べてきたんだけど、特徴を簡潔にまとめると『皇帝が持つ三千兵器の第十四番目で、皇帝も認めたタチの悪い剣、黒煙剣ダークネスソード。闇と影を操って分身を大量発生させることができて、紫の靄は精神異常をもたらし、半ば呪術のような効果がある。幻覚の発生効果もあり、ありとあらゆる闇系の術を再現できる兵器』」

「より強い光魔術で対抗しようってことなのね?」


 ダークネスソードの特徴を言っただけで光系統魔術師の全員集合の意味を理解したインステードに、セーヴは微笑んで頷く。


「さすがだねインステードちゃん。まさにそういう事だ。此処にいるメンバーでダークネスソードを打ち破って欲しい。ただし僕は戦場の現場指揮を行うから、そっちは難しいかもだけど……」

「大丈夫なの。ほんとの司令官は一応わたしなの。こっちの指揮は任せるの」

「ほんと? やったね。任せたよ」

「大船に乗ったつもりでいるの。そっちの現場指揮は任せたの」


 声高らかに宣言したインステード。セーヴは彼女の状況分析の聡明さに感謝しながら、早くも指揮官が決まったので早速計画に取り掛かることにした。


「あくまで僕の考えなんだけどね。まず、グレイズさんがダークネスソードの場所を見つける。そうしたらそこに全員集合。次にアリスちゃんがダークネスソードの状態を鑑定。それに合わせて全員で攻撃。それでも壊れないならば、インステードちゃんが大魔術で思い切りぶっ壊す」

「何それ超楽しそうなの」

「うん。好きに魔術ぶっ放していいから、ストレス発散にはなるかもね。よし、じゃあ疑問点や変更してほしい点があったら自由に挙手して」


 グレイズは隠密も使えるので、気付かれずにダークネスソードを見つけることができるだろう。そうしたら指輪通信で場所を仲間に伝え、仲間は転移でそこへ向かえばいい。

 アリスなど転移の使えない者は、インステードが転移させるので問題はない。

 全員で剣に一斉攻撃できると聞いたインステードは、興奮気味に早口化する。確かに普段は使えないような魔術を全力でぶっ放せるというのは楽しそうだ。

 セーヴは現場指揮なので行けないが、魔術のレパートリーが多いだけあってちょっと羨ましいと思っている。

 

「質問なのですが――」


 そうこう考えていると、エリーヴァスが挙手。セーヴの作戦方針は、どんな意見でも思いついたら構わず口に出す事だ。

 それがもっといい作戦に導く光となるかもしれないから。

 なので、セーヴはエリーヴァスの意見を一字一句聞き逃さないように耳を澄ました。

さて、あちこちで練りに練っている複数の計画とは……!?

二章始動! これからもぜひよろしくお願いいたします<m(__)m>

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