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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第一歩は復讐の開始です
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21.もう、許しません

 セーヴはある程度システィナを落ち着かせて一階に戻ると、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 姿の見えないナニカに切られたり燃やされたり電流を流されたり。

 勿論、隠密をリンクさせているので、セーヴ達にはインステードが無表情で殺戮を繰り広げているのが見えるが。


「えっと、システィナさん大丈夫? 辛かったら、目を塞いだほうが……」

「いえ。良いのよ。私には、覚悟が必要なの。もっと、もっと、強くならないと」

「システィナさんは十分強いと思うよ?」

「ううん、違うのよ、そんなの表面だけだわ。私って、本当に心が脆いのよ」


 ふ、とシスティナは自虐的に笑った。しかしその瞳にはほんの少し光が灯っている。『自分』を理解し、それを受け入れかけている証拠だ。

 システィナは自ら自分を強くないと否定するが、セーヴはそうではないと思っている。

 彼女はもう動ける。そう判断したセーヴはシスティナと目を合わせた。


「子爵を探しに行こう。インステードちゃんがね、二階に僕を助けに来た際階段の傍に、隠し扉みたいなものを見つけたんだ。きっとそこから子爵の居場所に辿り着く。インステードちゃんは追いかけてくるから、先に行こう」

「分かったわ。それで、その隠し扉をどう開けるかは分かっておられるの?」

「上手くスイッチを作動させられれば開くらしいね。えっと、ここなんだけど」


 セーヴがシスティナを一階階段の傍に案内する。その地面には、不自然なへこみ。靴で叩いてみると、ポーンと軽い音がする。

 中が空洞になっている証拠だ。他の地面は叩いてもガンッ、と弾き返される音がするだけというところから見ても、ここが隠し扉で間違いないだろう。

 セーヴはインステードとアイコンタクトをしてから、一階全体の電気を消した。

 すると、隠し扉のへこみの部分が蛍光色に輝いた。緑色だ。


「なるほど、風の魔力を流せってことかな」

「えっ!? よくわかったわね」

「子爵は風魔術師だから。それに、さっきシスティナさんが閉じ込められた場所は二階廊下の隠し扉で、同じような仕組みだったし。っていうか、僕以外にも気付く人がきっといただろうに……」

「それは、夜も廊下の電気だけ消さなければ何とかなると思うわ」

「確かに。まあ怪しまれはしそうだけどね」


 そんな事を話しながら、セーヴはへこみに風の魔力を流す。すると、突然切れ目のなかった地面に亀裂が生じた。

 そのまま地面が盛り上がってくる。

 中を覗くと階段があって、その先は案の定道になっていた。


「よし、行くか。準備はいい?」

「えぇ、もちろんよ」


 システィナとセーヴは階段を下りていった。セーヴが火の魔力を指に流して淡い光を灯し、システィナは『隠密障壁』で罠や奇襲があっても良いように守りを担う。

 そうして二人は湿っていて足場も悪い地下洞窟を進んでいき――行き止まりにぶつかった。

 ここまで一直線で、一度も曲がったことはない。


「えっ? 行き止まり……?」

爆破キャノン


 システィナは首を傾げるが、セーヴは一も二もなく指に灯していた火の魔力を強化し、火魔術として形成させ行き止まりの壁に思い切り飛ばした。

 爆音が洞窟を揺らし、行き止まりの壁はボロボロと崩れ落ちる。

 だが、その先も壁ではなかった。ソファーも机も食料もある部屋になっていて――一番奥のソファーにはリムリズ子爵が座っていた。

 彼は今まで優雅にワインを飲んでいたのだろう。

 しかし、爆音とセーヴらの出現にグラスを地面に落としてしまったようだ。


「なっ、何故っ! 何故ここにいる!? そもそも元公爵令嬢は、精神破壊されているはずだ……! ミム子爵は一体何をやっていた……!!」

「何? 独り言? 聞いてる暇ないんだけど」

「まさか壁の向こうにいるなんて。セーヴさんが居なかったら気付かなかったわ」


 システィナは精神破壊されたなどと言われたが、気にする様子もなくセーヴと共にずかずかと部屋に侵入する。

 リムリズ子爵は後退するが、勿論一番奥のソファーにいるので下がる余地はない。

 そもそも地下室に逃げているのが間違いなのだ。見つかったら、確実に逃げられないのに。


「そうだ。そのミム? 子爵とかいう人は、殺したよ? それに、『高潔な令嬢』であるシスティナさんの精神を破壊するには、百年早い。例えできたとしても、彼女はきっと一人で前を向いていくことができる」

「……!」

「さて、独り言は終わりだ子爵」

「ひっ……! クソが、ミム子爵の役立たずがァッ!!」


 セーヴの言葉に、システィナは思わず彼の横顔をちらっと見てしまった。いつも通りの顔だった。一喜一憂しているのは、きっと自分だけだ。

 多分セーヴにとってはいつも通りだったのだろうけど、システィナにとってその言葉は心に光を灯すほどに嬉しかった。

 セーヴは子爵に歩み寄り、血の付いたナイフを取り出した。

 もちろん、先程ミム子爵を殺したときに使用したナイフである。そこでようやく、リムリズ子爵はセーヴがどれだけ冷酷に自分を殺そうとしているかを察した。


「拷問タイム? いいタイミングに駆けつけたの。応援するの」

「インステードちゃん。ありが――っ!?」

「はあ、はあっ、っく……!」


 そんなセーヴに声をかけたのは、使用人や従者を殺し尽くしてきたであろうインステードだった。

 セーヴは彼女に返事をして、子爵の風魔術をとっさのシールドで防いだ。

 リムリズ子爵は自身の技が防がれたことに不満を持っているようだが、この程度の風魔術はセーヴの風魔術にも及ばない。

 仮にもそれだけを磨いてきた者が、この程度の実力であるとはセーヴも思わなかった。


障壁クラウン・シールドじゃないと防げないくらいのレベルがよかったなあ」

「クソがぁッ!! 竜巻(ドラゴネス)旋風ハリケーンッ!!」


 風の竜が渦を巻いてセーヴに襲い掛かってくる。だがそれはセーヴに当たる寸前で消滅した。セーヴによる魔術キャンセルだ。

 あまりにも実力が違い過ぎると、魔術をキャンセルされることがある。

 仮にも魔術師で教育も受けてきたリムリズ子爵なのだから、これが何を意味するのか分かるはずだ。

 最強の技をいとも容易く封じられ、リムリズ子爵の顔は真っ青を通り越して真っ白。


「さよならだ」


 セーヴはナイフでリムリズ子爵の腕を狙い、恐るべし速度で子爵に向かうが――


「――ダークネスソード!」


 隠し通路の天井に穴が開き、割り込んできたのはあの黒い煙と紫の靄を持つ黒剣。それを持っているのはクレル男爵。

 その腕は黒煙に侵食されて紫に変色している。

 クレル男爵は息も絶え絶えな様子で黒剣――ダークネスソードを握っているが、リムリズ子爵の守護をやめるつもりはないようだ。


「時間をかけすぎたか……!」


 セーヴはそう思ったが、きっと徹底的に苦しめていたらその間にクレル男爵はやはり来ただろう。どちらにしろリムリズ子爵への完全復讐は叶わなかったはずだ。

 どちらにしろ『ダークネスソード』は真っ向から攻められない。下手に触ると精神を今度こそ完璧に破壊されるかもしれない。

 何も対策がない状況で相性の悪い武器と相対するのは悪手だ。


「システィナさん、インステードちゃん!」

「えぇ」

「分かったの」


 風が吹き荒れる中、セーヴは『障壁クラウン・シールド』で自身を守りながら、後ろを振り返って仲間二人にアイコンタクトをとる。

 システィナとインステードは攻撃態勢をやめ、頷き合って魔力を活性化させる。


転移テレポート

転移テレポート!」

転移テレポート


 インステード、システィナ、最後にセーヴが転移でリムリズ子爵邸を離れた。



 中心街グレシアに戻ったセーヴ達三人は、すぐに全メンバーを大会議室に集めた。


「新たな武器『ダークネスソード』を見つけることができたっていうのは大きな発見だけど、ティアーナについての噂も否定された」

「フレードくんが調べてくれた子爵もティアーナの事を否定していたし」

「うっ! あ、あの人ですか……」


 セーヴは努めて冷静に状況報告をしているが、その瞳の奥で怒りの焔がバチバチと燃えている。

 ちなみにシスティナの報告にフレードは何かを思い出すのか、思い切り体をらせた。

 

「リムリズ子爵が人の弱みに付け込んでシスティナさんを拘束させ、精神異常を施したであろうことも判明した。まあこれもフレードくんが調べてくれた人なんだけど」

「うぅっ……!」

「それと、一応ティアーナの処刑に使った道具を買ったというか、皇帝の命により作らせたのは彼なのよ。だから全力復讐に値するわ」

「ちなみに使用人は全滅させて、お金は全部盗んできたの。兵力の増大にリムリズ子爵の私財は使用できないの」


 リムリズ子爵の罪状に同情の余地はない。確かに呪術伯爵ルザルよりは軽いかもしれないが、ティアーナの処刑に悪い意味で関わった者は皆同列である。

 インステードはふふ、とどや顔気味で笑った。レイナとアリスを筆頭に拍手が起こる。


 セーヴは少し前まで兵を打ち破って将ごと家を燃やすくらいでよいかと思っていた。

 でも、

 

「――もう許さない」


 セーヴは冷たい声で俯き、呟いた。

 そして顔を上げて、メンバー全員の顔を見渡す。


「僕にはこんな計画があるんだ。少し、聞いてくれるかな?」

「もちろんっす!」


 セーヴの微笑みに、レンを始め皆が快く応えた。

 セーヴはインステードに目を向ける。聡明な彼女は、セーヴが何を言いたいか理解した。


「「最高の復讐を――」」


「「『三十七当主連合軍』に」」


 二人の言葉と共に、大きな歓声と拍手が沸き上がる。

 ――三十七当主連合軍VS慈善盗賊フィオナ軍の戦いは、この瞬間を境に始まった。

察した方もいらっしゃるかもしれませんが、これにて一章終了です

次回は一章まとめになります。お付き合いのほどよろしくお願いします<m(__)m>

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