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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第一歩は復讐の開始です
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18.それ、想定内です

 とても盛り上がった作戦会議の翌朝、システィナは自分から人里に出て情報収集をしようと提案した。

 だが、それにセーヴは難色を示す。

 当たり前だ。公爵令嬢を知る者が他にもいたとしたら、システィナは色々と危うい。


(システィナさんが『こっち』に来た時、正直感動した……。だって、公爵家から命を狙われる覚悟があっただろうから……公爵令嬢が逃げ出すことが何を意味するか、きっと分かっているだろうから)


 公爵家ならば、セーヴ達に構わずシスティナだけを追い回すなんて真似もするかもしれない。そうなれば、彼女を守り切ることは難しい。

 深く考えこむセーヴに、インステードは「そんなの簡単なの」と挙手した。


「え?」

「だって、変装すれば済む話なの。言ったでしょう? わたしの魔術は、便利で強力(・・・・・)だって」

「まさか……君が魔術でシスティナさんを変装させるってこと?」

「うん。それしか方法はないの。半端な変装じゃむしろ怪しいだけなの」

「でも私、金と銀の混ざった髪はもうルル村の方々に知られているわよ?」


 小さくウィンクするインステードの意見に、システィナは賛同するようだ。確かにインステードが動くというならば、セーヴは全幅の信頼を置ける。

 だがそれでも危ないものは危ない。セーヴには心配症という弱点じみた特徴があるのだ。

 そんな三人の会話を見ていたフレード少年が、たったった、と駆けてきた。


「じゃあ、じゃあぼくが護衛やります!」

「あら、嬉しいわ」

「よし、決まりなの。ルル村の人たちはあんたの顔は見てないと思うから、顔だけ全く違うものにしとけばいいの」

「でもなあ……銀の混ざった金髪は珍しいし……」

「心配症はそこまでにするの。それでバレるならもうとっくにバレてるの」


 フレードとシスティナとインステードは完全に同盟を結成してしまっている。セーヴも自分の心配症がわりと酷い事を理解していた。

 フレードが護衛をしてくれるわけだし、これを拒否したらシスティナはまた自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。

 ここは一歩引くべきだと思ったセーヴは、観念したかのようなため息をひとつ。


「……無理はしちゃだめだよ」

「もちろん。それに、ルル村の人たちは私の事を知っているから、きっと噂とかを話してくれるはずだわ」

「そう、だよね。頑張って、システィナさん」

「ええ」


 システィナの言い分は正しかった。確かに外の噂を全く知れないのは愚策だし、知らない者がいきなり情報を聞いてくるより、知っている人が尋ねてきた方が警戒の度合いは明らかに少ない。

 彼女の申し出が今の『フィオナ』にとってありがたいのは、確かであった。

 やがてインステードの変装技術により全く違う雰囲気の漂う顔に変身したシスティナは、ぎこちない笑みを浮かべた。


「へ、変ではないかしら?」

「うん。変じゃない」

「ってか可愛いですよっ! なんか儚いお嬢様って感じがします!」

「綺麗なの。自信持って行くの」


 はい、とシスティナは意気込んで返事をする。そしてシスティナとフレードは、皆に見送られながらルル村へ出かけていった。



 その日、リムリズ子爵家では三十七当主会議の第二回が行われていた。もちろん議論内容は領地を持つ貴族が全員『探られた』ことに関してだ。

 リムリズ子爵は一度皆の表情を確認する。真っ青な顔でぶつぶつ何か言っている者もいれば、自分の闇に閉じこもって狂った笑みを浮かべる者もいる。

 しかし、それらを抜けば皆慈善盗賊軍への恨みを募らせているようだ。


「……さて、そろそろタネ明かし(・・・・・)をしようではないか」

「そうですね」


 口角を上げながらそう言うリムリズ子爵とクレル男爵。彼ら二人が話題を変えたので、他の者はついて行くしかない。


「彼らが皆のところへ探りに来るのは、想定内だ。もちろん、確かに私らの家は筒抜けになった。しかしそれが公表される前に彼らを滅ぼしてしまえば、死人に口なしというだろう?」

「リムリズ子爵の言う通りです。今はひとまず落ち着いてください。全て子爵の手中にありますから」

「うむ。少し聞いていてくれ」


 相変わらず説得が上手い二人である。貴族達は大分落ち着いたようだ。

 

「一連の事は、全て私の最終的なある計画に結びつく。それはさておき、家を探られるのを分かっていたからこそ私はわざと守りを甘くした」

「そして私は守護を強化しました」

「それらすべては、彼ら(・・)がどういう仕事をするのか、そして実力がどれくらいなのか確かめるためだ。当てずっぽうで戦うわけにはいかんだろう?」


 おぉお、と貴族の間でざわめきが起こった。きっとリムリズ子爵の計画は、セーヴ達を出し抜いているはずだ。

 そう皆が口々に言う。

 リムリズ子爵とクレル男爵は一段と態度を大きくした。気分は良さそうだ。


「今ついに――最終計画を実行する時が来た。もちろん子爵邸を舞台に実行する。まあ、これにより子爵邸が壊れても何の文句も言わん。全ては皇帝陛下からの命だからな」

「皇帝陛下……!? なるほど、そちらの武器は皇帝陛下の」

「ああ。三千兵器・・・・のうちひとつを分裂させたものだ。これでも奴らを歪ませるには十分」

「でも……奴ら、来なかったらどうするんです?」


 ふん、とリムリズ子爵は鼻で笑った。そんな彼の後ろには、不気味に黒く輝く剣が台座に刺されている。

 彼の話曰く、皇帝から貸された皇帝の武器のようだ。


「奴らは必ず来る。私についての噂(・・・・・・・)を流したからな。信憑性を確かめに来るはずだ。腐っても『ティアーナ元公爵令嬢のための復讐』を掲げる者達なのだから」


 リムリズ子爵は黒い笑みを浮かべた。クレル男爵も同じような顔をしている。


「っていうかぁ、守り甘くしてる間に他の密偵に入られたらどーするんですかぁ?」

「結果として入られることはなかったから良いのだ。それに、これもまた賭けだ。時にはこうでもしなければ、良い情報を手に入れることは叶わないだろう」


 レッタ男爵の言葉に、リムリズ子爵は声に余計な抑揚をつけながらそう言った。

 クレル男爵は何かを察したように頭を上げ、パチパチと拍手を送る。彼を筆頭に、全員の貴族が拍手し――それは、大音量でリムリズ子爵邸を突き抜けた。


 だがリムリズ子爵はひとつ考えていないことがあった。

 リムリズ子爵のミスは、自分の悪事を知られて更に恨まれることを計算しなかったことだ。


 

 平和なはずだった中心街グレシアの宿屋『dystopia』に、二人の少年少女が慌ただしく駆けてきた。

 急いで扉を開け、息を切らせる。セーヴはそれを見て首を傾げた。

 システィナが汗を滴らせ、美しい銀髪の混ざる金髪を肌に張り付けさせている。フレードも肌が真っ赤だし体から熱気が立っている。


「どうしたの?」

「大変! ルル村ではこんな噂が流れていたの。『リムリズ子爵が実はティアーナ派閥だった』って。リムリズ子爵の事について聞いたら、みんな同じことをおっしゃるのよ。最近流行った噂らしいんだけど、商人がルル村に来たから一気に広まったらしいの!」

「そうなんですよぉ! ぼくは絶対違うって思ったしシスティナさんも同じこと思ったんですけど! でも、資料は隠蔽したかもしれないし、本当である可能性はゼロじゃないって見解を出したんです!」

「えっ……?」

「ハァ……!? リムリズ子爵がティアーナさん派閥……!?」


 焦ったようなシスティナとフレードの言葉に、セーヴは呆然と立ち尽くし、インステードは思い切り表情を歪ませた。

 セーヴは落ち着きを失い、自分でも何が何だか分からないままわたわたと慌ててから、


「大会議室に行ってくる。一人で落ち着いて作戦立てれば何か分かるかも!」


 頭がぐちゃぐちゃのまま大会議室に向かっていったセーヴを見て、インステードは「はあ」とため息をついた。

 目を白黒させるシスティナ達にインステードは小さく微笑んだ。ようは任せて、と言っているのだろう。



 大会議室では、何枚もの羊皮紙がぐちゃぐちゃに丸められ散乱していた。

 セーヴだってこの噂がリムリズ子爵のわざとかもしれないとは分かっている。むしろ、一番先に考え付くのはそれだ。

 しかし本当の事だったらどうする? 

 本当はティアーナ派かもしれない者を資料の通り極刑に処す、なんて真似をして納得する者は少ないはずだ。

 リムリズ子爵におびき寄せられているのは理解した。だが、立場上確認しに向かわなければならない。

 そしてそれをリムリズ子爵はきっと分かっていて、何らかの罠を置くはずだ。


(確認しに行かない術はない……! 僕の頭じゃ八方ふさがりだ!)


「っどうして、どうしてこうなったっ!? どうすればいい……! どうすれば……!?」


 髪を掻きむしって明らかに平常心を失っているセーヴの耳に、大会議室の扉を開く音が届いた。虚ろな目でそちらを見ると、インステード。

 彼女は表情を変えないまま車いすでセーヴに近づき、彼を見上げた。

 

「……想定外のことが起こると落ち着きをなくすのは、あんたの悪い癖なの」

「インステード、ちゃん……」


 セーヴはインステードの瞳が揺れているのに気付いた。彼女だって少なからず動揺しているのだ。なのに、副司令官である自分は一番先に荒ぶった。

 情けない。セーヴは心からそう思う。


「システィナ達やメンバーと話してきたの。システィナ、わたし、そしてあんたで子爵家に侵入するの。実力に不足はないの」

「えっ……でも、そしたら、辺境地マグンナの守護はどうするの?」

「慈善盗賊軍フィオナ全メンバーでやればいいの。彼らを信じてあげるの。彼らが強い事は、あんただって知ってるの」


 インステードの申し出が現状最もふさわしい事は分かっていた。フィオナのメンバーを信じないわけでもない。むしろとても頼もしい。

 けれど、何だか不安が収まらないのだ。嫌な予感しかしない。


「……」

「言っとくけど拒否権はなしなの。あんたが行きたくないなんて言うはずないし、それはわたし達だって一緒。そんなわたし達の覚悟を、否定しないでね」

「……そっか。そうだよね。ありがとうインステードちゃん、落ち着いたよ。システィナさんを呼んでくれる? 作戦会議をしよう」

「ラジャーなの、作戦司令官」


 セーヴはいつもの笑みを浮かべてインステードに指示をした。インステードは安心したような笑みを浮かべ、再度大会議室を退出。

 こうして、システィナ、セーヴ、インステードのリムリズ子爵邸潜入が決まった。

相変わらず脳内のインステードちゃんが超絶格好良く、頭の中でアニメのように動いているシスティナさんが美しいです

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