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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第一歩は復讐の開始です
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14.そのための、条件です

 システィナが一連の経緯を話すと、セーヴはなるほどと頷いた。矛盾している箇所がないか、言っている事におかしい内容はないか分析する。

 唯一ティアーナの味方であったシスティナを疑いたいわけではないが、今の立場的に無条件に信じるわけにはいかない。


「ひとつ、聞いてもいいですか?」

「はい」

「システィナさんって、隠密術師だったんですね」

「ええ。そう言えば、セーヴさんには言っておりませんでしたわね」


 セーヴも勿論隠密スキルを使用することができる。この場にいる何人かのメンバーも隠密持ちだったりする。

 それでも、セーヴの計画するこれからの図にとって、隠密術師は必要だった。

 できればシスティナを仲間に迎え入れたい。でもそれは、皆の疑いを無くしてからではないと不和を生む。


「そうだ。システィナさん。ここに身分制度はないのだから、堅苦しい敬語はやめましょう」

「分かったわ。私も少し堅苦しいと思っていたの」

「僕も最近敬語を使ってなかったから、敬語のレベルがちょっと下がってきてるんだよね」


 セーヴは一切遠慮なく敬語をやめる。彼の中で『貴族』というしきたりがほとんど消えている証拠だ。

 システィナはほんの少し驚いた。自分の中で彼のイメージは、『清く正しい貴族』そのものであったから。

 セーヴは水袋を開けて水を一口あおると、それを自分の傍に置いた。


「さて……システィナさんのスキルはね、確かに僕らの中でとても重要となる。それに、貴女が今までティアーナの味方でいてくれたことも知っている」

「!」

「正直、僕は貴女を無条件で信じても構わない、と少しも思わないわけではない」


 それでも、システィナの表情は輝いた。彼女の中で、ずっと自分は罪人だったから。ティアーナを救えなかった愚かな姉だったから。

 だが、誰よりもティアーナを想っていたであろうセーヴが、システィナを認めている。

 ティアーナから許されたわけではないし、許されようと思ったわけでもない。それでも、自然とこみ上げる嬉しさに歯止めが利かない。

 しかし、そこでセーヴはす、と表情を暗くした。

 副指揮官としての厳粛な表情だ。システィナも思わず姿勢を正す。


「……けどね、僕は貴女を完全に信じてはいない。そして何より、無条件で貴女を仲間にすれば、貴女の事を何も知らないメンバーの皆が納得しない」

「そうね」


 システィナは周りを見渡した。『フィオナ』のメンバーが自分に向ける視線に悪意は含まれていない。

 けれどそれはあくまで副司令官セーヴの知り合いだからだ。『システィナ』自身に信頼を抱く者はセーヴ以外誰もいない。

 何より、司令官であるインステードが先程からじぃっとこちらを見つめている。

 ようは足手まといを入れるつもりはないという事なのだろうな、とシスティナは思ったが、インステードの視線の理由を彼女本人も良く分かっていないのが本当であった。

 もちろん、それがシスティナに伝わることはない。


「だから、これから二日後に行われる計画に貴女にも参加してもらいたいんだ。疲れてると思うし、一週間は休暇を取りたいと思うけど……貴女のスキルが必要だ。恐らく練度が一番高いはずだから、リーダーになってもらうよ。それが成功するかしないか、そして完成度がどれくらいかによって、貴女をどれくらい信頼すればいいかも変わってくる」

「全力で取り組むわ。それで、その計画って何かしら?」

「うん。この機会だからみんなにも伝えるね」


 こくりと頷いたシスティナは、自分のする事を把握するために疑問を口にした。快く応えたセーヴは、その場にいる全員と視線を合わせる。


「この場で隠密系スキルを持っていて計画を実行するのは僕、システィナさん、グレイズさん、レイさん、そしてフレードくん」

「あはっ、やったあ! ぼくもやっとみんなの役に立てるんだね!」


 セーヴが少年――フレードの名を呼ぶと、彼は瞳を輝かせて興奮気味にそう言った。彼はメンバーの中で最も若い十五歳。

 そしてリーダーのグレイズに憧れを抱いており、最前線に立つことを目標としている。

 寝ぐせを隠そうともしないはねた青みがかった深緑の髪も特徴的だ。


「この五人で、主な男爵、子爵家についてのあらゆる情報を調査してもらおうかと思う。もちろんリーダーはシスティナさんだけどね。一番調べて欲しいのはティアーナの処刑に関わっているかどうか、またどんな風に関わっていたのか。そして政治状況だね。調べる貴族はもうリストアップしてあるから、誰がどこの家を調べるか分布してから後で渡すよ」

「了解したわ」

「おっす!」

「分かった……」

「了解ですっ!」


 セーヴの指示にシスティナ、グレイズ、レイ、フレードが応じる。五人の表情はやる気に満ちている。

 その他のメンバーも声援を送ったりしてくれる。


「あ、そうだ。期間は一週間。その一週間の間、隠密スキルを持たないメンバー達はテントから中心街グレシアに移る準備をする。頼むよ」

「道理でわたしが行かないわけなの。便利なスキルたくさん持ってるから残ってろってことなのね」

「言い方はアレだけど……うんまあ、そういうことかな。でもインステードちゃんには防御も任せてあるんだ。向こうも僕と同じことを考えていないとは限らない」

「防御も改築も任せるの。あんた達が帰ってきたら、グレシアに住めるようになってるようにするの」

「ありがとう。任せたよ」


 インステードが不敵な笑みを浮かべたので、セーヴは内心の読めない微笑みを返した。

 そんな二人を見て、システィナはくすりと笑えて来た。

 近くて遠くて報われぬが、強く結びついた名前の付けられない関係。システィナにとって、それは何だか羨ましかった。


「そうだ、システィナさんのテントだけど……」

「わたしと一緒で構わないと思うの。今、一人でテントひとつ使ってる状況だし、一人くらい増えても影響はないの」

「そっか。システィナさんもそれで大丈夫?」

「ええ。大丈夫よ。えっと……」

「インステード」

「インステードさん、よろしく」

「よろしくなの」


 システィナは車いすのインステードまで歩み寄り、握手を交わした。システィナの本心的に、インステードの申し出が嬉しかった。

 実はこれでも極度の怖がりで、一人抱き締められるものもなく眠るのは恐怖以外の何物でもない。

 だが隣に誰か『いる』というだけで、システィナは安心して眠れる。



 夕方、資料をまとめ終わったセーヴは作戦に参加する者達を司令塔テントに集めた。


「さて、一人一人用の資料はここにある。ここで絶対命令。二日後に作戦を開始するから、その二日が過ぎるまでは絶対に休む。建物の改築とかの手伝いも絶対しない。全力を出せる状態で計画を開始してもらわないと、下手したら向こう側の者に捕まって殺される」

「っ……!」

「みんなにこの……通信できる指輪を渡すね。お互いの魔力波動で干渉しあってできる通話だよ。あ、でも魔術認識技術とかに引っかかったりはしないようになってるから安心して」


 セーヴは資料を一人一人に配り、共に指輪を渡した。セーヴの提案の基、インステードが開発した通信機械である。

 さすがにインステードも苦戦した開発だが、その有用さに見合うものだったと言っていい。

 何かあったらすぐに指輪を起動して連絡を取るように、とセーヴが命じる。


「それと、侵入するのは敵の拠点。何が起きてもおかしくはない。無理だと思ったら自分の命を優先で逃げるんだ。あとのことは僕とシスティナさんが何とかする。いいね?」

「あら、私?」

「うん。どうせなら向こうに早く来て欲しいわけだし、見つかったら一家くらい滅ぼしたっていいさ。この中で最も熟練度の高い隠密スキルなら、さほど気付かれずに一家消滅させられるでしょ?」

「笑顔でとんでもない事を言うわね……?」

「いつものことだし……気にしたら負けだ……」


 ニコリと、それはそれは綺麗な笑顔でそれに合わぬことを言ってみせたセーヴ。自分の中にあった彼の印象と全く違う新たな『セーヴ』に、システィナは驚きを隠しきれていない。

 しかしレイなどのメンバーにとってセーヴのサイコパス発揮は慣れているようで、苦笑いを浮かべはするものの驚く様子は全くなかった。


「まあ慣れちまうのも問題といえば問題ではある。でも、やってることがソレなことだけに、そういうのに慣れないとむしろ重荷になりやすぜ。殺生するのはアレかもしんないが、慣れて頂けると嬉しいでやす」

「いいえ、私の隠密が役に立つのは戦闘だけで、公爵家の中で少しでも立場を勝ち取るために獣を狩ったりしていたから、殺生には抵抗はあれどできないわけではないわ」

「ってか、娘にそんな事をさせるほど愛情を注がない公爵もまたクソだと思いますよっ!」


 ほんの少し気まずそうにしながらもそう言ったグレイズだったが、返って来たシスティナの返答は意外なものだった。

 聞くと、公爵家の私財のため非公式に獣の討伐に駆り出されたこともあったらしい。

 フレードはやはり貴族はクソだ、と悪態をつく。その点はセーヴも否定しない。自分は『貴族』であろうと頑張ったつもりではあるが、あの悪社会の中善意で生き残ることは不可能だ。

 いずれ、何らかの悪事に手を染めることになっただろう。


「私も……人を殺せと命じられる前に逃げてきてよかったわ」

「うわっ、いかにも腐り貴族がやりかねないことですね! ナイス脱出です、システィナさん!」

「ありがとう」

「……それじゃあ、これにて解散。二日間しっかり休んで、全力で頑張ろう!」

「「「「おー!」」」」


 親指を立てたフレードに小さく微笑むシスティナ。二人の話が落ち着いたのを見計らって、セーヴが掛け声をかける。

 彼の声に気を取り直した一同は、腕を高く上げて揃った掛け声を返した。

今更ですが、タグにある「生まれ変わり要素」はティアーナさんではありません

後々明らかになりますので、今はスルーして頂けると嬉しいです。一応伏線はいくつも張ってるので、今からあった方がいいかなあと……。

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