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悪役令嬢が処刑された後  作者: Estella
第一歩は復讐の開始です
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呪術伯爵の記憶―③

 伯爵として独立してから一週間、国民の洗脳は完了し、魔王を倒した功績は第一皇女様に移行された。グループで魔王を倒したという事になり、祝杯式にはグループを代表して皇女様のみが出席した。

 そのグループには私も組み込まれていて、その一週間後私は東の辺境地マグンナの領主を任されることになった。

 


 皇帝陛下は、身分を隠して頻繁にマグンナ(・・・・・・・)を訪れた(・・・・)

 どうやら、まだ十五歳で未熟な私をサポートして頂けるらしい。その有難きお言葉に、私は涙を流して感謝した。

 皇帝陛下という最上級の身分でありながら、私などにも気遣いをなさるなんて。

 私の少し広めな執務室の最も上質なソファーに腰かけた、陛下の対面に私が座る。高貴なお方の前に座るなど、と心が緊張しまくっている。

 だが皇帝陛下がここに座れとおっしゃられたので、拒否するわけにもいかない。

 皇帝陛下が紅茶を飲みながら口を開いた。


「一揆を沈めたそうだな。見事な手腕である」

「いえ、これも皇帝陛下の指示のおかげです! 今回の一揆を見越して、一揆の指南書を作ってくださったからこそです!」

「一揆を起こした者達はどうしている?」

「地下牢に閉じ込めてあります。皇帝陛下のご意見をお聞かせいただきたく……」


 皇帝陛下が私の治める地の民が武器を集めている、という情報をいち早くキャッチし、その対策指南書を事前に渡して下さったおかげで、私は民の一揆に余裕で勝利した。

 しかし一揆で捕まえた者達を勝手に処刑して、皇帝陛下のご意向と違ってしまえば、私の人生は終了だ。

 なので皇帝陛下のご意見を窺うため私は頭を下げた。

 皇帝陛下は少し考えこみ、


「参加者は全員で公開斬首処刑にしよう。そして全ての参加者が所属する村は焼き払え。好きにしろと兵に命じるがいい」

「ですがそれではいずれ民が全滅してしまうのでは?」

「そうはならんよ。危機を察知して逃げた者もいるはずだ。運よく逃げ延びる者も出るだろう。村はまた復活させればいいさ。もちろん、民の税金でな」

「分かりました! さすがは皇帝陛下です!」


 皇帝陛下は笑みを深めた。それは酷い、とか、倫理的にどうなのか、とか、そんなものは一切浮かばなかった。

 とうに自分で考える頭を失っていた私は、皇帝陛下以外に正しいものはないと思っていたから。

 皇帝陛下がお帰りになった後、私はすぐに陛下の言う通りの命令を兵や執事に下した。



 三つの村が焼き払われた。兵に好きにしろと命じたがために、辛うじて人の形をしている遺体も酷い状態になっていた。

 それを私は一揆参加者の家族だけ選別し、参加者公開斬首当日に彼らの前に置いた。これも皇帝陛下からの命令である。

 焦げたり一部欠損していても彼らは家族だと識別できるようで、皆が涙を流した。


「あ、あぁ、俺の、俺の娘がぁぁああ……!!」

「母さんを、返せぇっ……! 返して、くれよぉ……!」

「何で俺の妻が、こんな目に……! 殺すなら俺だけでいいじゃないか……!」

「元はといえば、農作物の7割を領主に捧げろなんて法律が可笑しいだろ!!」

「絶対許さないぞ!!」

「死んでも……俺はここの領主を、恨み続けるからな……!」


 少し離れたところで、処刑台に跪く二十人ほどの男らを見ていた私は、彼らの叫びが心底理解できなかった。

 皇帝陛下に仇を成す存在は勿論処刑すべきだが、それを生んだ者も同じように罪があるに決まっている。

 勿論その周りの人間も全員、排除するべき敵だ。

 遠くから死刑執行人に指で合図を出すと、執行人のリーダーの男がピィィと笛を鳴らした。執行人たちが一斉に刀を振り上げる。

 公開処刑を見に来た民衆の中には耐えきれず踵を返す者もいた。


「斬首刑――執行!!」


 厳粛なリーダーの男の声と共に、数十人の首が血を噴きながら転がった。



 それから数日後、皇帝陛下からの書状が届いた。

 今までの税は銀貨一枚で、村は一か所ごとに銀貨一枚と農作物の五割だったが、街に住む普通の平民は銀貨二枚、村は銀貨一枚と農作物の八割に引き上げろとの事だった。

 二度と反乱など起こさぬよう、罰はきちんとするべきだ、ともおっしゃられた。

 それに私は納得した。確かにこのままだと二度目の反乱が起きてもおかしくないのだから。

 それと、景観を改めろとの通達も。勿論国民の税金でな、と注意書きがされていた。確かに皇帝陛下の土地なのだから、景観の良さは必要だ。


(すぐに令を書かねば……ああ、皇帝陛下への返信の書状もまとめなければ……! い、いや、皇帝陛下に命じられた令を先に――いやしかし、もし返信の書状が遅れたら……!)


 冷や汗が流れた。どちらを選べばいいのか分からない。どちらも皇帝陛下にとって必要なもので、遅れてはいけないものだろう。

 なら、どうすればいいか。天才であり神童であった私には、方法がある。


「……精神分裂」


 ぽつりと呟いた瞬間、キィンと脳を貫通するような甲高い音が耳を劈いた。目の焦点が合わず、ペンを持つ手が震える。

 目の光が消える。私は頭の痛みに耐えて三枚の羊皮紙と三本のペンを机に置いた。

 すると、体が自然と動いた。片手は税金の増加令、もう片方の手は景観改めの令、そして返信の書状はなんと誰もペンを握っていないのに自然とペンが文字を紡いだ。

 私は脳を三分割して、脳に文字を書かせ(・・・・・・・・)ている。使える人間が限られた呪術のひとつだ。

 目にも留まらぬ速さで三枚の紙は完成し、皇帝陛下への書状は封筒に入れた。


「執事長!」


 少し大きめな声でその者を呼ぶと、一分も経たずに扉をノックする音が聞こえた。


「入れ」


 ガチャリ、と音を立てながら扉が開く。


「旦那様、どうされましたか?」

「この二つの令を公表せよ。明日からこの令は適用される。また、こちらは皇帝陛下への書状だ。丁重に帝国首都へ送るよう命じろ」

「はっ、承知いたし――税の加算?」

「何か文句でもあるのか? これは皇帝陛下のお言葉だぞ」

「い、いえ。何もございません。それでは私は失礼いたします」


 ひどく焦った様子を一瞬見せたが、次の瞬間には既に平静を取り戻した執事長が一礼をして退出した。

 私には彼が何故焦っているのか分からなかったし、正直どうでも良かった。

 

 皇帝陛下からの返事は、あれから二週間後に届いた。

 私は急いでそれを開封した。私の令に不手際でもあったのかと思うと、焦ってしまったからだ。

 だが、書かれていたものは、私の想像の斜め上を行った。

 一言でまとめると、


『より民が苦しむ法律を作れ。例えそれが何であろうとも、私がそなたを見捨てることも罪に問うこともない。自由に令を下したまえ』


 本当にいいのか? と迷ったのも一瞬。皇帝陛下の言葉に私は喜んだ。法律を作る、という事において、私が皇帝陛下に見捨てられることはないのだ。

 そう思うと、口元が緩むのを抑えられなかった。

 とびっきりの法律を作らねば。褒めて欲しい。もっと私を必要として欲しい。


 こうして私が作った令こそが――『宗教禁止令』『皇族貴族侮辱禁止令』『朝礼令』の三つであった。



 私が二十歳になったある日、急に皇帝陛下からの呼び出しを受けた私は、急いで帝都皇城に向かった。陛下も急いでいらっしゃるのか、衛兵はすぐに私を陛下の執務室に迎えた。

 陛下の対面に座ることを指示されその通りにすると、皇帝陛下はニコリと口角を上げた。


「良き令を多く作っているようだな。素晴らしいぞ、ルザル伯爵。さすがは私が見込んだ呪術師だ」

「っ……! っほ、ほんとですか……っ!?」

「ああ、本当だ。自信を持てルザル、そなたのしていることは正しい(・・・)

「正しい……」


 嬉しかった。目に涙が溜まっていくのが分かる。私が完全に信頼しきった人から、はっきり認めて貰えたから。

 だから、皇帝陛下に私のしていることは正しいのだと言われた時。ほんの少しだけ「倫理的に大丈夫なのか」と思っていたのが、完全に消え去った。

 そうだ。皇帝陛下は正しい。ならば、陛下に命じられたことを実行する私も正しいのだ。

 納得して頬を緩ませる私だったが、皇帝陛下は急に表情を変えた。空気がぴぃんと張りつめる。重要な話が始まるのだと、嫌でも分かった。


「のう、ルザルよ。ひとつ、頼み事をしてもよいかね?」

「勿論です! 何なりとお申し付けください、出来ることは必ず、いや、できないことだって出来ることにしてみせますから!」

「うむ、頼りにしておるぞ」


 気分が高揚していた私は、一も二もなく承諾した。

 ――いや、きっと気分に関係なく、『私』は必ず承諾したことだろう。

実はここからがルザル伯爵の人生の中で最も重要になります


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