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悪役令嬢が処刑された後  作者: load
第一歩は復讐の開始です
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10.その少年、師匠になります

 歓迎会はとても賑やかだった。セーヴのレシピ通り作られたカレーとケーキも大好評だったが、盗賊軍が編み出した薬草スープやサンドイッチも人気だ。

 特に九歳のアリスはケーキとサンドイッチに食いついていた。健康主義のレイナは薬草スープがお気に入りのようだ。

 歓迎会は大成功で、誰もが笑顔で夜の時間を過ごした。

 夜は六つのテントを使って就寝。もちろん男女は分かれ、二人ずつローテーションで警戒しながら朝を迎えた。



 翌朝、セーヴはまたしても一番早くに起きて司令塔テントにこもった。普段ならインステードと二人だが、今日はアリスも加えた三人だった。

 彼女は意外と母のレイナよりも起きるのが早く、セーヴと鉢合わせたことを嬉しそうにしていた。

 テントの中でもアリスはセーヴの隣に座った。


「ねー師匠、今日はなにするのですー?」

「今日はね……ちょっと難しい事かな」

「伯爵の資料どっさり持ってきてるしね、大掛かりな作業が始まるのかしら」

「あっ、きれーじゃないけどとっても強いおねーさんです!」

「最初は余計なの」


 セーヴの手には伯爵の持つ資料の一部があった。そのほかの資料は司令塔テントの隅、インステードが魔術で作った棚の中に置かれている。

 アリスはインステードにも懐いているようだけれど、どうやら彼女の魔力の本質の色――魔力魂色まりょくこんしょくは汚く見えるらしい。


(まぁ確かに……どす黒い色と紫がマーブルしてたら綺麗じゃないように見えるね)


 セーヴは苦笑した。

 彼自身もまた神聖魔術を使用できるため、インステードの魔力魂色がちょっと小さな子供にショッキングなのは知っていた。

 セーヴが伯爵の資料をまとめたり重要な所を抜き出したり等々の仕事をしている間、アリスとインステードは会話をしていた。


「おねーちゃん、ちゃんとスキルとか見えないのです……師匠のスキルも見えないのです! 悔しいのです!」

「当たり前なの。お互いの強さとかのレベルが違い過ぎると、術そのものが届かないの。それはセーヴにも同じなの。あと本来スキルは勝手に見ると失礼になるの、一度見る相手に断ってからじゃないと」

「もう勝手に見ないのです……でも、やっぱり悔しいのです!」

「そのためにセーヴの弟子になったのでしょう? 強くなって見返してやればいいの」

「そっか! 強くなればいいのです! えへへ、おねーさん、頭いいのです!」

「……ふっ、ふん。褒めても何も出ないの」


 口ではそういうが顔は真っ赤になっているし口角もぷるぷると震えている。アリスは分からないようだが、セーヴには彼女が喜んでいるだろうなあと分かる。

 セーヴはそれを微笑ましく思いながら、まとめ終わった資料を紐に通した。


「それにしても、君が子供の相手もできるなんて知らなかったよ。意外と世話焼きなんだね」

「煩いの」

「さて、資料をまとめ終わったから仕事するよ。今日はエリーヴァスも呼んでいるから四人で現場に行こうか」

「わぁい! アリスも行けるですか!? 嬉しいのです!」

「――お呼びでしょうか!! セーヴ殿下!! インステード姫!!」

「うわっと、エリーヴァス……丁度いいところに来たね」


 ぷいっと顔を背けて口をとがらせるインステード、資料を持って立ち上がったセーヴに抱き着いたアリス。

 そして敬礼しながら司令塔テントに入って来たエリーヴァス。

 気合十分すぎる彼の姿に、セーヴは苦笑した。思えば最近苦笑してばかりだなと思うセーヴであった。

 心なしかエリーヴァスの灰髪が艶めいていて、眼鏡も輝いている。


「君は創造魔術が使えるからさ、僕とインステード、そしてアリスと一緒にこの街を修復してほしいんだ。辺境街マグンナを僕の第一拠点に置こうと思っているからね。いつまでもテントなんて快適じゃない生活をさせるわけにもいかないし、小さな子もいるしね」

「えへへ」


 セーヴの視線に、アリスは照れ笑いをした。


「了解いたしました!! このエリーヴァス、全力で手伝わせていただきます!!」

「気合があるのは良いけど、朝っぱらから耳が痛いの」

「こっ、これは失礼いたしました。申し訳ございません。さあ、出発しましょう!」


 エリーヴァスの掛け声で、四人は辺境街マグンナへの正門を再び潜っていった。



 エリーヴァスは治癒術師で、これは光魔術師の下位互換。しかし治癒だけに特化した精鋭でわりと重宝される才能だ。

 だが彼は創造魔術というのもマスターしていて、インステードの下位互換ではあるが建物の修復にはもってこいの人材だ。

 そしてアリスについては、建築物の状況の鑑定をしてもらう為に来てもらった。

 インステードにはもちろん建物の修復、セーヴ自身は伯爵の資料から割り出したデータを基に指示を行う。


「とりあえず『最初の街』レナギアだけは早々に修復しよう。まずインステードちゃんにはこの地図に記された通りの場所へ、地図に描いといた絵を元に建物を建てて欲しい」

「了解。じゃあわたしは先に行くの」

「うん」


 インステードに任せたのは、建物が全壊していて新しく建築しなければいけない地域だ。さすがにこれをアリスに任せるのはまだ早い。

 セーヴは自分の資料の中から何枚かを抜き取ってインステードに渡すと、インステードは自身の魔力を使って車いすを動かし去っていった。

 同じようにセーヴは十枚ほどの資料を抜き取り、エリーヴァスに託す。


「それじゃあエリーヴァスはアリスと一緒にこの範囲をよろしく。僕は先の視察を行うよ」

「はい!」

「任せるのです!」


 頼もしいエリーヴァスとアリスの返答に、セーヴは笑い返した。そして足に強化魔術をかけると、風を切る音だけを残して姿を消した。

 消えたわけではない。反応が追いつかない速さで遠くまで走って行ったのだ。


「さ、さすがです……!」

「うぅ。やっぱりアリスにはまだまだ修行が必要なのです!!」


 そんなセーヴの消えた場所を、エリーヴァスとアリスは恨めしそうに見つめた。



 エリーヴァス、アリス、インステード、セーヴの四人が本拠地テントに戻ったのは夕方だった。外では多くの仲間が談笑している。

 彼らはセーヴ達が戻って来たのを見ると、グレイズを筆頭に集まってきていつものキレキレな敬礼をした。


「お疲れ様でやす!」

「ありがと」

「何してたんっすか? アリスを連れて」

「彼女の神聖魔術の確認も兼ねて、ね。ちょっとレナギアの修復に行って来た」

「えぇ! 自分達も呼んでくれたら良かったっすのに!」

「ごめんごめん、でも大掛かりな作業はちゃんと皆を呼ぶから」

「街ひとつ修復するって大掛かりじゃないんですかい?」


 レンの言葉に手を振りながら謝るセーヴだが、グレイズの突っ込みに仲間ほとんど全員が同意したことによって言葉に詰まった。

 まあ、セーヴとインステードが人外レベルの強さだという事は皆分かっているので、深く突っ込むことはなかったのだが。

 セーヴ達は仲間らの輪に混ざると、石の椅子の上に座った。


「さて、今日の会議はここで行うか。いちいち司令塔テントに入るの面倒くさいし、みんな入ったらぎゅうぎゅうになっちゃうしね」

「それほど大事な会議ってことですかい?」

「うん、そうなる」

「「「はっ!!」」」

「はは……ここほんと団結力凄いよね、さすが――……」


 セーヴはその先の言葉を言わなかった。

 ――さすが、ティアーナと一緒に過ごしただけあるね。

 セーヴが言いたかった言葉は、誰もが察していたからである。そして皆がそれを察する事を、セーヴもまた知っていた。

 

「さて!」


 と、セーヴは重くなった空気を払うためにパン、と手を打った。


「次なる復讐計画なんだけど――待つ」

「……待つ?」


 セーヴの言葉にインステードが訝しげに聞き返す。それをきっかけに、メンバーたちもざわざわと騒ぎ出す。


「一番最初に伯爵が倒されたとなれば、伯爵以下の貴族は団結する。僕が思うに、皇帝は伯爵以下の貴族全てをまとめ上げて、全員で僕らを仕留めろって令を出すと思う。僕の反乱は既に広まっているだろうしね。後は待つだけだ」

「もし来なかったら……どうするんですかい?」

「一ヶ月待って何も行動がなかったとしたら、こっちから攻めればいいだけの話だ。それまでは、ほのぼのとここを修復しながら生活して構わない」

「でも戦争始まったら、ここの街また破壊されちゃうっすよね」

「大丈夫。強化魔術と防火魔術を全施設、地面にかけてるから」

「うっわー、用意周到過ぎるっす……」


 グレイズとレンは完全に論破された。

 確かに楽だったとはいえ、戦いを終えたばかり。疲労が溜まっているのは皆同じだから、休暇ができたと思っていいだろう。

 それにこの街には民がいないのだから、好きにカスタマイズしていいという事。

 それを理解したメンバー達は、一気に大きな歓声を上げた。


「俺、俺噴水作りたい!」

「俺はあれだ、冒険者ギルド!」

「ハハッ! いや作ってどうすんだよそれ、ハハハ、おもろいなお前、ハハッ!」


 妄想に花を咲かせるメンバー達に向けて微笑んでから、セーヴは司令塔テントに向かおうと立ち上がった。


「伯爵の日記を見に行くの?」

「うん」

「そう。キツそうな日記ね」

「はは。でもまあ、見るしかないから」


 声をかけてきたインステードに振り返り、肩をすくめる。どれだけ知りたくなくとも見たくなくとも、司令官の一人として見なくてはならない。

 伯爵という身分でしか知りえない事実があるかもしれないから。それは、慈善盗賊フィオナ軍にとって必要なものかもしれないから。

 

 司令塔テントに入ったセーヴは、テントの隅にある棚から手のひらほどの手帳を取り出した。達筆な文字で「日記」と書かれている。

 椅子に座って手帳を机に置き、表紙をめくる。長々しい挨拶が書いてあった。


(几帳面な人だったんだろうな……昔は、だけど)


 子供っぽい字だ。何年も前、もしかしたら何十年も前から使用していた手帳なのかもしれない。

 セーヴは『呪術伯爵』の一生を知るため、日記帳のページを一枚めくった。

次回伯爵の日記視点です!

日記といってますが、日記だと見にくいのでストーリー形式になっています。


皆様にお読みいただきありがとうございます!本当に感謝しています!

皆さまのおかげでジャンル別、恋愛日間10位を現在記録しております!

総合も50位になりました!

本当にありがとうございます!

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