手紙から見えた彼女の異変
シンシアが出て行ってから二か月が経過した。
勇者パーティーの情報はこの村にも随時入ってきている。
やれ『ダンジョンを攻略した』、とか『魔物に襲われていた何処かの街を解放した』とか……。
それと同時にシンシアからも手紙が届いていた。
やはり旅は過酷で大変らしいが仲間達の支えもあってなんとかやっているらしい。
僕も返事の手紙を出してやり取りをしていた。
そんな時、異変に気付いたのはそれから暫くした後だった。
『勇者に口説かれていて困っている』と言う内容が多くなってきた。
恋人がいるから、と言っても聞かないらしい。
更にその後『最近、勇者の目を見るだけでなんだか変な感情が強制的に襲ってきて自分が自分で無くなるようで怖い。もうパーティーを抜けたい。』と言う手紙が届いた。
「これってもしかして『魅了』の力なんじゃないかな?」
前に読んだ小説と症状が似ているのだ。
『魅了』の力は強制的に対象者を本人の意思とは別に自分の思いのままにしてしまう、という恐ろしい力だ。
僕は『その力は多分魅了だと思うから、気を付けて。距離を置いた方が良い』と返事をした。
しかし、シンシアからの返事はそれ以来来なくなった。
不安になりシンシアのおじさん達に話をしてみるとシンシアはおじさん達には手紙を出しているらしい。
しかし、その内容は『勇者がどれだけ素晴らしい人物か』と言う事だけで僕の事は一切書かれていなかった。
「前はエドの事も書いていたんだが……。」
「ここ最近、どうも様子がおかしいのよ。」
僕はおじさん達に魅了の話をした。
「それじゃあシンシアは洗脳されている、と言う事かっ!?」
「多分、その可能性があります。」
「く、国に言った方がいいかしら?」
「いや、国は勇者を援助している。国に言っても我々の言う事を聞いてくれるかわからないな。」
「僕もそう思います。だから、『村長』に相談してみたらどうでしょうか?」
「そうだな、あの人なら我々の相談を聞いてくれるかもしれない。」
村長はこの村一番の知識人で僕に本の面白さを教えてくれた方だ。
ただ、村長が何者なのか、というのは村の人は誰も知らない。
だけど、村人の信頼は厚い方だ。
明日、村長の家に行って相談する事を決めた。




