魔王様、勇者の保護者になる side勇者
勇者目線のお話です。
◇アーリア王国王都 神殿前広場
戦わないって言葉を聞いて安心した。
ボクが戦わないって伝えてからは、嫌な感じが全然しなくなった。
今は、強そうなのは分かるんだけど、ほっとする。
昔、村で熊の魔獣を退治してくれた冒険者さんと同じ感じだ。
凄く強いけど、まっすぐな人だ。
それに、この人は嘘をつかない人だから安心する。
「これからどうするかなぁ。」
残念そうに魔王様が呟いている。
ボクもこれからどうしよう。
今は戦わなくてよくなっても、後で偉い人が来たら絶対にまた魔王を倒せって命令される。
それは無理だしやりたくない。
そうなると、ここから逃げないといけないかな?
「勇者よ。我が魔界に帰った後、強くなってから戦いに来るか?」
一生懸命首を振って否定する。
無理です。
むしろここから逃げて、これから何処に行くのか考えるので精一杯です。
「だよなぁ、、、、、はぁ。」
残念そうにしないでください。
でもホントにどうしよう。
村に戻っても、ボクの居場所はきっともう無い。
「帰るか。」
「待って。」
突然帰ると言った魔王様を慌てて引き留める。
いろんな気持ちが溢れてぐちゃぐちゃになる。
これからどうすればいいのか分からない。(なんで帰っちゃうの?)
焦りの感情が止まらない。(行かないで)
置いていかないで。(もっと人と話したい)
一人にしないで。(一人は寂しい)
「連れていって。」
突然、ボクの口から出た言葉に魔王様が驚く。
ぐちゃぐちゃになってた頭が少しすっきりした。
「連れていって。」
もう一度口にすると、ストンと胸に落ちた気がする。
「連れていけとは、お前の事か?」
魔王様にも言葉にしてもらってわかった。
「そう。ボクを一緒に連れていって」
ボクは、この人と、一緒にいたいのかもしれない。
「何故俺がお前を?」
この人は、弱い相手、戦わない人に興味が無いのだろう。
目を見て分かった。
でも、それならボクがもっと大きくなった時に、強くなった時に来てくれればもっとどうにかなったのに。そんな気持ちが口から出る。
「責任取って。」
ボクの言葉に魔王様が驚いた顔している。
「ボクはもう、魔王様と戦えない。」
ボクの事をきちんと見て、ボクの話を聞いてくれる魔王様。
そんな人と戦うのは、殺すなんて事は、例えボクが今よりも強くなってもきっと出来ない。
「戦えないけど、此処に残ると魔王様と戦わされる。」
「それならばお前を何処か別の、他の人間の住む街まで連れて行ってやるぞ?」
この人は本当に、まっすぐにボクの話を聞いてくれている。うれしい。
でも、今日この広場には、勇者のボクを見に来た人が、今までボクが見た事が無い位たくさんいた。あれだけの人に顔を見られたのだ。見つからないなんて無理だ。
「見つかったら。戦わせられる。」
どこかの近くの街に行っても、見つかったら連れ戻される。
「子供が見つからない様に生きるのは、難しい。」
街で仕事をしたくても、子供が誰かの紹介も無しで働くのは無理だって行商人のおじさんが言ってた。
冒険者は成人していれば誰でも登録できるって冒険者さんが言ってたけれど、ボクはどう見ても子供だ。
それに、お金なんて銅貨一枚も持ってない。
悪い事でもしないと、今日の食事も出来なそうだ。
でも「自分が悪いと思うような事はしてはいけません。」ってお母さんに言われてたから悪い事はしたくない。
「だから、養って下さい。」
冒険者のお姉さんが、「強い男が女や子供を養うのは当然の事よ!遠慮なんてしない!」って言ってたからお願いしてみる。
「ダメですか?」
ボクの言葉を聞いて、考える素振りを見せてくれる。
凄く悩んでくれている。
心を込めてお願いしたら、聞いてくれるかな?
「お願いします。」
心を込めて。
頭をしっかりと下げてお願いする。
「少しまて。考える時間をくれ。」
目を閉じて真剣に悩んでくれている魔王様。
ボクはいろんな表情をしながら悩んでくれている魔王様を見ながら待つ。
「決まったぞ。」
ちょっと嬉しそうにボクを見る魔王様。
「貴様は俺が責任を持って育てよう。勇者よ。」
笑顔で勇者を育ててくれると言ってくれた魔王様。
それにつられてボクも笑顔になる。
「ありがとうございます。」
嬉しい。
ボクは魔王様にお礼を伝える。
心理描写を文章にするのって難しいです。
頑張ろう。