動き始める魔王
良かったら読んでみて下さい。
魔界
そこは悪魔や魔族達といった、人類の敵と呼ばれる存在が住まう場所。
強力な魔物や魔獣が其処彼処に存在する危険地帯。
この魔界のルールはいたって単純だ。
『力』と『契約』だ。
揉め事は『力』で決める。
決まり事は『契約』によって定められる。
この二つが魔界における絶対のルールだ。例外は無い。
そしてこの魔界において、最強の『力』を持つ存在が魔王だ。
この魔王こそ、魔界の全てに存在する知性有る者達にとって、畏怖と羨望を集める存在だ。
その魔王城で、新たな動きが始まろうとしていた。
◇魔王城 玉座の間
全て石で組み上げられた玉座の間はとても広い。
人間であれば数百人は軽く入れるであろう間取りだ。
大きな広間の奥は、周囲よりも縦に3メートル程高くなる様に設計された壇と階段が在る。
その階段の先、檀上には黒く光る美しい黒曜石で作られた、大きな玉座が存在していた。
黒曜石の玉座の上に、一人腰掛ける者が居る。
魔界の王、魔王サタンだ。
「暇だ。」
魔王は憂鬱そうな表情で呟く。
現在の魔王に自身がなってから、600年以上経過するのだが、ここ最近魔王が対応する様な仕事や戦闘は殆ど無い。
魔王に就任してから300年位は、我こそが新たな魔王に、といった挑戦者が沢山来ていた。
あの頃は、挑戦者達の相手をするのに忙しかった。いくつかはかなりの実力者も居て、楽しかった。今思い出しても、高揚する。
が、最近はめっきりと挑戦者が来なくなってしまった。1人だけ懲りずに何度も来るのが居るが、3日前に返り討ちにしたばかりなので暫くは来れないだろう。
100年位前に蒼鬼族が100人位で魔王城に殴り込みに来た時は、嬉しくなってテンションが上がってしまい、蒼鬼族を全力で歓迎してからは更に挑戦者が減ってしまい、少し落ち込んだ。
10年位前までは地上の人間が、魔界に細かくちょっかいを出して来ていたので、偶に暇つぶしにと相手していたのだが最近それも無くなってしまった。
そう、魔王様は暇を持て余していた。
「そんな魔王様に、朗報です。」
玉座の後方から、細身の魔族が魔王に近寄り、声を掛ける。魔界の執政官だ。
「おお!朗報とは何だ?デビス。飛び入りの挑戦者か?」
朗報という言葉に魔王は嬉しそうに反応する。
「いえ。挑戦者は居ません。そちらでは無く、近々アーリア王国にて勇者のお披露目が行われるようです。」
「勇者のお披露目?」
勇者、という言葉に若干肩を落とす魔王。人間の勇者達は魔王自身、何度か相手をした事が有るのだが、玉石混交といった具合で弱者(勝手に勇者を名乗っていた輩)が多めという印象だったからだ。
「はい。以前からアーリア王国に送り込んでいた調査員から、調査結果が届いたのですが、その調査結果を精査した所、本物の勇者である確度が高そうなので、ご報告にあがりました。」
「本物か!!」
本物という単語に落とした肩を上げなおす魔王。
「はい。以前から、先代勇者の血を受け継いだ子供の行方をアーリア王国が探していたようです。それが最近になって、勇者の子供が暮らしていた村に、魔物の大群が押し寄せたようでして。襲い掛かった魔物の群れを単独撃破した子供の噂をアーリア王国が聞きつけて発見。勇者の子であった事を確認し、今回のお披露目となったようです。」
「魔物の群れを単独で撃破とは天晴。それならば期待できるな。」
「はい。本物であればなかなかの強さですからね。」
過去に魔界に訪れた、本物の勇者であれば、この魔界の大半の存在と戦う事が出来ていた。その強者だった勇者達を思い出しているのか、魔王は嬉しそうだ。
「よし。会いに行ってくる。」
「こちらから出向かれるのですか?」
「うむ。どうせしばらく何も予定が無いのであろう?勇者の仕事は魔王の討伐らしいから、いずれは向こうから会いに来るのだろうがな。こっちはどうせ暇なのだから、こちらから出向いて互いの時間を有効活用してやろうといった気遣いよ。」
「かしこまりました。では、今から地図と資料等の必要な物を揃えますので、しばらくお待ちください。」
「うむ。任せたぞ。」
嬉しそうにデビスに返した魔王は、今後予定に想いを馳せる。
今日から魔王は地上に旅行だ。
書き溜めた分です。