第5話 「ようやくパーティも結成ですね」
「初めましての方は初めまして。そうでない方も初めまして。実況の女神シャーベットです。
前回までのあらすじ──」
「言わせねえよ!」
「何故でしょう?」
「前回に駄目だって言っただろうが」
「……揉めに揉めた末、とりあえずあらすじは省略する事でおさめることにしました。
さて、ところでソーマさん。いつになったら魔王退治の旅に出るのでしょうか?」
女神シャーベットからまたイヤミを言われたが、まあしょうもないあらすじをカットできたので良しとしよう。
しかしいつ魔王退治の旅に出るのかと言われたら、俺だってどうすればいいのかわからない。
とりあえず、王女様が魔物に誘拐されていることはわかった。他に情報が何もない。
「だいたい、旅ってどうすればいいんだよ。まず、この国の金がいるんじゃないか?」
「そうですね。宿代がなければ、宿屋にも泊まれませんね。そこは相談してみたらどうでしょうか」
「相談。サイファー前騎士団長になるかなあ……」
気づけば訓練場には俺たち以外の姿はなく、ポツンととり残されている。
「えっと、サイファーはどこ?」
「サイファーさんは右手にある砦の中で、息子のエイブルさんと話をしているみたいですね」
実況しか取り柄のない女神かと思いきや、意外に役立つこともあるようだ。
とりあえず彼女の案内に従って砦へ向かってみれば、サイファーとエイブルの話し声が聞こえた。
「どうしてもというのですか」
「そうだ。国王陛下が許さずとも、私は勇者殿と共に魔王討伐の旅に出る」
サイファーが俺と共に魔王討伐の旅に出ると言って、エイブルが引き止めているようだった。
「私では駄目なのですか!」
「何度も言っているだろう。お前は騎士団長だ。騎士団長として、この王都と国王陛下の御身を守る責務がある」
「団長職をお返しします。元より誰も、私が真の団長などと見ていません」
「駄目だ。お前が団長になったのは騎士団幹部と国王陛下の合意の上での話だ。お前一人で決める事ではない」
見事に親子喧嘩の現場だった。
確かにあのヒョロイのは頼りない感じではあったが、こうも振り回されているのを見ると、少し可哀想でもある。
「にしても、声をかけづらいなあ」
「ですね。出直しましょうか」
シャーベットとも意見があったので回れ右をしたのだが、二人とも俺がいる事には気づいていたようだった。
「勇者殿」
二人はぴたりと言い争いをやめて、サイファーが俺の方にやって来た。
「王国騎士を代表し、お供致します」
「それはまあ、ありがたいんだけど……」
チラリとエイブルをうかがうと、彼は沈鬱な顔でこちらを見るだけだった。もう口を挟む気力もないようだ。
「……うん、じゃあよろしく頼むか」
「ありがたき幸せ」
とりあえず、これで旅の供ができた。前騎士団長として尊敬を集めるサイファーが一緒ならば、色々と話もスムーズに進むだろう。
「できれば女の子も一緒だといいんだけどな……」
「その方がパーティに華やかさが出ますからね」
まあ華やかでも戦力にならなければ意味がないだろうが、それきサイファーが許しを出すだろうか。
「今のところの知り合いって、クレアとレンか。じゃあ、レンだよな」
「大人の女よりちっちゃい女の子の方がいいんですね。このロリコン」
「ちげーって。サイファーはクレアが嫌いなようだけど、レンなら大丈夫かなって」
問題はレンの同行をサイファーが認めるかと、レン自身がどう考えているかである。
「なあ、サイファー前騎士団長。旅の仲間にレンを加えるのはどうだ?」
「レンですか……確かに魔導士としては優れていますが、まだ幼い」
「私からもお願いします。サイファー前騎士団長」
噂をすれば影とでも言うべきなのか。いつのまにかレンが俺たちの側に来ていた。
「レン……」
「正直言って、まだこの人を私は勇者様と認めてはいません。けれども魔王を討伐できる力があるかもしれないのは確かです。
魔法を使うことに関しては、私の実力は既に承知のはず。宮廷勤めの魔導士たちの中でも優秀な方です。連れて行って下さい」
「しかし……」
あまりにも若すぎるとサイファーは躊躇っているようだった。一方で魔導士としての実力は確かだという思いもあるようだった。
「一緒に来てもらいましょう。二人より三人の方が心強いし、魔導士がパーティにいる方がいい」
「その通りさ! 何しろ勇者様はスキルも魔法も何も覚えていないのだからね。いくら能力値が高くても、これじゃあアンバランスだ。
旅をしながら、スキルや魔法を覚えてもらう必要があるのは間違いないよ」
俳優がかった言い回しと共に、クレアがひょっこりと姿を現した。そういえば彼女は、魔法で俺の能力について知っているんだっけ。
「それって、クレアも来るってことか?」
「うーん、一緒に行きたいんだけど、国王陛下の許しが出なかったから。
サイファー前騎士団長、レンの同行については陛下の許しを得ている。ちょっと生意気なところがあるけど、まあ遠慮なく使い倒してくれたまえ」
一緒に行きたかったのになあ。とむくれる姿は実にクレアらしい。とはいえ、彼女は手に余る感じなので、同行するのがレンなのはありがたいことだ。
「では、改めましてソーマさん。私はレン・ウィンフィールドです。貴方の旅に同行致します。よろしくお願いします」
ペコリと小さくお辞儀。カーテンシーするほどの相手ではないと軽く見てるのか。まあ、ちっちゃくてカーテンシーするにはまだ若過ぎるような感もあるのは確かだったけど。
「それに国王陛下から選別だ。ソドス銀貨八〇枚と、王国金貨一〇枚。足りなくなったら、各地の王国軍から金銀を受け取って欲しいとのことだ」
「しけてますね。金貨ばかりもらっても換金に困りますが、全部で金貨一一枚分くらいじゃないですか」
レンの遠慮のない抗議。クレアから渡された袋は結構な重さがありそうだったが、金貨は一〇枚しかないというのはちょっと少ない感じだった。
「国家財政が苦しいのだ」
サイファーもまた苦しそうに言う。彼としてもこの餞別は心ともないのだろう。
「父上。我が家から少し持ち出しましょうか」
「無理をしないでいい。我が家は既に切り詰めてきた。母さんを困らせてやるな」
また駄目出しをされるヒョロイの。うん、本当に可哀想になってきたぞ。
「募金を募らないと旅にならない勇者一行とはしまらないね」
「まったくですね」
クレアとシャーベットが相次いでうなづく。
クレアは俺たちに向けた言葉を話しているが、シャーベットは単に俺に向けての嫌がらせじゃないか。
「ともあれ、ようやくパーティも結成ですね」
「それ以外に何も話が動いてないけどな」