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第10話 「前回までのあらすじ。勇者の盾を手に入れました」

「初めましての方は初めまして。そうでない方も初めまして。実況の女神シャーベットです。

 前回までのあらすじ。勇者の盾を手に入れました」

「いや、まだ手に入れてないだろ」

「じゃあ、手に入れたという事にしてください」

「おいまてコラ!」






























「なんでこうなるんだよ!?」

 毒の沼地に莫大なHPをじわじわと削られながら、俺は手当たり次第に槍を突き立てていた。

「ソーマさん、要領悪いですね」

「仕方ないだろ。相手の居場所がわからないんだから」

 シャーベットの実況というかただの悪口に文句を言いながら、俺は毒の沼地に目を凝らした。

 勇者の剣はウェールズ村にある。と聞いて行ってみれば、この通りの毒の沼地。そして、その沼地を住処とする巨大なサメらしい魔物が暴れていたのであった。

 俺たちはウェールズ村が滅んでいたことも知らなければ、サメがいることも知らなかった。

 気づいた時にはレンとミーシャが倒れて、サイファーがフラフラになりながら二人を連れて沼地から逃げた。俺だけがこうして踏みとどまって、巨大サメを探している。

「ソーマさん。貴方のHPはこの世界の限界値を超えているだけであって、あくまで有限です。慢心して死なないでくださいね」

「わかってる。俺もこんなところで死ぬつもりはない」

 異世界転生してもう三ヶ月。初めは転生した実感はなくて、ゲームでもしているような感覚だった。

 けれどもミーニャやレン、サイファーたちと旅をしているうちに、だんだんとこれが現実のことだと受け入れ始めていた。

 日本人の相馬竜也は死んで、ここにいるのはサトーランド人のソーマ・リューヤーだ。

「転生してソーマさんはもう三ヶ月ですか。まあ私にとっては、ほんの数日のこと。いえ、一日のうちの出来事といっていいかもしれません」

「神様は時間感覚が違うな」

「はい。何もかもが違います」

 シャーベットの言葉に、俺は今までにないものを感じた。

 あらゆる感覚が違う。それは生粋のサトーランド人ではない俺にとっても同じかもしれない。

 ここには健康保険制度もなければ、山のような砂糖もない。医者よりも回復魔法が確実だったり、イチゴとレモンとトマトを出したままのような不思議な野菜があったりする。ウェールズ村へ行く途中の村で醤油っぽいものに出会った時には、ついつい川魚を刺身にして食べたものだ。余談だが、ワサビは高価ながらも調味料として定着していた。

 俺はあくまでサトーランドとは違う常識からやってきた人間。スマホを当たり前のように使うが魔法のない世界からやってきた。だから日常に関わるようになると、転生前との違いに驚いてばかりなのだ。

 それと同じように、シャーベットも俺たち人間には驚いてばかりなのだろう。

「いや……二五も世界を管理していれば、人間の世界には今更驚いたりはしないか」

「そんなことはないですよ。まあ、面白そうなことを探してばかりなのは否定しませんが、なんの楽しみもなくこうして人の群れに混ざろうとは思いません」

「そういうもんか……」

 巨大サメに苛立ち昂ぶっていた頭が少し落ち着いた。サイファーたちは毒に倒れて離れてしまったが、俺の隣には女神様がいる。

「しかし、毒の沼にサメって、魔物だよな」

「サトー神が毒の沼にサメを住ませる趣味がなければ、間違いなく魔物です」

「狩ったらあの爺さんにフカヒレでも食わせるか」

 毒の沼で暮らすサメのフカヒレなど、健康に良いわけがないだろう。

「……まてよ」

「えっ?サトー神がサメフェチだって心当たりがあるんですか?」

「【氷球】!」

 毒の沼地に氷の塊を叩きつける。魔法の氷は一気に周囲の気温を下げて沼を凍った大地に変えた。

「どうだ。沼地が凍って、まだ潜っていられるかよ!?」

 ありあまるMPを使って、どんどん沼地を凍りつかせていく。これならばいつまでも潜ってはいられないだろう。

「なるほど。上手い考えですね」

「後はサメが出てくるのを待つだけだが……」

 広い沼地がだんだんと凍てついた大地へと変わる。ついに耐えかねたのか、沼に潜っていた巨大サメが飛び出した。

「あらら。大きな傷が付いてますね。間違いなく手負いです」

「だから姿を見せなくなったのか」

 カンストした能力値でも一撃で倒せなかったのは少し勇者としてのプライドを傷つけられるものがあったが、この様子ならあと一撃で倒せる。

「これでトドメだ!」

 【投槍】のスキルで威力をあげた槍を巨大サメに叩き込む。その上で【氷球】の追い討ち。指の一つ一つから【氷球】を発動させたのは、密かに憧れていた必殺技のマネだ。

 巨大サメは凄まじい悲鳴を上げて、凍てついた毒の大地に打ち上げられた。普通の魚のようにしばらく暴れたものの、やがて力尽きて動かなくなった。

「やったか」

「巨大サメのフカヒレ、ゲットですね」

 シャーベットとそんなやりとりをしていると、巨大サメがドロドロに溶けながら大地に染み込んでいった。

「これはいったい……」

「あ、ソーマさん。さっきまでサメがいたところに、勇者の剣の反応があります!」

「マジか」

 どういう経緯かはわからないが、あのサメが勇者の剣を所有していたようだ。魔王が送り込んだ刺客だったのだろうか。

「フカヒレ、採りそびれたな」

「まあ、そこは勇者の剣を手に入れられたことで帳尻を合わせましょう」

 サメ退治に槍を使ってしまったし、今まで使っていた剣もボロボロになっていたので、正直助かる話だった。

「しかし、サメから勇者の剣かあ」

「確かにどうせならドラゴンとかの方が様になりますよね」

 そんな軽口を叩き合いながら、俺は勇者の剣を手に取る。

「ファンファーレも何もないんだな」

「では私が。パパパーン!」

 勇者の剣は特に何事もなく俺の手に収まった。なんの変哲も無い剣だが、まるで羽根のように軽く、それでいて握っている手応えはハッキリして、全体のバランスも俺専用に調整されているような使いやすさがあった。

「これからは盾と一緒に使わないとな」

「今回は盾の出番が全くありませんでしたからね」

 使わなくなった剣を大地に突き立てて、代わりに勇者の剣を鞘に納める。

 これで装備は整った。あとは王女を救出し、魔王を倒すだけだ。

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