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◇3.ライオ○キング

前書き

文章書くって難しいです…。


 幌馬車(仮)が、未舗装の街道(仮)をつまらなそうに進んでいる。

 ゴトゴト、ガタガタと、老齢で軋む水車のような音を立てながら。

 夜の帳も下りて、どことなく物悲しさを感じさせるその馬車の中で、全裸の変態は一人思案していた。


「(なぜ、この馬車の荷台は窓もなく、入り口が密閉されているのか。これでは、外の様子が殆どわからんではないか)」


 変態こと男主人公(名前はまだ無い。まあ、俺のことなんだが)は、暗闇となった馬車内で、よくわからん取っ組み合いをしてじゃれ合っている糞ガキ二人に再度尋ねてみることにした。


「なあ、馬車の扉を開ける程度のことがそんなにマズイのか?」

「あ、あけちゃだめですーっ!」

「開けるなよ! ぜーったいに開けるなよ!」


 猛烈に制止してくる糞ガキ子と糞ガキ少年の二人。

 その二人から少し離れた場所に、リーダー的存在であるメメが、魂の抜けた脱け殻のように転がっていた。

 確かに外は風が強そうだが、いつまでもわからないままではな。

 ふむ。と顎に手を当て、息を吐く。悪人顔すぎてお見せできないくらいに悪い顔をした俺は、後方部の扉に手を掛けた。

 どうせサプライズでもあるのだろう。先に見てやるよ、そのサプライズを――


「えいっ」

「あーっ! だから開けるなって!」


 その瞬間!


 ビュオオオオオオ! と、耳をつんざくような音と共に、強烈な冷気と粉雪が荷台の中へと押し寄せた!


「なっ、なんじゃーーーーーっ!!!?」


 寒ぅぅぅーーーーーーーーっ!!!!

 馬車内の気圧が下がり、耳鳴りで痛む耳を押さえつつ慌てて扉を閉める!


「だから開けるなっていっただろーっ!」

「わーるいんだ、わるいんだーっ。かってにあけて、わるいんだーっ!」

「へくちっ」


 糞ガキ少年と糞ガキ子の非難を背中越しに浴びながら、顔に付いた雪を拭う。

 メメがくしゃみをしているが、風邪を引かせてしまったか?


「って問題はそこじゃない!」


 問題は外が吹雪いている点だ! 季節は夏だろ!?

 なんで吹雪いてんだ!? ここは南極か!?


「開けたら『みっぺい』の魔法と、『だんぼう』の魔法がやぶれるんだぞー!」

「わるいんだーっ!」


 は!? 魔法!? 冗談はよし子ちゃんだぜ!!


「ウソつけー!」

「なんだとこの変態ハダカ野獣ーっ!」

「ぶさいくー!」


 ぶ、ぶさッ!?


「ブサイクは余計だオラアアアア!!」

「やあーっ! やじゅーされるーっ!」


 糞ガキ子に掴みかかろうとした時、俺に妙案が浮かんだ!

 そう、馬車を走らせている御者さんに聞けばいいのだ!

 俺は吹雪や非難なんかお構い無しで前方のドアを開けると、御者台を確認する。居た! 御者さんだ!


「あのー! 少しお聞きしたいことがー!」

『行キ先ノ変更ハ、デキマセン』


「あ、あのー!」

『行キ先ノ変更ハ、デキマセン』


 ……。


「ヘイヘイそこの御者さん。あんたこのドッキリかサプライズイベントのスタッフさんなんだろ? あまりお客さんである俺を怒らせない方が」

『ダマレ変態ガ! ソノ汚イ金ノタマヲ仕舞エ!』

「あばっ! す、すみませんっ!!」


 思わず反射的に謝ってしまった俺が見たもの。

 首を真後ろに向けて言い放った、御者さんの顔が――


「ッ!?」


 ――その顔は、明らかに人のそれではなく、出来の悪いブリキ人形と、木人形を混ぜたようであった。

 俺の謝罪を理解したのか、首をギギギと錆び付いた歯車のように回して前を向くと、何事もなかったかのように馬車を走らせる。なんて不気味な御者なんだ。

 ……それに前方を走る馬が、馬ではなく雪の中を泳ぐイルカだったような気もするが、吹雪でよく見えない。

 ま、まあ気の所為だろう。うんアレは馬だ。馬に違いない。


「……」


 扉を閉め、その場にへたり込みながら、俺は考えを整理する。

 つまり、最近流行りの案内ロボットってやつか? だから寒さにも平気なのか?

 今や様々な国でロボット社会が加速し、案内ロボットもよく見掛けるようになったので不思議ではないが……。


「ぷぷっ。自動人形オートマタに怒られてやんのー」


 糞ガキ少年がなにか失礼なことを言ってきたが、無視だ無視。


「そ、そういやそこの銀髪の君。君は、何か知らないのかい?」

「ふぇぇっ? ゾウさん……」


 虎っ子風軍団から少し離れた場所に、銀髪の少女が座っていたので、何か情報は得られないかと思い話し掛けてみたのだが……。

 俺の股間に付いたアフリカを見た途端、銀髪の少女は涙目になってしまった。


「しまった! フルチンだった!」

「あーっ! なにしてんだスケベ人間っ!」

「やじゅう? やじゅうしてるの?」

「あうあう」


 ……また虎っ子風の糞ガキーズが絡んできた。

 ギャラクティカボム子ことメメは、俺の反撃がよっぽど効いたのかさっきから放心状態のままだ。あうあうしか言ってない。

 ヤツは俺の鳩尾みぞおちをえぐったので、俺はヤツの幼心をえぐってやったのだ。慈悲はない。等価交換というやつだ。


「ち、違うんだ、違うんだっ!」

「なんども同じいいわけが通用すると思うなー!」

「ちがうんだちがうんだは、ちがわないしょーこだって、お母さんがお父さんに毎日いってたもんっ!」


 メメを除いた虎っ子風軍団が、矢継ぎ早に俺を非難してきた。

 ぐぬうぅぅ。これは不味い。不味いぞ。何とかせねば。


「そ、そうそう、後でお菓子をだね」

「うそつけフルチンのくせにー!」

「うそつきー!」


 ぐぬぅぅぅぅぅっ!


「そ、そうそう、君たちは俺のフルチンを見ても怖がらないんだね?」

「へっ! そんな赤ちゃんちんちんだれがこわいかよ!」

「よねー」


 なにいいいい!? この俺唯一の自慢であるアフリカが、この広大なサバンナが、赤ちゃんオチンチンだと!?


「オレのほうがずっとおっきいぜ! ほらよ!」


 ボロン!

 虎っ子風糞ガキ少年が、その可愛らしいミニマムおちんちんを『ポ』ロっと、ポロっと……ボロン!?


「なっ、なんじゃあああああー―――――っ!!!?」


 そこにあるのは、可愛らしい子どもゾウさんなんかではなく、歴戦の勇士も尻込みするような、ご立派で、グロテスクな、グロテスクで、グロいライオ○キングが……。


「嘘だろ、おい……」

「どーよ! たかがニンゲンがオレたち亜人さまに勝てるかよー!」


 敗北感に打ちひしがれ、ぐったりと項垂れる俺。

 俺のアフリカは、アフリカなどではなく鳥取砂丘だったとでもいうのか……。


「そ、そうそう、この馬車ってどこに向かっているんだ?」

「あ! ごまかしたぞ!」

「ごまかすなーっ!」


 ぐぬぬうぅぅぅぅぅ!! 大人さまを舐めおってからにいいいいっ!!


「あの……。みなさん、そろそろ、《蒼の宵》なので、しずかに……」


 瞳に怯えや悲しみの色を湛えた銀髪の少女が、俺たちに謎の忠告をしてきた。

 『あおのよい』ってなんだ? サプライズその2か?

 今の所、サプライズらしいサプライズは何一つ受けてないのだが。


「あー! もうそんな時間かー!」

「しーっ! リクってば声おっきい!」

「ご、ごめん」

「あうあう」

「コレヨリ、静音走行ニ、入リマス。皆サマ、オ静ニ、願イマス』


 虎っ子軍団が何か言ってる間に、馬車が速度を落とし始めた。

 一体、何が始まるというのか。夜だしキャンプファイアー的な何かだろうか。

 俺も周りに合わせて、小声で銀髪の少女に聞いてみることにする。


「ねえ、君。『あおのよい』ってなんだい? この酷いイベントの続きかい?」


「……? 《蒼の宵》は、夜空に《アオノホシ》が、でます……」


「青の星? 花火か何かかな?」


「ちがい、ます。扉を開けて、みてください……」


 言われた通り馬車の扉を開けてみると、あれほど強かった吹雪がピタリと止んでいた。

 積もった雪に、雲一つない星空の光が反射して、美しい銀世界を一面に描いている。


「綺麗だ……。綺麗だが、これが『あおのよい』ってやつかな?」


 首を横に振る銀髪の少女。違うのか。なら、なんだ? 何が起きるんだ?


「そろそろ、でます。……きた」


 夜空に向かって、少女が指差した先。そこにあるもの。

 空間を歪めるようにして突如として現れた、夜空を埋め尽くすほどに大きな『ソレ』はーー



「嘘、だろ……?」



 ―――地球。



 そこには、俺がよく知る水の星が、闇夜を青く、青く照らしていた……。

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