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◇2.新しい朝がきた



≪≪……の転移を確認。……に、神術の……付……。神術『水波能売命ミヅハノメ之……』≫≫


≪≪……新たに……外部……の侵食……確認≫≫


≪≪……クラス……変更。……呪詛…追加……≫≫


≪≪霊力の自動消費……確認。これより……常時発動……≫≫





 ……。


 …………。



「……きろ」


 誰かが、俺を揺すっている。


「起き……ろ」


 頭が、揺らされている。それに、乗り物的な振動と、ボディに感じる鈍痛。どうやら、誰かが俺を殴っているようだ。

 他に髪の毛が引っ張られる感覚もあるが、尋常じゃないくらいの睡魔に襲われているので、起きる気にもならない。


「ううん。母さん、後2時間寝かせてくれ……」


 俺は頭を弄る何かを払い除けつつ、寝返りを打った。


「うわっ、こいつ抵抗したぞ!」

「生きてるーっ!」

「生意気な変態ねっ!」

「やっちまえー!」


 子どもの声だ。まだまだ寝ようとする俺の頭や腹を殴る子ども達。

 殆どはザコパンチだが、たまに重い一発を入れてくる奴が居る。いいパンチが入る度に、俺の体が跳ねるように痙攣した。

 うん、結構痛い。痛い、痛いぞ。


「パンチとはこーゆーものよー!」


 ゴフッ! 小生意気な少女の声と共に、誰かの拳が俺の腹にめり込んだ!

 畜生! 痛いだろうが! 殴りすぎだろうが、オイっ!?


「誰だ!? 俺の腹にマジパンチした奴は!?」


 遂に覚醒せし俺の意識! もう許さんぞっ!

 俺は強い奴には弱いが、弱い奴には強いっ!

 キサマら糞ガキ共を血祭りにしてくれるわっ!!


「うわー! 変態が怒ったぞーっ!」

「しっぽないねー」

「生意気な! くらえっ、ギャラクティカ・ボム!」

「ぐああッ!」


 ギャラクティカ・ボム(子どもパンチ)が、俺の鳩尾みぞおちに突き刺さった!

 堪らず膝から崩れ落ちる俺。大人が子どもにのされた瞬間である。


「悪は滅ぶのだ……」


 勝ち誇るギャラクティカ・ボムの糞ガキ。その頭には虎のような耳が付いていて、ピョコピョコと動いている。

 その糞ガキが同じく虎のようなしっぽを偉そうに揺らしながら、イラッとくるドヤ顔をこっちに向けてきた。

 10歳くらいの可愛らしい女の子に見えるが、実に凶暴だ。

 他にもこの糞ガキと同い年くらいの子どもが3人も居る。

 俯いたまま座っている銀髪の女の子1人を除き、他はみんな虎耳だ。何かの仮装会だろうか?


「ヒューッ、ヒューッ……」


 痛みで思うように呼吸が出来ない。子どもに殴られたことはそれなりにあるが、5歳くらいになるとそのパンチは意外と重い。

 向こうはじゃれてるつもりなのだろうが、食らうこっちは半ギレ寸前だ。

 親戚の子どもだろうと何だろうと、俺はやられたらやり返す主義(弱者限定)なのだ。


「お前か……。さっきからいいパンチを決めてやがったのは……」


 回復した俺は、ギャラクティカ・ボム子の襟首を両手で捻るように掴むと、宙吊りにして睨み付けた。

 床から離れた足をプラプラとさせながら、恐怖で顔を歪ませるボム子。その虎耳はペタンと倒れ、尻尾は股に巻き付いている。

 ……どうやら俺は、救急車ではなく幌馬車の荷台らしき場所に居るようだ。

 らしきと言ったのは、前後の入り口が完全に閉じられていて、外の様子がよく分からないからだ。

 むむむぅ。状況確認の為にも、コスプレをしたこの糞ガキ共には色々と聞く必要がありそうだな。


「うわー! メメが捕まったーっ!」

「かえしてー! メメちゃんをかえしてー!」

「誰が返すかっ! ほ~らたかいたか~いッ! たかいたか~いッ! フハハハ!」


 邪悪な顔をして更に高く高く締め上げていく俺。


「わたしのしってるたかいたかいじゃないですっ」


 取り巻きの糞ガキ子が何か言ってるが、んなもん無視だ無視。


「アワワワワっ」


 フハハ、怖かろう? これが大人の高い高いだ。幼子の高い高いから卒業できて良かったな。

 ギャラクティカボム子改め、メメとかいう糞ガキは、今は俺の方が有利だと理解しているのだろう。

 拘束され宙ぶらりん状態となったまま、アワアワと慌てるばかりだ。


「め、メメになにをする気だー!」

「かーえーしーてー! メメちゃんをかーえーしーてーっ!」


 取り巻きの糞ガキ少年と糞ガキ子が、俺をポカポカと叩き始めた。痛い。

 この取り巻き共にも虎柄風の尻尾や耳があるが、子どものお遊戯とは思えないほどの出来映えだ。

 尻尾がボサボサに膨らんでいるが、威嚇機能付きのおもちゃだろうか?


「ん? 何をするって? そりゃあ状況を……う゛っ!?」


≪≪……呪詛……《罵詈雑言》……解放します≫≫


 突然、頭の中にノイズ混じりの女性の声が響いた。なっ、何だっ? 幻聴かっ?


 それと同時に湧き上がる、これダメですわ的な衝動。


 抗えない何か。頭の中は冷静でいられるのに、言葉が濁流のように溢れて、溢れ……。


「何をするだぁ? そりゃあ、エロいことに決まってまちゅよー! このお子ちゃま共が!」


 突如、モザイクがかかりそうな悪人面をして、舌をレロレロと卑猥に動かし始めた俺氏!


「やあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!」

「そ、そん……な。メメちゃん……」

「こ、こいつ、スケベ野郎だっ! 野獣だっ! 父ちゃんがこんな感じだった!」


 ギャラクティカボム子が泣き、取り巻きの糞ガキ子がへたり込む。糞ガキ少年はなぜか父親をディスっていた。


「ゆ、ゆるしてくらしゃいぃ……。きずものなるのやらぁぁ……」


 な、何が起きたんだ!? 思ってもないようなことを口走ってしまった!

 子どもに対する優しさには定評のあるこの俺が、こんな暴言は有り得ない!


「ま、待てっ! 違うんだ! 今のは違うんだ!!」


 宙ぶらりん状態から解放され、へたり込むボム子を守るように、俺の前に立ち塞がる糞ガキーズ。


「ちがうんだちがうんだは、ちがわないしょーこだって、お母さんいってたもん!」

「そうだ! 俺たちの父ちゃんが違ってたことなんか1度もない! だからいっつも母ちゃんに怒られてたぞ!」


 ……お前らの父ちゃんはなんなんだ?

 それはそうと、状況が把握できない。何がなんだかサッパリだ!


「本当に誤解なんだよ! 後でお菓子買ってやるから落ちつけ! な!?」


 困った時のお菓子作戦である。

 他人から見れば全裸で子どもにお菓子をあげようとする危ない人かもしれないが、俺はそれどころではない。


「ほんとにー?」


 糞ガキ子が目を輝かせながら見詰めてくる。


「あ、ああ。本当だともさ」

「はだかなのに? お金、だいじょーぶ?」


 裸ってお前、またまたー。そんな冗談は通用しないぞっ?

 と、思って俺の体を見てみると。


「マジ、かよ……」


 一糸纏わぬ俺の体が、そこにはあった。


 全裸だ。フルチンだ。ははは。道理でさっきから妙に解放感があった訳だ。パニックで気が付かなかったぜ……。


 ……。


 ただの変態じゃねえか!!

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