3人目
帰りのバスの中、エミリーと話していた。
「どうしたケイミー?」
「剣志、日本語教えて。もう何が何だか分からないの。授業も日本語だし何言ってるか分からないの。」
そもそも授業に関しては俺も全く何言ってるか分かってないんだが・・・。
「そのくらいいいぞ、教えるの簡単だし。」
強がってみたが、声が少し裏返った。恥ずかしさをごまかすため、ちょうどいい高さにあったケイミーの金髪の頭をポンポンと軽くたたく。見ると、ケイミーはなぜか俺より恥ずかしそうにしていた。
下宿に戻り、とりあえず寮母さんにケイミーを会わせると、
「誰?」と聞かれた。事の顛末を話してみると、そんなこと聞いていないと言う。無能の糞やろう。
全部押しつけやがった・・・。急いで無能先生に電話をかける。
「もしもし、おい無能!」
「無能とはひどいではないかそれと美濃宇だ。なんか用か?」
「ケイミーの下宿の件、どうなっているんですか?」
「あぁ、忘れてた。すまん、あとよろしく。明日職員室で待ってるからな。」
そう言って切りやがった。寮母さんに開いている部屋がないのか聞いてみてもないと答えるので如何したものかと考えていると、ケイミーが、
「あの、私、剣志と同じ部屋がいい。」という。耳を疑った。こんなおいしい展開があってもいいのか、いや、いいはずがない。断らねば。そう思ってはいても断りたくはない。誘惑に、人間は勝てないのだ。
「じゃあ部屋片づけるからちょっと待ってて。」そう言うと同時に俺の体は階段を駆け上がっていた。
片付けが終わり、寮母室に戻ると、気まずそうな雰囲気が漂っていた。あれから一言も話していないのだろう。「行くぞ。ケイミー。」そして部屋を後にした。階段を上り部屋の前まで来ると、妙な緊張感に襲われていた。深呼吸をするといつの間にかケイミーがベッドにダイブしていた。
「部屋の説明をするから起きてくれ。」
「やだ、このままがいい、続けて。」
可愛い、逆らえそうにないなそのまま続けよう。
「ケイミーはベッドに寝てくれ、俺は下に寝るからくれぐれも落ちてきて押しつぶされないでくれよ。あと、机やテレビは共用だから。時間を決めて使おうな。冷蔵庫と電子レンジはいつでも使ってくれ。」と言うと、こもった声で「分かった。」と聞こえた。
しばらくして、顔を上げたケイミーに、日本語を勉強するかと尋ねると、元気よく「する。」と言って机についた。どれだけやる気があるのだろうか。4時間の後、ついに基本を教え終わった。ドイツ語で日本語を教えるのがこんなに難しいとは思わなかった。
「もう疲れたな。遅いし、寝るか。」そう言ってケイミーを見るとすでにドアからでようとしていた。其の顔からは眠さしか読み取れなかった。
そうして非日常な一日が終了した。さぁ、ケイミーは落ちそうだし、椅子で寝るか。
「おやすみ」そうして夜は見えなくなった。




