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日常の天才  作者: 九条歩
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3人目 ~序章~

今日は何故か、学年集会があった。俺はもちろん参加したが、周りを見渡すとだいたい二百人中五十人程度しか集まっていなかった。なんて出席率が低いのだろう。その五十人も、ガヤガヤしていた。先生が入ってきても、無視するかのように話していた。先生は大声で言った。


「特例で入学を許されたケイミーだ。試験的に女子を入学させることにした。この棚田学園も、数年後には世間の流れにそい、共学にするつもりだ。よろしく頼む。」


俺も含め、全員が大歓声をあげた。なかには、先生に対して

「無能のくせに良くやった!」

という声も聞こえた。すると、やっとケイミーと紹介された生徒が口を開いた。

「ケイミーです。よろしくね。」

と言った。それはもう流ちょうなドイツ語だった。当然のようにドイツ語を話されたが、あいにく、俺らは全員・英語・ドイツ語・ロシア語・フランス語・スペイン語・中国語・韓国語をキッチリと中学の段階で修めている。何しろ高校に上がる時の面接は、七ヶ国語のうち、どれかで行われるからな。全くもって恐ろしいものだ。集会が終わり、教室に戻ると、隣にケイミーがいた。

「よろしく。」

と、さり気なく話しかけると、案外話が弾み、友達になってしまった。無駄な才能が発揮された瞬間だった。まさかドイツのルール工業地域の今後について話し合うことになるとは思わなかった。流石に、守備範囲ギリギリの話題だったぞ。そのまま何もなく1日がすぎてゆく。ケイミーはと言うと、むさい男どもに群がられて、難儀していたが、助けずに、そのままにしておいた。どうせ数日であいつらは飽きて、自分の研究に戻るだろう。

放課後、先生に呼び出された。

「むの…。いえ、美濃宇先生、どうされました?」

そう言って近づくと、

「お前、今、無能って言っただろ。言ったよな!」

ちなみにこの人は集会を開く先生だ。バカにされている。そのまま、先生は続ける。

「集会のときだって無能って言われて、傷ついているんだぞ。そうだ、無能なら無能らしく面倒事全てお前に押し付けてやる。」と、何故かパシリ宣言をされたのだが…。

「先生、そんな用で呼んだのなら、帰りますよ。」

と、テンプレなセリフを吐いてみると、

「いや〜。待ってよ〜。話聞いてよ〜。」

と、教師らしからぬ顔をして泣きついてきた。

「早く本題に入ってください。」

「おう。そうだな。グスッ。ケイミー、入ってこい。」

おもむろにケイミーを呼び、

「彼女のホームステイ先なんだが、お前のところに頼めるか?」と言ってきた。

「はぁ?」思わず声を上げてしまった。

一応確認しておこう。

「拒否権は?」

「ない。」即答。

「断ったら?」

「泣きわめいて、あることないこと叫び散らす。」

生徒を脅す先生がいるかと思いつつ、それらしい、もっともな言い訳を全身全霊をもって考える。

「うち、下宿だから…。」

「話はつけておいた。」

なに!!

無能のくせになんという手回しの良さ。

そこでケイミーが口を開いた。

「そんなに私が嫌?」と、

負けた。完敗だ。

そんなことを思いつつ、ケイミーと一緒に下校することになった。

俺のただただ平凡な日常が音を立てて崩れた気がした。


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