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日常の天才  作者: 九条歩
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2人目

 今日は大雨洪水警報が発令して、学校は休校だ。いつも通り起きてしまった自分を恨めしく思いつつ、二度寝の体勢に入る。

 休校は俺の心に安らぎを与えてくれる。普段、変人たちの相手をしているのだから当然のことだ。今日はあいつらと顔を合わせなくて済むと思っただけで、とても嬉しくなる。よく不登校になっていないものだと、今更ながら感じていた。それには理由があるのだが、今はまだ秘密にしておこう。そうだな、代わりと言ってはなんだが、今日は俺の学校での精神を保ってくれる親友について話すとしよう。彼も変人の部類に入っているのだがまだましなほうである。

 彼は岡手秋三と言って、いつもは二人でボードゲームをして遊んでいる。もちろん、俺はボードゲームも普通にできる。ただし、普通を超えることはないが…。既に何回かプレイしたことのあるゲームでは全くもって太刀打ちができないので、常に新しいゲームを模索している。そこで彼の恐ろしさがハッキリと表れるのだが、彼は、ゲームの必勝法を見つけることに長けているのだ。流石にまだ、囲碁や将棋の必勝法は見つけれていないらしいが、まぁ、時間の問題だろう。

 そんなわけだから、たぶん、おそらく、きっと、どんなプロよりも強いと思う。最善手の読み合いをさせて彼にかなう者がいるとは到底思えない。例え最新鋭のコンピュータでも勝てるか怪しいレベルだ。彼が全く有名でないのは、彼が絶対に大会に参加しないからだ。もし大会に出たならば、ゲーム界を席巻し、それだけで稼ぎ生きていけるだろう。

 俺は彼になぜ大会に出ないか聞いたことがある。すると、彼は平然と、


 「ゲームに美しさを求める俺が出たら真面目にプレイ

  している人に迷惑だろ。」

  と、答えた。

 毎週毎週、確かに負けた俺が満足するぐらい美しい最終盤面になっている。彼と、もしオセロなどしようものなら、負けた挙句、白黒で絵でも書かれるのがオチだろう。流石に怖いのでそんなことはしないが…。

 ここからは勝手な推測なのだが、彼はゲームの神様に取り憑かれてしまったのだと思う。彼に敵はいない。だからこそ、美しさを追求しているのではないかと思う。彼とゲームをすると、本当に勝負のことなどどうでもよく感じてしまう。毎週毎週、ゲームを変えているのは俺が負けて悔しいからではなく、次はどんな美しいものを見せてくれるのだろうという期待からである。

 彼は間違いなく天才である。断言しよう。天才であることが本当に良いことかは、俺にはわからない。俺は天才ではないからな!しかし、隣でいつも見ていると、不憫に思えてくることもある。敵がいないというのはつまらないものだろう。案外、普通であることも良いことなのかもしれない。

 ここまで考えたところで、目が覚めた。何時間寝ていたのだろうか、外は驚くほど晴れていた。さっそくゲームを探しに外に出ることにしよう。当分の間は彼と対等に渡り合えるようになるまで遊び続けることだ。


  「待ってろよ!」

  そう叫び俺は水たまりの残る街に繰り出した。



  ~続く~


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