プロローグ
町の中心部に一本桜の古木がある。彼岸桜と言う種類らしい。有名なソメイヨシノより少し早い時期に開花するようだ。樹齢は三百年とも四百年とも言われているが、正確なところは判らない。千年を超えると言っている人もいる。短命なソメイヨシノと違って彼岸桜の寿命は長く、千年以上の古木もあるらしいが、この町の歴史を考慮に入れた場合、三~四百年と考えるのが妥当だろう。それでも江戸時代からここに立っている事になる。
私の住む町では、町内在住の高校卒業生をこの桜の下に並ばせて記念写真を撮る風習がある。どうせ、最近出来た風習かと思っていたら、そうでもないようだ。
この風習が始まったのは、江戸時代だったらしいのだ。
当初は成人を祝う儀式だった様で、男子は十五歳、女子は十三歳になると此処に集められ、神主によって成人の儀が行われていたらしい。この成人の儀を済ませた男女は、結婚対象となったようなので、その御披露目の意味もあったのではないだろうか?
現在の成人は二十歳だが、男子が十八歳、女子は十六歳になると法的に結婚が認められる。高校卒業生を集めた現在の風習も、あながち的外れではないような気がする。
そんな一本桜が私の人生において、欠く事の出来ない存在になっていた。
私の記憶のもっとも古い所にある桜は、中学生の頃にあった。もちろんそれ以前にも記憶はあるのだが、親と一緒に花見に来たなどと言うどうでもよい記憶だ。
中学生になり、私も初恋と言うものを経験した。今思えば、それは可愛らしい恋であったのだが、そこに一本桜が登場するのだ。




