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勿忘草

作者: 沙織

澄み切った夏の青空の下で誓った俺らの約束。


“大人になってもずっといっしょだよ?”


でも、その約束は守れそうにないよ・・・





『一ヶ月・・・』

「長くても、そこまででしょう。」


蛍光灯の明かりのまぶしい小児病棟で、由希の部屋へ向かう。

俺の中には“一ヶ月”という言葉がぐるぐる回っていた。


『何でだよっ!!』


病室へ向かう途中、由希の担当医の先生に会って、話をされた。


“由希さんは、あと一ヶ月生きれるか・・・”


目の前が真っ暗になったようだった。

信じたくなかった。


“何で由希が・・・”と言う事しか思えなかった。




『由希。』

「あっ、たっちゃんw来てくれたんだ。」


個室で一人、本を読んでいた由希が明るい表情で言った。


『俺じゃない方が良かった?』

「ん〜・・・」

『悩むのかよ!』

「冗談だよ。」


はにかんでる由希を見ると、自然に俺も笑えた。


隣りの病室の子が夕飯残して怒られてたとか、

看護婦さんが新しい花を生けてくれたとか。

些細なことも、幸せそうに話す由希を見て、

深刻な話など切り出せずにいた。


「それでね、マキちゃんが泣いちゃったの。」

『寂しかったんだろうな。』

「ね・・・。小学生だもん、しょうがないよ」


“寂しい”という言葉に反応したかのように見えた由希。

日も傾き始め、面会時間も迫ってきていた。


『由希は寂しくならないの?』

「ん?」

『病室に一人で、寂しくない?』

「大丈夫だよ。

 いつも、大好きなたっちゃんがきてくれるし。」


そんな事を言われると思ってなかったせいか、俺の顔は熱くなる。

夕日のせいか、由希の顔も赤くなっている。


『そっか。』

「たっちゃん、顔真っ赤だよ。」

『うるせぇ。』

「あははは」


そんな彼女を見てるとふと抱きしめていた。


「たっちゃん!?」

『ちょっとでいいから、こうさせて。』


“一ヶ月”で会えなくなると思うと、突然寂しくなった。

時間を恨んだ。

このまま時がとまればいいのに、と心から思った。


「たっちゃん・・・?」

『俺、今すごい幸せ。

 由希と一緒に居れて。

 ありがとう。』

「っ・・・。」


由希の頬には一筋の涙が流れていた。


「たっちゃん。」

『ん?』

「あたしも幸せだよ?

 短い時間しか、たっちゃんの傍に居れなかったけど。

 いつもお見舞いに来てくれて、こうして抱きしめてくれるのも

 たっちゃんでよかったって思ってるよ。」

『由希・・・。』


夕日も沈みかけ、オレンジ色に染まる病室。

2人だけの空間がこのまま続けばいいのに・・・










2週間後・・・


余命を宣告されてから俺は毎日のように由希の病室へ行っていた。

由希に寂しい思いをさせたくなかった。

両親のいない由希の面会に来るのは、由希の叔父さんか俺くらいだ。

だから、時間があれば由希のところにいた。

一人にして置きたくなかった。




今日も由希の病室に入る。

今日は、俺らが付き合って、半年の記念日。

いつもと何か違うよな薄暗い廊下を、

由希へのプレゼントを持って行く。



『由希。』


「あったっちゃん、今日も来てくれたんだ。」

由希のその明るい声が聞こえるはずだった。

でも、電気もついていない病室のベットには由希はいなかった。


『・・・由希?』


ゆっくりベットに近寄る。

そこにあるのは、きれいにたたまれた布団。



病室を間違えたのだろうか。

・・・でも、ここは507号室、由希のいつもいた部屋だ。

6人部屋に移った?

・・・後2週間という余命で、病状が良くなったとは思えない。



じゃあ、何でここに由希がいないんだ?



ベットの横の机を見る。

そこには叔父さん宛ての手紙と俺宛の手紙。

叔父さん宛ての手紙は開封済みだった。

俺は、自分宛ての手紙を開けた。

そこには、手紙と一輪の花が入っていた。












由希の葬式は雨の中、しめやかに行なわれた。

大きな箱の中に入った由希。

きれいな花に囲まれた由希は、幸せそうに見えた。

俺は、そっと手紙に入っていた勿忘草を入れた。



澄み切った夏の青空の下で誓った俺らの約束。

“大人になってもずっといっしょだよ?”

その約束は守れなかった。

でも、由希はいつまでも俺の中で行き続けるから。


ずっと忘れないよ、由希。

今でも、愛してる。





……the end……






DEAR⇒たっちゃん


これを読んでるって事は、あたしはもういないのかな?

なんで、もうって思ってくれてる?

ホントは、一週間前に死んでてもおかしくなかったんだよ?

たっちゃんが、「あと一ヶ月」って聞いたときには、

あと一週間くらいって言われてたの。

でもね、せめて記念日まではって神様にお祈りしてたんだw。

記念日にたっちゃんに笑顔で会えたかな?

半年だけだけど、一緒にいてくれてありがとう。

一緒には居れないけど、ずっとずっと大好きだよ。


FROM⇒由希









  勿忘草 … 私を忘れないで

          誠の愛

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― 新着の感想 ―
[一言] 少し短いけど、こっちまで切なくなりました。とてもいいと思います。
2008/06/14 18:27 退会済み
管理
[一言] 書き始めは何かと思ったけど 女の子の手紙のところで泣けました。
[一言] 風景描写もあって 登場人物の心情も掴みやすいと思う。
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