逃走の投影
転落しようと平凡なだけ。
彼は一位だった。何がどうということはない。ただ一位だった、それだけのことだ。
一位だった彼は孤独だった。孤独だった?いや、本人が心を閉ざしただけかもしれないが、他人と関わりを切ったのは間違いない。その意味では孤独か。ずっと一位だった彼には他人の気持ちなど知る由もない。そんな状態で縁を作るほうが無理だ。
また彼は怠慢であった。自分の才能に自惚れていた。ただ現実からの逃避といえばそれまでだが。
しかし、彼は一位から転落してしまった。その瞬間、もう彼はなんとも思っていなかった。
「現実逃避」の日常が「現実」にスライドしただけの世界。それが彼の見えているものだった。
次に一位になったものは努力が得意であった。
努力を尽くす彼は仲間も多かった。かつての彼よりも社交的であった。それは当然である。努力さえすれば報われるという甘い幻想を振りまく優しい悪魔だったからだ。
しかし悪魔は孤独にもなった。このまま一位でいたいという考えが脳を支配した。悪魔は自分が自分でコントロールできなくなった。
悪魔は逃げた。いずれ再び審判の日が来ることから逃げた。皆の期待の眼差しから逃げた。現実から逃げた。ただ一位の幻想は常に持ち続けた。
悪魔は皮肉にも自分から滅亡に走ってしまったのである。
「現実からの逃避は楽しいですか」
「ああ、楽しいとも」
どこからかそんな悲しげな声が聞こえてきそうである。
ただのうぬぼれ