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COOL&LOVELY  作者: なかむら結
10/10

彼が好き

タクシーには乗らないで30分の道のりを50分かけて歩いて帰った



歩いていると彼が話したことがまた頭をよぎった



どうしようもなく情けない結婚生活は

格好の悪い彼の一面を見た



嫌なことから逃げて逃げて

考えて成長して

結局、振り出しに戻った彼はとてもピュアに思えた



気が付いたときには失っていた

失ってはじめて大きなことに気が付いた彼に

切なさを感じた



出会った娘に自分を見つけ

嬉しそうに目じりを下げる彼に

・・・嫉妬を感じた



彼はもっとクールな人だと思っていた



見栄や向上心やそれに纏わるいやらしさにはかけ離れている

生活観を感じない

あたたかさはない

だけど

その冷たさの中にあるちょっとした優しさが良かった



この三ヶ月

会えない間

私は彼への思いを募らせていた

メールが来て

会えるって思って嬉しかった

急いで急いで早く会いたかったから一生懸命だった

お店の前で息を整えて格好付けたけど

・・・会いたかったから・・・嬉しくて



そんな気持ちは馬鹿らしく感じた



口にはしない

態度にも出さない

だけど

彼も同じ気持ちだろうって思ってた

私の驕りだった



私と会えない間

新しい愛情にときめいていた



大人気ないのは分かってる



相手は元奥さんではなく娘



何が悔しいって

勝ち目のない相手だという事だ



そんなことを考えながら歩いて歩いて歩いた



家に着きパンプスを脱いだらかかとに肉刺ができていた



玄関にカバンを投げ

ストッキングや洋服を雑に脱ぎ捨てながらソファーに深く座った

酔いがいい感じにまわっているのが分かる

ぼんやり天井を見つめた



”PIPIPIPPI”



こんな時間のメール着信

眉間にしわが寄る

玄関に投げたカバンを取りに良き

携帯を確認した



彼からだった



『今日は話し聞いてくれてありがとう

すっきりした



今度、娘と会って欲しい



お前が良ければ



オヤスミ』彼



必要最小限の業務的なメール内容が多い彼



帰った後にメールをくれることなんて

今までになかった



『ありがとう』

彼らしくない・・・だけど嬉しい



私は立ち止まり何度もメールを読み返した

短いけれど

彼らしくなく優しく一方的ではない内容に

驚き

そのまま廊下に座り込んだ



そして

携帯を抱きしめて笑った



私は彼が大好きだ


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