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機械女神スラちゃんの飼育日記  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第二章:スラちゃん故郷出頭編
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98話

  目が覚めると真っ白な天井があった。

  少し記憶が曖昧になってるがあの雑草スープを飲んでラリった後スライムたちにここに運ばれて寝かされてたのは覚えている。

  つまりここは病室って言った所か。

  

  「……」


  だが俺が知ってる病室とは何かが違っている。

  まず俺の周りには花やら果物やらが大量にあって壁が見えないほどだ。

  きっとスライムたちが持ってきたお見舞いの品なんだろうが限度があるだろう。ドンキホーテかよ。


  そしてお見舞いのスライムたちがいた。床が見えないほどびっしり敷き詰められていたりタワーになってたりしてるから何匹かは分らないが3桁は間違いなくいるだろう。

  まぁそれはそこまで驚くこともないだろう。こいつらって集まるのが好きな生き物らしいし。

  ただ――

  

  うねうねうね


  「"もっと体をくねらせて!"」

  

  「"はい!"」


  「"ふぁいやー!"」


  松明を持ったスライムたちがうねうねとファイヤーダンスをしている。

  ……一体あれは何してるんだ? 


  「"おお、神よ!なお君に幸あれ!"」


  「"アーメン"」  


  別の所では十字架を持ってフードを被ったスライムたちが祈っている。

  ……お前ら一応神だろう?何で神が神頼みしてるんだよ。


  「"暗黒を司る悪魔よ。我の体を引き換えになお君の蘇生を!"」


  「"さぁ闇の契約を機械女神とするのだ!"」


  魔法陣のマットを敷いてシルバーアクセサリーをじゃらじゃら纏ったスライムたちが中二病的な事をしている。

  ……俺死んでねぇからな?てか、神が悪魔と契約してるんじゃねーよ。


  一見ふざけているように見えるがこいつらなりに心配してくれているんだろう。

  俺は体を起こして起き上がろうとする。


  「どう、体調は?」


  看病してくれていたのであろう陽菜が優しく体を支えて起き上がるのを手伝ってくれる。

  

  「……先に言っておくけど着せられただけだから」


  白いナース服のコスプレをしていた陽菜はもじもじとしながら恥ずかしそうにしていた。

  

  スライムたちGJ……と褒めてやりたい所だがまだまだ甘い。陽菜が来ていたのは本物っぽい普通のナース服。

  本物ナース服は露出も少ないし地味なんだよ。だからコスプレ用のナース服はもっとこう、胸元が大きく見えるようになっていたりフリルがついていたりと工夫がされている。

  せっかく持っている陽菜のエロボディを最大限に活かすならそういったコスプレをさせなければあまりにも勿体ない。


  ただ、本物に近いナース服のコスプレでも改造ナース服よりも優っている部分がある。

  それはシチュエーションだ。


  「あー頭がグラグラするなぁーこれは熱かなー(棒)」


  「えっ?大丈夫?ちょっとじっとしてて」


  陽菜は俺の額に手を当てて熱がないか確かめる。

  ああー、そうそう。こういうプレイ良いよ。


  最近陽菜にセクハラしまくりで麻痺してるがこうやって学校一の美少女の手が額に触れているだけでも凄いご褒美。役得、役得。

  このままこっそり陽菜の手の匂いをかぐ変態プレイをしたい所だが少し他に気になるところがあるから見送り。


  「熱はないようね」


  「ああ。嘘だからな」


  「何でそんな嘘つくのよ」


  「何、構って欲しかっただけだよ。それよりスラは?」


  ラリったとは言え故郷の水のおかげで今や体力はMAXまで回復をしている。

  感謝こそしても怒るつもりは全くない。


  「スラはあそこ」


  「あー。あれか」


  かりかりかり


  陽菜が指さした方を見るとスラがイスに座って何かを書いてた。

  

  「この度は、ボクのせいで先輩方にご迷惑を――」


  スラは原稿用紙に反省文らしきものを書いていた。

  だけど何故反省文を書いてるんだ?


  ……反省文。

  そういえば俺たちがここに来た理由はスラの裁判を受ける為に来た。そして裁判で有罪になった場合、確か反省文を書かされる罰だった気がする。

  だとすると――


  「まさか俺が寝ている間に裁判が終わったのか?」


  「……しくしく。違います……これは高度な司法取引です」


  「司法取引?」


  「これを見てください」


  スラが何もない空間で指でスライド操作をすると何かの映像が表示される。


  「……おお。なんかSFっぽいぞ」


  ライトセーバーや建物をすぐに建築するツルハシとかふざけた物はこれまでに見てきたが、これはまさに人間が想像した未来の技術って感じだ。

  画面の映像よりもその技術に目がいってしまう。

  認めたくはないがこんな物見せられるとやっぱ機械女神の技術力はすげぇって思ってしまうな。世界一ぃっ!


  「うにゅ、やっぱ楽は良くないですね」


  「えっ?」


  「ちょっと待っててくださいね」


  サッー


  スラは画面をなぞる様に指をスライド操作する。すると画面がさっと消えてしまった。

  そしてスラは机の引き出しをごそごそとあさって何かを探しているようだ。


  「えーっと……。これです、これです。ありました」


  お目当ての物を見つけたスラが手に持っていたのは2本のビデオテープだった。

  おいおい、今の時代はブルーレイだぞ。ビデオテープなんて見たの何年ぶりだ?


  そしてスラはビデオテープを持ってとことこと歩き、ベッドの隣に備え付けられていたビデオ一体型のブラウン管テレビにビデオを入れる。

  ボタンをがちゃがちゃ操作して再生しようとしている。


  「うにゅ?映らないですね。どうしてでしょう?」


  「"えぐりこむようにして打つべしっ!!"」


  どんどん


  赤スライムがテレビの上に乗ってテレビを叩きつけるように跳ねる。

  しばらくするとテレビに画面が映った。


  うんうん、そうだよねー!昔の機械って叩いて無理矢理直してたよねー!あるある!


  「おお、さすが赤――スライムです!ちゃんと映りました!」


  ぴょん!ぴょん!ぴょん!


  画面が映ったことによりスライムたちは大盛り上がり。テンション高そうに跳ねたり踊ったりしていた。

  

  ……


  …………


  意 味 わ か ん な い !


  今のスラがやった行為の意味が全く理解できないんだけど!?

  何で!?何で!?SFちっくに空間に画面出せばいいじゃん!?何でわざわざアナログテレビ使ったの!?何でビデオテープなの!?

  やってること無駄すぎない!?


  「なぁ――」


  「なお君の言いたい事は分かります。効率厨のなお君にはボクのやった事は分からないのですね!」


  「……ああ」

  

  「気持ちの問題なのです!」 


  気持ちの問題って何だよ……。今ので一体何の気持ちが解決されたんだよ。


  てかスラのやる非効率、非生産的な事は全部気持ちの問題で片づけられているような気がする。

  この前もスライムって歯がないのに何で歯磨きしてるの?って聞いたら「気持ちの問題です!」って言われたしな。

  歯磨き粉が勿体ないだけじゃねぇか。


  ……スラとは長い付き合いだがここら辺はスラと永久に分かりあうことはなさそうだ。

  小さく頷いて自分を納得させる。


  「分かってくれてスラちゃんも嬉しいです!」


  「……分からねぇよ」

  

  まぁ、今に始まった事ではないか。

  とりあえず永久に解決できない問題はを解く作業は置いといてテレビに映し出された画面を見る。

  画面には俺がベッドの上で母さんからもらった六法全書を全部暗記しようとしてる姿が映っていた。


  「昨日の午後10時頃、精鋭スライムたちが参加賞のなお君添い寝権を使う為に部屋に忍び込んで盗撮した時の映像です。本来はなお君の寝顔をこっそり撮るつもりでしたが、なお君は起きてました」


  「……」

  

  さらりととんでもない事を言いやがった。盗撮って何だよ盗撮って。

  今後こいつらに倫理や道徳とやらを聞いてみたい。絶対人間と認識のズレがあるぞ。

   

  「早送りしますね。なお君が寝るのをスタンバってた精鋭スライムたちでしたが、この映像を見ての通り午前4時になってもなお君は六法全書を読んでいたのです。そしてこの映像を見てください」


  早送りをやめて通常再生にすると俺が六法全書を暗唱している映像が流れいていた。


  まぁ、この映像に間違いはない。覚えた所を忘れないようにするために暗唱してた記憶は確かにある。

  だが、これが司法取引にどう繋がるんだ?


  「なお君はこのまま1時間、一度も六法全書を見ることなくずっと暗唱しました。その様子を見てスライムたちは悟ったのです」


  「悟った?」


  「もし、なお君がボクの弁護士として参加したら機械女神側に勝ち目なんてない……。それはまるで、エンジョイ勢がワイワイ楽しくやってる中にガチ勢が乱入してきてエンジョイ勢を蹂躙するようなものだと悟ったのです」


  「……」


  「それで初めから勝ち目がない試合をしたくない検察役の先輩とこれ以上なお君に迷惑をかけたくないボクのメリットが一致して司法取引になったのです。妥協案として裁判を中止する代わりに反省文400文字とクエスト1つになりました」


  こいつらが地球でやってる裁判みたいなちゃんと裁判をするとは思えないとは前々から思っていた。

  だが、裁判は裁判。スラが不利にならないよう念には念を入れて昨日は寝る時間を削って六法全書を丸暗記をしていた。

  素人の俺が下手な事をしでかさないよう可能な限り準備をしていたが、いつしかまるで俺が空気読めない奴みたいな扱いになっとる……。 


  俺SUGEEE!と言うつもりもないが一晩で六法全書丸暗記できる人間なんてそうそういないだろう。

  だがお前らだって人智を遥かに超えた存在だ。むしろ俺の方が圧倒的に不利だと思うんだが。


  「お前らだったら別にビビる事でもないだろう?なんせ一匹で地球にあるコンピューター全てを束ねても勝てない演算処理能力があるんだから」


  「うにゅ?なお君の言ってることがあまり分かりませんが――」


  「いやいや、分かれよ。つまり人間の俺はお前ら機械女神に絶対勝てないってことだよ」


  スラは本当に分からなさそうに首を傾げて考える。そんな難しい事言ってはないと思うんだが……。


  「んー……そうなのですか?まぁ音楽性の違いってことで!とりあえずこれを見てください。数年前にあった裁判の映像です」


  スラはボタンをがちゃがちゃと操作してビデオテープを入れ替える。


  ……軽く聞き流してしまったけど音楽性の違いって何だよ。俺たちいつの間にバンド組んでたんだよ。

  

  「再生っと……」


  ザザー

 

  だが、砂嵐が混ざってよく映像が見えない。


  「えぐりこむようにして打つべし」


  ぽんぽん


  スラが優しくテレビを撫でるように触るが映像は乱れたままだ。


  「"違ぇーよ。こうやるんだよ。えぐりこむようにして打つべしぃっ!!"」


  ドン!ドン!ドン!


  また赤スライムが同じようにテレビの上で跳ねるとちゃんと画面に映像が映った。


  「"おぉー!さすが先生!"」


  「"今度おしえて!"」

  

  こんなつまらない事でもスライムたちはまたまた大盛り上がりだ。

  てか、そんな物理で殴ってないでちゃんと直せよ!?こういう場面こそ機械女神の本領発揮する場面だろ!?


  「"せーんせ!せーんせ!"」


  「"わっしょい!わっしょい!"」


  テレビが直った事がそんなに嬉しい出来事だったのか赤スライムを他のスライムたちが胴上げをしていた。


  ……真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきた。一度頭を真っ白にして映った映像を見る。


  映像では、スライムたちが木の切り株の上に乗っていた。

  すごい簡素だがこれが故郷の裁判なのだろう。

  だが、映像ではスライムがうねうねしたり跳ねたりしてるだけなので俺にはこいつらが何を言ってるのかが全く分からない。


  「ではテレパシー会話してるのでボクが吹き替えしますね!」


  「あ、ああ」

  

  映像を見るだけでテレパシー会話の中身も分かるかよ。


  「"今日花に水やり当番をサボりましたね?何故ですか?"」


  「"んーとね。昨日雨が降ってたから水やりいらないって思ったの"」


  「"でも、一応花の様子くらいは見に行くべきだっと思います"」


  「"ごめんなさい。次はちゃんと気を付けるね"」


  「"この通り被告はとても反省しています。なので減刑を要求します。どうですか裁判長!"」


  「"うむ、ならば無罪で~"」


  「"お疲れさまでしたー。今日はこれにて閉廷ですー。"」


  ぴょんぴょんぴょん


  ……


  …………

  

  これが裁判かよ!?完全に幼稚園児がやってる裁判ごっごじゃねーか!?


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