97話
「"どぞ"」
「ありがとう」
スラよりもちょっと色が濃い青スライムから大鍋に入っているものをよそってもらって受け取る。
どうやら汁物のようだった。
見てみると底まで見えるほど透き通ったスープに具として野草が沢山入っているとてもシンプルな汁物だ。
「味付けは塩だけの雑草スープです……」
スラが少し申し訳なさそうに言う。
……良かった。ちゃんと食えるものだった。
スラが口に合わないっとか言うからてっきりカブトムシの幼虫くらい食わされるんじゃないかと思って覚悟していたけど全然食べれる物が出てきた。
「故郷にいるスライムは普段、こういうのを食ってるのか?」
「そうですね。大体こんなもんです……」
「……何でそんなにしょんぼりしてるんだ?」
「ボクが故郷で生活してた時は雑草スープも普通に美味しく食べていたのですが、なお君の家に居候して5年……地球のご馳走で舌が肥えた今のボクにこの雑草スープを美味しく食べる自信がないのです」
確かに。ちゃんと食えるものとは言え、普段俺たちが食ってるものに比べたらとてもこれはとても質素な食べ物だ。
まだ食ってはないが正直、俺だってお世辞抜きでこれを美味しいと褒める事はないだろう。
じゅるじゅるー
「もぐもぐ……やっぱり5年ぶりに食べる故郷の味は美味しいですね!」
「は?」
スラは雑草スープをいつも通りとても美味しそうにほお張っていた。
あの美味しそうに食べる姿は決して演技でやっているのではないと分かる。本当に美味しいと思って食べてるのだろう。
スラは一気に雑草スープを飲み干して完食した。
「もぐもぐ……おかわりしてきます!」
「おい、待て……」
「分かっています!ちゃんとなお君と陽菜ちゃんのおかわりも持ってきます!」
まだ食ってすらねぇよ。
そのままスラは列の先頭辺りに行って列の割り込み交渉をしにい行った。
つーか、何がおいしく食べる自信がないだよ!?さっきと言ってる事とやってる事が全然ちげーじゃん!
「じゅるじゅるー……まぁ、美味しいか不味いかはともかくちゃんと食べられるから食べてみたら?」
陽菜も普通に雑草スープを完食していた。
本当は俺が毒見役として、果たしてこの雑草スープが人類に適する食べ物をかを陽菜より先に試食しておきたかったが、どうやら即効性はなさそうだ。
「ああ、そうだな。いただきまーす」
くんくんと匂いを嗅いでみる。うむ、異常なし。味の方はどうだろうか?
スラの言う通り、具は雑草でダシもなく唯一の味付けは塩だけなら味は大体予想できる。
しかもこれだけじゃカロリーが全く足りない。
……後でカップ焼きそばでも食うか。
ずずっー
「……っ!?」
雑草スープを飲んだ瞬間、まるで暖かい雑草スープが全身を気持ち良く巡っているような気分になる。
何なんだこの心地よさは……!? 寝てもとれなかった疲れが一気に吹き飛んだような気がする。
ずずっー
雑草の味は少し出ているが、どうやら本当に味付けは塩だけのようだ。つまり温かい塩水を飲んでるだけなのに、まるで一流レストランに出てくるようなスープなんじゃないかと錯覚させられるほど美味い!
ずずずずっーーー!!じゅりゅ!じゅるるるるるる!!
歯止めが利かずスープを一気に飲んで完食。これはもうやめられねぇ!
そして完食と同時にスラがお盆におかわりのスープを乗っけてとことことやってきた。
さっきは3時間も並んだのに賄賂を渡す事に成功すると3分も掛からないうちに持ってくることができるか。さっきの3時間は無駄だったな……いや、それよりも今はっ――!
「おかわり持ってきま――」
「スラぁ~?えっへっへっ……またあの気持ち良くなれるスープくれよぉ~?俺、アレがないと生きられない体になっちまったぁ」
「お口に合いましたか?そう言って貰えるとボクも嬉しいです!はい、どうぞ!」
「うぅ~?ううううう!?ありがてぇ……ありがてぇ!!」
「ちょっと待ったあ!!ストップ、ストップ!ナオがいつも以上にラリってる!」
俺がスープをじゅりゅりゅりゅしようとすると陽菜が俺の邪魔をしてくる。俺はとても怒った。
「陽菜ぁ!?これは俺のだぞ!?陽菜の分はちゃんとあるじゃないかぁ!?まさか、まさかこれを独り占めしようとしてるのかぁ!?あぁん!?」
俺は邪魔してくるのを邪魔してスープを飲む。
じゅりゅううううううう!!ずずっーーー!!うめぇ!!うめぇ!!気持ちぃぃー!!
「スラ……これってやっぱり故郷の水のせいよね?」
「……超特急で故郷の水に詳しい先輩方を呼んできます……」
「こらこら、こんくらいで戦闘もーどになる必要ないって。てか、どうせ呼ばなくても向こうから集まってくるから大丈夫よ。ほら、来た」
「故郷の水ぅ!?ウエーイッ!故郷の水最高ぅ!」
「えーと、今のナオがちゃんと理解できるか分からないけど説明するね。故郷の水ってのはね、昨日ナオが黒と会った湖でとれる水のことよ」
そういやスラがそんなこと言ってたようなぁ?へいへいへーい!!
「で、故郷の水はかなりすごい効果が色々あって、飲めば人間に必要な栄養は全部とれるし、傷にかければ瞬時に回復。用法容量守って服用すればどんな難病ですら完治もできる。昔の戦争時代の機械女神たちが総力を結集して造ったチート万能薬って所ね。しかも使い方次第でとんでもない効果も出てくるとか」
「……またボクのせいで……」
「ん?何がスラのせいだって?」
「……なお君!!」
「何だよ、ちょっと俺が斬新なグルメリポートしたくらいで病人扱いしやがって」
「なお君!なお君!なおくーん!!」
スラが鼻水垂らしながら抱き着いてくる。俺は俺は俺は
「抱き着くな、すりすりしてくるな!!ってうわ、服が汚れるから離れろ!」
俺はスラを引き剥がす。
「ふぎゅぎゅ~……!すごく心配しました……本当に良かったです!!」
「大げさな奴め」
スラの頭を優しく撫でた。
◇◇◇◇◇
「……ナオはこのままで大丈夫なの?」
「"しばらく安静にしてたらOK"」
「そう、良かった。で、ナオがあんな状態なった原因は?」
「"飢餓+不眠不休状態で緊急回復機能が発動したせいかと"」
「2日以上まともにご飯食べてなかったらしいからね……。でも、ナオは昨日はちゃんと寝てたわよ?」
「"多分ロクに寝てない"」
「……はぁ。また寝る時間削って変な事してたんでしょうね……。昨日のトイレダンジョンで相当体に負担がかかってるのに……」
「"それよりも気になることが"」
「気になること?」
「"緊急回復機能が発動したらどんなに強い人間でも最低1時間は強い混乱状態になるのに……あの子は数分で正常に戻った。いや、正常に戻ったならまだ説明がつく。問題は正常に戻ったフリをしたこと。人間でそんな精神力はありえない"」
「あんたが今までロクな人間見てなかったんじゃないの?」
「"失礼な!とにかく、あの子に関して一度精密な検査を――"」
「そんなのいらないって。ナオはね、スラに本当に悲しい思いをさせるくらいなら原宿で新ファッションだと言って全裸になって裸踊りするくらいの事は平気でする"ただの人間"よ。だから……ナオに変なちょっかいかけたら、私はあんたを許さない」
「"……怖い"」




