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機械女神スラちゃんの飼育日記  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第二章:スラちゃん故郷出頭編
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96話

  広場ではぞろぞろとスライムたちが行列を作っていて並んでいた。

  多分、この列に並んで順番に朝食を受け取っているのだろう。

 

  「ん~……レモン味の飴2個でいかがでしょうか?……なっ!?イチゴ味の飴3個ですか!?うにゅにゅ……なかなかふっかけてきましたね!」


  スラが列の先頭近くで並んでいるスライムと何やらコソコソと話をしていた。


  「仕方ありません。ここは要求通りイチゴ味の飴3個で――」


  「何やってるんだ?」

 

  「並んでいる子に賄賂のお菓子を渡して割り込もうとしているのです!今、交渉がまとまりましたのでちょっと待っててくださいね!」


  スラは服のポケットからゴソゴソとイチゴ味の飴3個を並んでいるスライムに渡す。受け取ったスライムは喜びの舞をして広場の外に向かって飛び跳ね去っていった。


  「おいおい、割り込みなんてしたら後ろのスライムに迷惑だろう?さっさと最後尾に並ぶぞ」


  「なお君待ってください!この割り込みは決してなお君が考えているような悪い意味の割り込みではありません!ちゃんと皆で作ったルールに基づいてやっている競争みたいな―――」


  「問答無用」


  「うにゅ~……これじゃあ、お菓子を渡し損です~……」


  スラをずるずると引っ張る。

  はぁ……スラがこんな悪いスライムになってしまったのは俺の調教が上手くいってなかったせいなのだろうか。

  家に帰ったら再調教が必要だな。



  ◇◇◇◇◇



  「グェフェフェ!!あの子にはきっと猫耳つけるのが似合うだろう!!あの子は……キツネ耳だな!!」

  

  列の最後尾に並んでからおよそ3時間。3時間並んでようやく先頭付近までたどり着いた。

  

  「てか、朝食を貰う為になんで3時間も並ぶんだよ!?人気ラーメン店レベルじゃねーか!」


  スマホの電源も切れている今、正確に時刻を把握する術はないが昼食を食べてもおかしくないない時間帯だろう。

  お腹が空きすぎてもう限界。陽菜でもペロペロして空腹を満たしたい。


  そういやさっきスラが言ってたな……競争がなんたらと。

  この3時間並んでいるスライムを見ていたが、時折順番が交代したり割り込んだりどっかに消えたりしていることが頻繁にあった。


  「もしかして黙って並ぶのは馬鹿を見るのか?」


  「並ぶのは並ぶので楽しみがありますが、ご飯を早くもらいたいスライムはさっきのボクみたいに取引してますね!」


  「……そう。先入観で割り込みをするのは悪いと決めつけた俺が悪かった。……悪かったが、この3時間の間に説明して欲しかったなぁ」


  「私たちが何度も話しかけて3時間ずっと『あの茶色のスライムおっぱい大きそうだなー』とかブツブツ独り言言って取り合わなかったじゃない」


  マジかよ……また口に出てたか。

  この3時間退屈しのぎとして、もしあのスライムが美少女化したらどんな感じになるんだろうと妄想していたのだ。

  ってことはあれか?俺は3時間もブツブツとエロ妄想を垂れ流していたのか?個人性癖情報ダダ漏れじゃねーか。

  恥ずかしすぎてスラの貧乳おっぱいのわずかな谷間ですら顔を埋めたくなってしまう。

 

  「そんなに気になるのでしたら後で先輩方に美少女もーどになってもらうように頼んでみましょうか?」


  「いや、それはいいや」


  「えっ!?まさかのナオが……断った!?」


  セクハラ大好きエロ魔人の俺がスラの提案を断るとは全く予想してなかったのだろう。陽菜は私の年収低すぎっ!みたいな驚き方をする。

 

  「きっと空腹のせいで体調不良を起こしたのね。スラ、ナオの朝食貰ってきて!」


  「はい!」


  「ちょい待ち!腹は減っているけど正常な判断はできるって!」

 

  「だ……だって」


  陽菜は心配そうに俺を見る。今まで、ナオの頭大丈夫?みたいな感じの心配の仕方は数え切れないほどされた経験があるが、今回は本当の心配をしている様子だった。

  まるで戦場で弾丸を受けた俺の姿を心配して見るようだ。なんで返事一つでここまで大層心配されなあかんねん。


  「良いか?他のスライムたちの美少女化した姿が決して美少女だって保障はどこにもないんだ。スラがたまたま可愛かっただけで、他はブサイクな奴だっているかもしれないし下手したら女の子ですらない可能性もある。もしかしたら美少女だと期待していたらおっさんだったって言う可能性もあるんだ。だから俺は他のスライムたちの美少女化した姿は妄想で留めておきたいだけだ」


  「安心してください、みんな可愛い子だらけですよ!」


  スラが反論する。だがそんな言葉だけでは全く俺の心が動かない。


  「女の子が他の女のことを可愛いと言う言葉と、風俗のキャッチが薦めてくる可愛いと言う言葉だけは信じるなと親父に言われている」


  「ボクの言ってる事は信じてもいいのだ!」


  久しさにスラがいつものドヤ顔にあざといポーズをとる。へいへい、可愛い可愛い。

  

  ん?どうしたんだ陽菜?スラの姿を陽菜はじーっと見ていた。

  今更スラのドヤ顔あざといポーズなんて珍しくもないだろう。そんなにまじまじ見てどうしたんだ?


  そう考えているうちに陽菜は何かを決意したように小さく頷いて恥ずかしそうにしながら……スラと似たようなあざといポーズをとった。

  

  「わ、私の事も信じてもいいのよ……?」


  「……」


  陽菜はスラに対抗心でも燃やしたのだろうかスラの真似をしたのだ。

  ただスラとは違って羞恥心が隠し切れないようでドヤ顔にはなっているものの、顔を赤くさせながら涙目になってぷるぷるしている。


  陽菜ちゃん……まじ女神。

 

  「…………あうっ」

 

  おっといかん。あまりにも予想外の陽菜の行動と可愛さに呆然としてしまっていた。

  このまま俺がリアクションをとらなかったら陽菜は恥ずかしさのあまり泣いてしまうだろう。


  どうしよう、どうしよう!とりあえず可愛いって褒めるか!?

  いやいや、そんな事言ったら軽く受け流されたスラがしょんぼりしちゃうだろうし……ええいっ!


  「おっ、俺の言う事も信じていいんだらね!?」


  俺もスラみたいにドヤ顔あざといポーズをとる。どうだ陽菜。これで羞恥心は少し減っただろう?

  というよりむしろ俺のメンタルの方がやばい。きめぇってレベルじゃねぇぞ!自分の意志でやった事とは言え陽菜の巻き添えを食らってしまった!


  「……」


  「……」


  「" あの~順番来てるんですが~……(;´・ω・) "」


  俺と陽菜はお互い目を合わせ相槌を打つ。アイコンタクトでこのことはお互いの黒歴史として封印された。



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