90話
うねうねうね
「で、4匹のスライム相手にどうやってここから脱出するんだ?」
陽菜がここから脱出する為には陽菜を取り囲んでグルグルと回りながら踊っているスライム4匹をどうにかしなければいけない。
だが、こんな見た目でも一応女神の端くれ。力ずくでは通してもらえないだろう。
「流石に私も4人相手にゴリ押しは無理だけど――」
「ボクもいることを忘れていませんか!5対1です!」
スラが風呂のお湯の温度を手で触りながら陽菜に抗議する。
でも、こういう場面でスラが役に立った時ないんだよなぁ。どうでも良い状況の時のスラほど役に立たないものはないと俺は思ってるくらいだ。
「じゃじゃーん!もしもの時に用意していた秘密兵器!特売で買ってきたキャンディ!」
陽菜は桶の中から袋詰めのキャンディを取り出して皆に見えるよう腕を高く上げる。
そして俺は腕を上げて見える陽菜のワキに目を奪われる。ええな!陽菜ちゃんのスク水姿のワキがすごくええな!
思ってもないサプライズに俺、完全勝利したなおくんUCのポーズ。
「……んっ……何よ」
陽菜は俺の視線と思考に気づいたようで、少し恥ずかしそうにしながら腕を下ろす。
「キャンディごときで釣られるスライムって単純な生き物だと思っていたが、俺も結構単純な生き物だって事が分かった」
「……そう。別にナオを釣るつもりは全くなかったんだけどね」
「キャンディでボクたちを釣る作戦なんて卑怯すぎます!」
スラはキャンディに目を奪われながらぴょんぴょんと跳ねて物欲しそうにしていた。
スライムたちもキャンディーを見てテンションを高くしたのか、踊りのテンポが上がっていた。
「陽菜の勝ちか……。残念だ」
この後、陽菜がキャンディをばら撒いてスライム達がそれに夢中になってる隙に脱出。こんな作戦とも言えない作戦だがこいつら相手には絶大な効果を発揮する。
こいつらって後先考えずに目先の事しか見えないから陽菜が逃げると分かっていてもキャンディに釣られてしまうだろうなぁ。
「ってかさー、なんでキャンディを風呂に持ち込んで桶に隠すのがバレなかったんだよ」
「湯船に浸かりながら食べるんだと思ってました!だけどキャンディーなんかではボクたちは釣られませんよ!」
「キラキラ目を輝せながらキャンディをガン見してるじゃねーか」
このまま消化試合を見てるのもつまらないと思った俺はかけ湯してハート形になっている風呂に入浴。
……ん?この風呂なんか異常に気持ちが良いぞ?
まさか、お湯じゃなくて液状化スライムでも使ってるんじゃないかと思って液体を調べたが普通のお湯っぽそうだった。
「先輩方、わざわざ私の為に選抜大会までしてくれてありがとう。でも、それも無意味だったわね!」
バリッと袋を破ってキャンディをばら撒く。
「ありがとうね、ナオ。この埋め合わせはどこかで」
「あいよ」
そして陽菜は大して急ぎもせずに脱衣所に向う。てか、見逃しただけで埋め合わせしてくれるのか。ラッキー。
俺はこのしょうもない戦いの結末を見るのを止め、天井を見上げてのほほんとする。
「極楽、極楽」
それにしてもこの風呂はなんでこんなに気持ち良いんだろう。
よく全身の疲れがとれるみたいな比喩表現を使われるがこれはマジで疲れがとれる感じがする。
ちゃぽーん、ちゃぽーん
「ん?」
すぐ近くでちゃぽちゃぽと水音がしていたので見てみると黒が湯船に浮いていた。
「いつの間に入ってきたんだ」
せっかくだからいつもスラにやっていたマッサージを黒にしてやる。
このマッサージをスラにしてやるとすごい気持ち良さそうにして喜ぶんだが果たして黒はどうだろうか。
もみもみ
「……」
ふむ……やっぱり反応がないな。続けてみるか。
もみもみ
「"……よかよか"」
「そうか、そうか。気持ち良いか。ならもっとマッサージしてやろう」
なお君はプロのスライムマッサージ師になれます!っとスラにベタ褒めされた俺のマッサージ技術は黒にも通用したようだ。
てか、プロのスライムマッサージ師って何だよ。スライムから金取れるのか?なんか、金取ろうと思っても一回3円くらいしか落とさなさそうだな。
さて、あっちの方はどうなっただろうか。陽菜に逃げられてキャンディ食いながら反省会でもしてるんだろうか?
「はぁ……はぁ。ナ……ナオ」
「……嘘だろ?一体何があったんだ?」
なんと既に逃げてたと思っていた陽菜がマットの形になったオレンジ色のスライムの上に倒れ、陽菜を覆いかぶさるように他のスライムにべったりと貼りつかれていたのだ。
予想外の出来事に驚いてしまう。そう、陽菜が負けていたのだ!




