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7話 俺の中学校生活1

 「夏野、何度も言ってるがそろそろ部活動に入らないか?」


 「嫌です」


 昼休み直後、担任の一瀬先生に呼び出される。また部活の事か……お腹減ったなぁ。

 

 「この学校は全員、何かしらの部活に入部するのが条件なんだ。入ってないのは夏野だけだ」


 「だからこの前新しい部活の設立申請書を渡したじゃないですか。あれはどうなったのですか?」


 「……歩コール会なんて大学の飲みサーみたいな部活が認められる訳ないだろう」

 

 「ですよねー」

 

 例え幽霊部員だろうが部活なんてめんどくさい事は断固拒否!1ミリだって絶対関わらない!

 部活を通して社会を学ぶ?いえいえ、こっちは社会どころか飼いたくもないスライム飼わされてファンタジーを学ばされているんですよ。

 これ以上、俺の時間を潰されてたまるか!

 

 「先生、何度も繰り返すようで申し訳ありませんが……私の家庭の事情はご存知ですよね?」


 「ああ、お父さんが単身赴任の長期出張でお母さんが病弱だから夏野君は家事の手伝いをしている。だから部活動には入れないと」


 「その通りです(ハンカチで涙を拭く動作をする)」


 ちょっとの事実、ほとんどの嘘。だが、言い包めるには十分だ。

 このままいつもの泣き落とし作戦でいこう。


 「その件でな、夏野が嘘をついてるんじゃないかと思って今日、電話をして確かめたんだ」


 ふふっ……それはお母さんと口裏合わせて対策済み。また今日も勝ってしまった。そろそろ昼飯の味を知りたい。


 「お母さんは至って健康だと言っていたが?」


 「えっ!? あー……」


 あ~あ……。そういう設定にしといてくれってちゃんと頼んでおいたのに。まずいぞこれ。

 このまままでは『絶対先生なんかに負けたりしない!!』→『悔しい、でも入部しちゃう!』からの『先生には勝てなかったよ……』コンボが見事決まってしまう。

 

 「夏野ぉ~これはどういうことか、説明してもらおうじゃなぁいかぁ~?」


 フグ田くーんみたいな声をだしてニヤニヤしている。俺の嘘を見破ったと思い勝ちを確信したのだろう。

 だが……まだ甘いぞ一瀬先生!まだ手はある!


 「すごく健康だって言っていたぞぉ~?夏野ぉ~?」


 「そうですね……お母さんならそう言うと思っていました」


 「ほう……?」


 「実は母さん、俺が部活にも入らずに家の手伝いをしてることを気にしているのです」

 

 俺の迫真の演技で先生のニヤニヤが真顔になる。


 「いつも母さんは俺に『なお君はもっとなお君のために時間を使わないと』って言うんです。だから良いチャンスだと思って母さんは嘘をついたのでしょうね……」


 「……はぁ、私と夏野とは長い付き合いだ。お前がとんでもなく"優秀"でそして"ずる賢い"のは知っている」


 俺が絶対に嘘をついているということに自信がなくなってきているようだ。

 何せ一瀬先生だって確かな証拠は今持ってないからだ。

 だから早く決着を付けるために諦めて降伏しろと暗に言ってきている。

 

 そして俺はそのまま天を仰ぐような動きをして大げさに演技する。


 「先生、俺は友達もロクにできず、教室の隅っこで一人寂しく弁当を食べる悲しいとても悲しい中学生です」

 

 「ああ、そうだな」

 

 「いや、そこは少しフォローしてくださいよ」


 ちょっとマジで悲しいっす。やりたくてボッチやってる訳じゃないのに……。


 「……あー、そんなことないぞ夏野ーお前はテストはいつも満点の天才じゃないかー(棒)」


 「そう!俺はいつでもどんなテストでも……例えば一瀬先生の隣に座っている糞野郎が意地悪で俺にだけテストの問題が東大の入試問題にすり替えられていたとしても、いつだって満点をとってきました!」


 「……あん!?誰が糞野郎だコラァ!?謹慎処分にすんぞ!?」


 ガタンと机を叩いて席に立ち怒りの表情で糞野郎が俺を見てくる。

 お前はお呼びじゃねーよ、ひっこんでろ。


 「おおう!?やれるもんならやってみろ!?これまでの事を教育委員会に証拠も合わせてチクって、てめぇも道連れにしてやる!!…………こほん。そう、俺は先生にすら存在を疎んじられている孤独の天才なのです」

 

 「その態度がいけないだけだろう……」


 「何故、テストが満点なのか……それは母の喜ぶ顔が見たいからなのです!」


 「無視かよ」


 「ああっ!部活なんて入部したら勉強時間が減っちゃうなぁ!(チラッ)」


 「……いつも授業中ほとんど寝てるかゲームしてるかだろう」


 「ああっ!部活なんて入部したらお母さんの負担が増えちゃうなぁ!(チラッ)」


 「だからそれは嘘――」


 「一瀬先生なら俺の言ってることを信じてくれると思ったのに……」


 この前見た、アカデミー主演女優賞を取った女優のしくしくと泣くシーンを真似てみる。

 大丈夫、天才の俺なら100%真似できるはずだ。


 「うおおお……!!おえっ!!……うぷっ、……ぐぷっ。おえええええっ!!」


 流石俺!完璧な演技ではないか!この泣き落とし演技なら間違いなく引っかかってくれ――


 「……気持ち悪いんだが?」


 すぅー……似てると思ったんだどなぁ。

 何がダメだったんだろう?

 あ……今やった演技は体内に入ったエイリアンが口から出てくるシーンだったは。こりゃ駄目だわ。


 てか、もう先生ドン引きしてるじゃん。

 しかも職員室にいる全員の注目の的じゃん。これ説得なんて不可能じゃん。

 このままアウェイで戦っていても良い事なんて一つもない。

 もうさっさと逃げちゃおう。

 

 「俺は先生のことをとても素晴らしい先生だって思っていますし、尊敬しています。だから俺の言ってることも信じてくると思ってます。それじゃあ、そろそろお昼ご飯を食べたいので失礼しますね」

 

 「えっ……?まだ話は終わってないぞ、夏野ぉ!!」


 俺はわき目も降らずに職員室を出て全力疾走で逃げる。

 はっはっは!なんとか今日も乗り切ったぜ!!

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