70話
スリスリスリ
「・・・」
スリスリスリ
料金所を出て高速道路に乗ってから数十分。
紫スライムは俺の膝の上に乗ってスリスリしている。
そう、この紫スライムは自分の仕事を放棄して同乗してきたのだ。
いくら1週間に1台くらいしか通らない過疎った料金所とは言え一緒について来ていいのだろうか。
「なぁ、スラ」
「じー・・・」
スラは少しご機嫌斜めのようだった。
「ボクは今、機種変更されて用済みになったスマホさんの気分なのです」
「気にするなよ、スマホも高い物だから中古でも案外値がつくもんだぞ?」
「はうっ!?」
ガタガタガタ
ハンドルを握っているスラの手が震えているせいで、車も揺れている。
片側一車線の高速道路を走っている車は路肩まではみ出しガードレールが迫っていた。
「ボク・・・売られるのですか・・・?」
「・・・悪かった。冗談だよ」
軽いジョークのつもりだったがスラに会心の一撃を与えていたようだ。
俺はご機嫌を直してもらう為、急いでポケットからスラの好きなお菓子を取り出してスラの口に放り込む。
「もぐもぐ・・・で、どうしましたか!」
どうやら、いつもの元気さを取り戻したようだ。
俺が陽菜や他の女の子と絡んでる時にスラが嫉妬をする素振りを見せたことは今までなかったのだが、どうやら同属に対しては話が別らしい・・・覚えておこう。
俺はスラに聞こうと思っていた質問を思い出す。
「あ~・・・え~っと。そうそう、思い出した。機械女神ってスライムの時は喋れないのか?」
紫スライムとスラの会話はテレパシー?みたいなので会話が成り立っていたが、俺には通訳してもらわないと紫スライムが何を言ってるのか分からない。
裁判ではどのような形式で行われるか知らないが、いちいちスライムと会話するのに通訳してもらったり筆談だったりするのはとてもめんどくさいのだ。
「スライムの時も普通に喋ることはできますよ!ただ、ポリシーに反するので、できるだけ喋らないようにしてるのです!」
「ポリシー・・・?」
「そうです!スライムならば己のボディランゲージを持って相手とコミュニケーションを行うと言うポリシーがあるのです!」
「へぇ、筆談はいいのか?」
「筆談はスライムらしさがあるのでセーフです!」
「・・・はぁ、そうなんすか」
筆談はスライムらしさがあるってのもおかしな話だと思うが・・・まぁ、いいや。
ってことは今、膝の上に乗ってる紫スライムも喋る事はできるし、ミニスラちゃんも普通に喋ることはできるのか・・・
そのよく分からん謎ポリシーのせいでスラを拾った時、コミュニケーションを取るのに相当苦労したんだけどなぁ。
スラがどんな餌を食うかにも悩んで四苦八苦してた記憶がある。
「実は機械女神の祖先は、とある一匹のスライムなのです!」
「えっ!?機械女神は機械が創った女神って聞いてたんだが?」
ちょっと話違うくね?設定の後付卑怯じゃね?
「確かにその通りなんですが厳密に言うと、弱いスライム→がんばって精霊化→がんばって女神化→機械と手を組んで機械女神に転生っという流れがあります!なのでスライムの姿はその名残なのです!」
スライムの姿は時空移動モードの姿って聞いてたのに・・・そんな壮大な物語があったのかよ。
「故郷にはどれくらいで着くんだ?どうせだったらその話を詳しく暇つぶしとして聞かせてくれよ」
「後5時間ほどで着きますが・・・でも残念ながらそこら辺の記録がほとんど残ってないのでお話できないんですよ!その当時の事について知ってるのは、ほんの一握りの機械女神だけがなのですが教えてくれないのです!」
「ほう・・・分かった。故郷に着いたらどの機械女神か教えてくれ。吐かせてやんよ!」
「え・・・その・・・・」
「ん?どうした?」
膝の上でスリスリしていた紫スライムの動きが止まり固まった。
スラは言うかどうか少し悩んだ様子だったが口を開いた。
「なお君の膝に乗ってる方・・・です」
「ほう・・・スライム調教師として5年のベテランである俺の見せ所だな」
紫スライムはあたふたとし始める。
どうやら、自分が今危ない立場にいることを理解しているようだ。
「怖くないよ~・・・怖くないでちゅよ~ペロペロペロペロ!」
さぁて・・・最初はどうしてやろうか。
ビュンビュンビュン!
俺が一瞬の目を離した隙に紫スライムは物凄い速さで手回しハンドルで窓が開くハンドルをぐるぐる回して車の窓を開けたと同時に飛び降りた。
そして、あっという間に反対車線を走り出して料金所の方向へ消えていった。
戦闘機を軽くちぎれるくらい速いと聞いていたが、確かにあれは速いな。
「・・・しまったなぁ」
スラには全力で逃げられないよう今まで色々な調教を施してたが、紫スライムはお構いなしに逃げた。
「スラ、機械女神が全力で逃げても捕まえられるような捕縛機でも作ってくれ」
「なお君にそんな物を渡してしまうと冗談抜きで機械女神にとってすっごい脅威になるのでダメです!」
「おいおい、大げさだな。俺が絶望的に能力差がある機械女神の脅威になるはずがないだろう」
スラの戦闘もーどの強さ見るからに、どう足掻いても人間が機械女神に勝てる要素なんてないことは理解している。
つまり悲しいかな・・・俺とスラが本気で喧嘩したら俺はスラに跪いてスラの足をないといけない訳だ。
おや、それはそれでいいかもしれないぞ?
「はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・!」
「多分、現時点でほとんどの機械女神はなお君に勝てないと思います」