66話
準備を整え、スラ達と一緒に庭に向かうと母さんがいた。
「見送りだよ~。それと、はいこれ。お父さんの」
ズシッと重い物を手渡される。
確認すると六法全書だった。
「がんば!」
母さんはニコニコとしているが・・・これは持って行く必要があるのだろうか?
あっちでは人間の想像をはるかに凌駕する法律とか普通にありそうでこれを持っていく意味なさそうだが。
「一応、参考程度として持っていくよ」
それにしても重たい。
六法全書って一体何キロあるんだろうか。
わずか数ページにエロを凝縮する薄い本を見習って欲しいものだ。
「スラちゃんがぁ~計算してぇ~スラちゃんがぁ~画面端ぃ~天候読んでぇ~まだ入るぅ~」
スラは体育の授業とかで使うライン引きを庭にコロコロと引いていた。
きっと故郷に向かう為の準備をしているのだろうが、何を言って何をやってるのかさっぱり分からない。
本当に生きて帰れるのだろうかと心配になってくる。
くいくい
服を軽く引っ張られる感覚がしたのでそっちを向くと陽菜が横にいた。
「あ、あのさ・・・」
「何だ?」
「・・・その」
顔を真っ赤にしながらちょっと涙目になってる陽菜は小声で聞いてきた。
「さっきのお風呂・・・どこまで見た?」
ああ、そのことか。
「まるっと見た。御利益あったよ」
「そこは普通、「見てないよ」とか「よく見えなかったよ」って答える場面だよね!?本当に見たの!?本当に!?」
「俺はな、自分の意思で・・・覚悟を持って陽菜の裸を見に行ったんだ。それを今更、誤魔化してなかったことにするほど俺は屑じゃない!」
「いや、女の子の裸を見に行こうとしてる時点で屑だから!」
「ならば、この世の男は全て屑だ!陽菜・・・お前は自分がどれほど素晴らしい価値なのかが分かっていない!自分の家の風呂に陽菜がいたら全ての男は覗くことを選択する!覗かない奴は理性という鎖に縛られた肉の塊であってそれはもはや男と呼べるものではないのだ!」
「まーた出た・・・ナオの謎理論」
「そして!俺はこの罪に対しあらゆる罰は受け入れるが絶対に謝罪なんてしない!だが、俺が謝罪の代わりに陽菜にしてやる事はこうだ!」
俺は陽菜に向けて地面に手を当てひれして土下座のポーズをとる。
「ありがとうございました!!」
「・・・」
「ありがとうございました!!」
「・・・もう分かったから!土下座は止めて!」
「そうか、分かってくれたのか」
「いや、理解はしてないからね!?こっちが恥ずかしくなるから止めて欲しいだけだからね!?」
ほう、高度なツンデレだな。
意訳すると「ナオのことは変態って理解したんだから、次はもうちょっと上手くやってよね!」ってことか。
まかせろ陽菜、次はもっとがんばる!
「準備できました!乗ってください!」
土下座を止めてスラの声の方を振り向くと庭に・・・・何だこれ?
目の前のある物がよく理解できない。
少しずつ、細かく見てみよう。
まず車がポンッと置いてあるがただの車ではない。
山の中に不法投棄されて何十年もたって錆びだらけでとても動きそうにない朽ち果てた軽自動車だ。
あらゆる所が壊れていて乗った瞬間、座った所の底に穴が空くんじゃないかと思うほどのレベルだ。
スラちゃんポケットで出したのだろうがどこから拾ってきたんだ。
「この車、誰の?」
「山奥で不法投棄されてた車です!市役所の人に尋ねたらもらってもいいと言うことなんでもらいました!5年前から虎視眈々と狙っていたのです!」
OK、OK。
今は、動くの?とか安全性は?とかどうやって行くの?とか5年前ってスラが地球に来たときから狙ってた物かよ!とかは後回しにして状況を先に理解しよう。
その車だった物の左右に手作り感満載の飛行機の翼のような物体が取り付けられている。
この翼の素材は・・・ダンボールにプラスチックみたいな物で補強された物でできているようだ。
鳥人間コンテストに出たらスタートの助走の段階で折れてしまいそうな脆いデキだろう。
そして翼にはジェット機と同じような位置にこれまた手作り感満載の筒のような物が取り付けられている。
・・・
・・・・・・んんっwww!?
うっそだろ!?
この翼はお茶目で作った飾りとかだよな!?
まさか、これに乗って空に飛ばすとかじゃないよな!?
待て待て待て!これ以上考えるな!これ以上考えると俺は全力でこの場から逃げ出すだろう!
「すぅぅぅぅーーーー!!はぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
深呼吸して無理矢理落ち着かせる。
そうだ、まだ空に飛ばすと決まった訳じゃない!
もう一度周りを良く見るんだ!
その車の1メートル前には、何か車と同じくらいの大きさの金属的な物体があった。
見たことがない物体だがこれを俺の持ってるイメージに一番近い物で例えると・・・跳び箱の踏み台・・・または、ゲームに出てくるような航空機やロボットを射出するカタパルト。
あれはこれでひゃんひゃんひゃん!
「すぅぅぅぅーーーー!!はぁぁぁぁぁぁーーーーー!!すぅぅぅぅーーーー!!はぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
はぁはぁ・・・静まれ・・・静まれ。
一瞬思考が完全にバグってたぞ俺。
少し落ち着きを取り戻しスラを見ると車の中に、買って来たお菓子などの荷物を詰め込む作業をしていた。
・・・ああ、そうか分かったぞ!
スラが乗ってください!って言ってたのは俺に対してじゃなくてお菓子さんに言っていたのだ!
そして荷物を詰め込んだ車をカタパルトでポーンっと飛ばして故郷に送り出す。
俺たちは・・・そう、テレポートだ!テレポートみたいな感じで安全に現地へ向かうのだ!そうに違いない!
そうだよ、スラは機械女神なんだぜ?
女神様がこんなヤバそうな物に人を乗せるはずがないさ!
「なーおくーん!早く助手席に乗ってくださーい!行きますよー!」
スラは運転席に座って俺に呼びかけていた。
ドッドッドッドッドッ!!!
高鳴る鼓動、乱れる呼吸!
俺はクラウチングスタートで逃げ出す!
「はああああああああんんん!!!!(全力疾走)」
ガシッ!!
いきなり後ろから羽交い絞めにされる!
誰だ・・・陽菜か!?
俺の全力疾走よりも速いだと・・・!?
「ふふふ・・・死ぬときは一緒よぉ?」
「あああああああああああああ!!(白目)」




