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50話 敗北中

  ――陽菜視点――


 「陽菜ちゃん、どうしようか?」


 さっちゃんが私に問いかける。

 午後3時になる前に、出来るだけ良い作戦を立てないといけない。


 「スラ、武器の性能とかはナオは知っているの?」


 「詳しい性能は全く知らないと思います!知ってしまったら公平じゃないと言うことで調整はボクが適当にやってます!」


 「そう……変な所で律儀ね。まぁ、いいわ。私達はゲーム開始と同時に男子グループに一斉突撃をするわよ!」

 

 ナオが武器の性能を知らないんだったらこれはチャンスだ。


 「えっ……まずは様子見した方がいいんじゃない?1時間もあるんだし、初めから戦うとばてちゃうよ」


 「そうね、多分遠藤君も様子見を選択すると思う。じゃあ、様子見をする場合、男子グループは何をすると思う?」


 「ん~と……私たちと同じように、おもちゃの鉄砲の性能を確かめたり作戦案を練ったりかな?」


 「そう、男子達もまさか私達が試合開始と同時に攻めてくるとは思ってないはず。だからその油断している所に奇襲をかけたいと思う。先手必勝でやる気を削いで短期決戦よ」


 そう提案すると、皆が納得して賛成してくれた。

 一応、戦う為に造られた機械女神のスラにも意見を聞いてみよう。

 ひょっとしたら何か良いアドバイスが聞けるかもしれない。


 「スラはどう思う?何か良い作戦はある?」


 「分かりません!」


 自信満々で腕を組んでドヤ顔をしている割りにすごく頼りない答えが返ってきた。

 いつものことね。


 「じゃあ、あの細い通路から一点突破で行きましょう。被弾をしないように障害物を上手く使ってね」


 「午後3時になりました!」


 「じゃあ行くわよ!」


 トエエエエエエエエイ!!トイエエエエエエエエイ!!


 おおおおおおおお!!


 皆をまとめて攻めようとした矢先に遠くから雄たけびのような声が聞こえる。


 「男子グループです!」


 「なっ……!?何で!?みんな、作戦中止!近くの障害物に隠れて防衛!……まさか遠藤君が私達の動きを先読みして奇襲攻撃を……?」


 敵との距離はおよそ30メートル、私達の所へ一気に攻めてきている。

 さっき、軽く試し撃ちしたら有効射程距離は10メートルだから上手く引きつけないといけない。


 「みんな!私が合図をしたら一斉に撃って!」


 男子の一部はこちらに向けて撃っていたが全く届いてはいない。

 一方、私達はそれに怯まず私の指示を待っていた。


 「みんな、撃って!」


 私の指示に従い男子に向け一斉攻撃が開始される。

 ゲーム開始からわずか1分、総力戦が行われた。



 ◇◇◇◇◇


 

 ――夏野視点――


 びゅん!びゅん!びゅん!


 俺めがけて飛んできた水弾を避ける。

 履いている所だけ防げば何も問題ないと思っていたんだが……体に当たっても少しづつ水着が削れて言っている。

 後で、水着が水で溶ける仕様なんですーだから破けるんですーって言って誤魔化そうと思ってたのに、既に人類には考えられないほどの超技術が使われてるじゃねーか!

 どう言い訳するんだよこれ!?


 しかもそれだけはない。

 俺たちが持っている水鉄砲は2秒で1発の時間で射撃ができる。

 一方、女の子が持っている水鉄砲は秒間1発、1秒で1発の射撃って言ったところか。

 確かに女の子の方の武器を有利に作ってくれとスラには言ったよ?

 だけどこれはあまりにもバランス調整雑すぎね!?初期武器と課金武器くらい差がねぇーか!?


 びゅん!


 幸い弾速はかなり遅く銃口から射線と射撃タイミングを予測すれば何とか避けれる。

 女の子たちはトリガーを引きっぱなしだからタイミングは一定だ。

 

 びゅん!びゅん!びゅん!びゅん!


 「夏野、大丈夫か?」


 山坂が俺の元にかけより援護射撃をする。

 

 「助かった。だけど弾幕に差がありすぎる。これじゃあ突破できないな」

 

 当然だが、遮蔽物を利用して戦っている以上、お互い膠着状態になっている。

 遠藤が後ろから声を上げて指示を出す。


 「夏野、これ被弾したってゲームオーバーにはならないんだよな!だったら特攻してこいよ!どうせ全裸になろうが夏野は平気だろう!」


 ひどい言われようである。まぁ、それで見たいものが見れるのなら問題はないんだが。


 「それは指揮官の命令か?だったら特攻してきやるよ!」


 「いや……冗談だ。一緒に戦おう。山坂、これからこのゲームはどう流れると予想する?」


 「……」


 俺は山坂の肩を優しく叩く。


 「ほら、聞かれてるぞ?絶好のチャンスじゃないか」


 「……武器が直線的な攻撃ができない水鉄砲しかない以上、このままゲーム終了まで膠着状態で終わると思う」


 「そうか……何か良い案があるといいが……」


 男子は全員、俺の方を見る。だが残念ながらルール上、俺に発言権はない。

 もし仮に発言権があったとしたら俺の立てる作戦は『スラを捕獲して人質にとって陽菜と交換して後はwow!wow!wow!』作戦だ。

 崩せる所から崩す。兵法の初歩だ。


 びゅん!びゅん!びゅん!


 時間がたつにつれ、女子グループは段々とバリケードが構築されていってる。

 それを予想してゲーム開始と同時に単騎特攻をかけたが失敗に終わってしまった。

 

 「皆聞いてくれ!3つのグループに分けて3方向から同時攻撃をかける!」


 ほう、女子からの視点だとまるでタイムクライシスみたいだな。3方向から敵がやってくるイベントだ。

 


 ◇◇◇◇◇



 時間は午後3時45分、残りゲーム時間は15分だ。

 周りを見ると男子たちは皆、かなり水着が破れた状態になっていて、座り込んでいた。

 

 びゅん!  びゅん!


 一応、威嚇射撃程度にはお互い撃ち合っているが45分近く動き続けて疲労がたまっている。


 「くそっ……せっかく夏野が企画してくれたのに……誰一人も脱がせられていない。僕の作戦ミスだ」


 遠藤はとても悔しそうにして自身の無力さを恥じている。


 俺らは3方向から攻めるもずっとテラーバイト役で終わってしまった。

 テラーバイトってあれな、『このタイプにはマシンガンを使え!』って指示だされて撃たれてる虫な。

 女子からしたらさぞかし気持ちが良かっただろう。


 山坂が遠藤近くによって、


 「遠藤、聞きたいんだが、さっき何で僕をかばったんだい?友達でも何でもない僕なんかの為に」


、遠藤の股間には僅かな布がぺたっと張り付いていただけだった。

 つまり、遠藤は極限まで水着を破かれていたのだ。


 「僕は夏野と山坂の事を誤解していた……いや、毎日スラちゃんや陽菜ちゃんに囲まれて楽しそうにする夏野と山坂に嫉妬していだんだよ。僕たち男子のことなんか無視して女の子だけに良い顔するいけすかない野郎だと思い込んでいた。それで、なんか罪悪感?みたいな感じになって……気づいたら庇ってた」


 山坂はきょとんとした表情で遠藤に答える


 「えっ、僕は別に全然囲まれてなかったんだけど……」


 「え、いつもグループでいたじゃん」


 「……物理的に近くにはいたけど……話には全く入ってなかったよ」


 「マジか」


 どうやら、スラと陽菜を連れて山坂に何度もアタックを仕掛けているのを外からみたら4人でわいわい楽しくやってると見られていたらしい。

 てか、やっぱり俺が女の子とわいわいし過ぎてるのが原因だったのか。


 「遠藤、今まで悪かったな。でもな、これで分かったろ?俺、ただ女の子にセクハラしたいだけだから。……後、スラをやるから許してくれ」


 「僕、陽菜ちゃんの方が好みだな」


 「あん?殺すぞ?……こほん、失礼。そうだな、陽菜はみんなのものだしな


 「ははっ……夏野は本当はすごく面白い奴だったんだな。反省するよ」


 山坂は時計をちらっと見て、


 「そろそろ時間だな。みんな!まだ勝ち目はある!作戦があるから聞いてくれ!」


  山坂は男子全員を呼び寄せ、まるでリーダーのように作戦を提案する。


 「さっきの3方向からの襲撃の時に、こっそりプールに置いてある時計の時間を5分早くずらした。つまりあの時計がゲーム終了の4時00分を指した時、実際の時刻は3時55分。つまりゲーム時間はまだ5分残っている」

 

 男子達にとって山坂の今までのキャラのイメージが一気に覆った瞬間だろう。

 もはや教室での誰とも接しない無口なキャラではなく、そこにはとても眩しい姿をした山坂がいた。


 「あの時計が4時を指した時、僕たちはゲームが終わったふりをして女の子たちに近寄る。そして至近距離で一気に一斉射撃を行う。だが、これも簡単にはいかない。一撃必殺を決めるためには男子全員が女の子の3メートルまで接近する必要があるだろう。しかも敵意なく自然に接近するのがどうしても難しい」


 遠藤が答える。


 「ふっふっふ。どうせこのままじゃ何も成果も得られずにゲーム終了だ。だったら僕は山坂の提案を試したい。みんなもどうだ?」


 男子一同は黙って頷いた。



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