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46話 初めての友達

 しばらく山坂が考える時間を置いてから俺は問いかける。


 「どうだ、びっくりしたか?」


 「あ……ああ。これは驚いた」


 「これが異世界からスライムと信じるか信じないかはどうでもいい、だが俺がこれを山坂に見せた理由は分かるか?」


 「……」


 山坂が考える。


 「……秘密を共有することによって僕に何か協力させたいのか?」


 「概ねその通りだが……それだけでは足りないな。これまで、スラの正体を俺自身がばらしたのは自分の親しかない」


 「じゃあ何で僕に……?」


 「俺は山坂とちゃんと友達になりたいんだ。だからスラの事をばらした」

 

 「……」

 

 すっごい疑われてるな。まぁ、無理もないか。


 「俺とのファーストコンタクトの時、山坂は言ったよな?どうして君はそんなに下等な人間のフリができるんだ?みたいなこと。山坂と俺は同じ問題を抱えているから俺にアドバイスを求めてきたんだろ?」


 「同じ問題……」


 「お互い、お勉強しか取り得がないのも辛いものだよな。それ以外の人間力?みたいなのが学力に全くついてきていない。山坂は他の人間見下して、他の人間とは違うと思い込むことによって友達を作らなくてもいい理由を作った……」


 「……」


 「だが俺はな、自分がどれだけダメな人間かということをちゃんと自身で向き合うことができたんだ……こいつのおかげでな」 

 

 ご飯を食べ終え、のんびりしているミニスラちゃん5体を掴みお手玉として遊んだ。


 「詳しく話すのは恥ずかしいから省くが、まぁ、ペットが子供に良い影響を与えるってやつだ。スラがいなかったら俺は本当に一人ぼっちだっただろうな……今の山坂のように」

 

 山坂は反論もせず、ただじっと俺の話を聞いていた。


 「実は友達、欲しかったんだろ……?なら、俺と友達になってくれ」


 「何故そうなる……俺は友達なんていらない」


 ここで俺は1ヶ月間、暖めておいた武器を使う。

 絶対にここで決めてみせる。


 「……山坂が読んでる本はいつも2種類の本だ」


 「なっ……!?」


 「もし誰かに本の内容をチラッと覗かれてもフランス語で書かれてるから内容を把握されることはないと思って油断しただろう?だが、俺は中二病を患っていた時に独学でフランス語勉強している。かなりフランス語は忘れたが、本の内容を軽く把握するくらいならできるぞ?」


 「あっ……あ。そ……それは」


 山坂は顔を真っ赤にして震えている。

 まるで知り合いに自分の性癖がバレてしまった時のようだ……いや、その通りなんだが。

 1冊はフランス語の官能小説でもう1冊は、 


 「山坂君はぁ!1ヶ月ぅ!ずっとぉ!フランス語で書かれたぁ!自然にできる友達の作り方って本ぅ!読んでたんだよねぇ!」


 「あ……あ……」


 「ねぇ?友達なんて必要ないとか言ってる君がなんでそんな本ずっと読んでるの?ねぇ?なんでそんな本ずっと読んでるの~?」

 

 「……」

 

 「うぇへぇ!うぇへへへへへへへ!!!」


 ぽろぽろ


 「……えっ?」

 

 山坂は恥ずかしさの限界を突破してしまったのか泣いてしまっていた。


 「えっ……その……」


 陽菜をよく泣かしてきたがそんな比ではない。

 俺は今初めて人を本気で泣かせてしまった。

 ……やってしまった!


 長くやっていたミニスラちゃんお手玉をやめ、ミニスラちゃん達を机に置いてアイコンタクトで助けを求める。

 ミニスラちゃん達は目を回したのかフラフラしていた。

 ……土下座しよう。


 「調子に乗り過ぎぎました。すいませ――……」


 「そうだよ!夏野の言うとおりだよ!!僕は……僕はっ……友達が欲しかったんだよ!!」


 「……ん?」


 「いつも夏野のことが羨ましかった!!友達を作るために必死でがんばっていて、失敗しても楽しそうにしている夏野が羨ましかったんだよっ!!」


 それは違うよ!

 確かに友達作りはがんばってたけど、失敗した後、楽しそうにしてるのは現実逃避して成功してた場合の妄想をしてるだけだよ!


 「だけど……僕にはできなかった……いつも、失敗することが怖かった……」


 「……」


 もし俺がスラを見つけずにカブトムシの飼育をしていたら俺もこうなっていたのかもしれない。


 「さっきはからかいすぎて、悪かった。反省している……」

 「いいさ……事実だ」


 しばらくの静寂が流れる。

 山坂が落ち着くのを待っているのではなく、俺がどういった行動をすれば良いか分からない。

 助けてミニスラちゃん。

 振り向くとミニスラちゃん達はまだ目を回しているようで、盆踊りをしている。

 

 「夏野……頼みがある……」


 「えっ!?……う、うん。もちろん誰にも言わないぞ?本当だぞ!?」


 「僕と……友達になってください!」


 「喜んで!……えっ?」


 山坂が何を言ったのか理解する前に俺は即答した。

 ……トモダチ?トモダチって何だっけ?


 ぱぁん!ぱぁん!

 突如、近くから発砲音が聞こえた。


 「山坂、姿勢を低くしろ!」

 

 俺は冷静に今の状況を理解する前に紙ふぶきが目の前に広がった。


 ひらひらひら


 ……おや、これは。

 ミニスラちゃんが俺が友達ができた自分を祝うために持ってきたクラッカーを使っていた。


 「え……これは?」


 「すまん、俺のペットが悪ふざけしただけだった」


 ミニスラちゃん達の元気な様子を見ると、目を回していたのも演技っぽそうだな。

 スラちゃん可愛そう……合宿から帰ったらミニスラちゃんたちの責任を取ってドックフード生活なんて。


 「……山坂、こ、これからよろしくな!」


 「ああ!」


 こうして俺は高校生活、初の男友達を作ることに成功した。

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