45話 ミニスラちゃんのごはんタイム
自分の泊まる部屋の前に着いた所で、ミニスラちゃんたちに一言断りを入れる。
「山坂にスラとミニスラちゃんの正体について言おうと思うがいいか?」
ドン!ドン!ドン!ドン!
ダンボールが勢い良く跳ねて返事をした。
YESの意味で跳ねてるのか、NOの意味で抗議してるのかが分からない。
経験則からすると「言っても良いけど早くごはん!」と言ったところだろう。
がちゃ
カードキーを通して中に入る。
部屋に荷物を置いてきた時に部屋を少し見たが、やっぱりすげぇ。
一泊10万以上は伊達じゃないな。
そして、山坂はソファに座り優雅に読書をしていた。
もしいなかったら、ミニスラちゃん達のご飯をおあずけにして山坂を探してもらわないといけない所だった。
そうなった場合、さぞかしミニスラちゃん達はしょんぼりするだろう。
別に俺の心は痛まないが。
「山坂~まだ飯食ってねぇだろ?持ってきてやったぞ~」
「別に僕の分は……えっ!?」
山坂は俺の優しい配慮にさぞかし感動し……てはないな。
そんな事より、俺の後ろで2メートルの高さで跳ねているダンボールに目を奪われていた。
ミニスラちゃんたちはいよいよご飯を食べれると思ったのか、さっきより跳ね方が激しい。
「これが気になるか?」
「気にならない訳ないだろう、何なんだそれは!?」
「くっくっくっ……いつものすました顔はどうしたのかね?山坂君?」
俺はミニスラちゃん達の被っているダンボールを取ってその中にいる勢い良く跳ねる5匹のミニスラちゃんたちを見せる。
ダンボールという名の拘束具から解き放たれた5匹のミニスラちゃん達はぴょんぴょんとテーブルの上に乗り、いつもの喜びの舞を始める。
……
あれ?何で5匹いるんだ?4匹じゃないのか?
ミニスラちゃん1号は確か俺の家に脱走して寝ているはずだ。
つまり、2号から5号の計4匹しかこの場にいないはずなのに5匹いる。
もしくは新たな謎生物ミニスラちゃん6号が誕生したのだろうか?
「点呼とりま~す。ミニスラちゃん6号!」
ミニスラちゃん達は人間で言う首を傾げるような動きをした。
俺だって首を傾げたいよ!
「ミニスラちゃん5号!」
1匹がその場で5回跳ねた。
「続いてミニスラちゃん4号!」
違うミニスラちゃんが4回跳ねる。
「ミニスラちゃん3号と2号はめんどくさいので省略!」
恐らくミニスラちゃん3号とおぼしき奴が跳ねようとする直前で動作が止まり……そして、しょんぼりした。
「最後に、ミニスラちゃん1号!」
ぴょん、と1匹が跳ねた。
……まぁあれだ、次元すら移動してくる奴にとって、たかが50キロや100キロくらいの物理的な距離なんて関係ないか。
台車に乗せているトレーをテーブルに置く。
「箸は4匹分しか持ってきてないから仲良く使ってくれ。では、ごはんタイムをお楽しみください」
箸を渡すといつものサイコキネシスのような力で箸を浮かせてご飯を食べ始めた。
スラ(本体)が美少女化してつい最近のことだが、このスライムの食事はすごく懐かしく感じがする。
そしていつも思うのだ。サイコキネシス使えるなら箸は二度手間だろう。
直接、食べ物を浮かせたらいいんじゃないかと。
さて、ミニスラちゃんの食事をぼけ~っと見るのも楽しいものだが、やることをやらなければいけない。
今までのやり取りを唖然とした姿で見ていた山坂に言う。
「これはミニスラちゃんと言ってな、スラの分身みたいなもんだ」
「分身……?」
「そうだ、スラは人間じゃない。スライムだ」
機械女神の説明はめんどくさいので省く。
だって、見た目スライムだけどそれは実はスライムじゃなくて機械女神で今のスラは人間の姿だけどそれは機械女神本来の姿で、とか言ったらパニックになる。
機械女神については追々説明するとして今はシンプルに行こう。
「スライム……そんな生物がこの地球上に……」
「いねぇな……スラは次元を超えてきたそうだ。信じられないか?まぁ、5年前から飼ってるが俺もその時はびっくりしたよ」
俺はご飯中のミニスラちゃんの1体をつかみ、山坂の座っているソファの近くに放り投げる。
「別に汚くもないし、触っても人体に害はない。山坂自身が触って確か……っておいっ!」
ぴょん!ぴょん!ぴょん!
かっこつけてミニスラちゃんを放り投げたのに、放り投げられたミニスラちゃんはいそいそとテーブルに戻りご飯をもぐもぐし直した。
「……すいませんが、ミニスラちゃん達はご飯に夢中なので、触るなら山坂がこっちに来て下さいお願いします」
「あ……ああ」
山坂はミニスラちゃん達がいるテーブルまで移動し恐る恐る触ろうとしていた。
「ミニスラちゃんだったか……?噛まないか?」
「歯はないぞ?てか何で歯がないくせに、もぐもぐ咀嚼してるんだろうな?」
「僕に聞かれても……」
長い間飼っているつもりだが、まだまだ判らない事の方が多いな、この生物。
山坂はミニスラちゃんの1匹を優しく撫でようとしていた。
俺が数少ないスライムのこいつらを信用している点として、スライムを初めて触ろうとしている人間を脅かせたりびっくりさせないことだ。
唯一の例外としては、俺が一番初めにスラを抱えた時に地面に落としてスラが飛び散った時くらいだろう。
スラ(スライム状態)は人間をびっくりさせて余計に警戒されるデメリットが良く分かっているのだ。
……ミニスラちゃんは分からんが。
そう考えているうちに山坂は手の上にミニスラちゃんを乗せていた。
「このミニスラちゃん、プルプルしてるが怯えているのか?」
「違うから遠慮なく触っていいぞ」
手に乗せられたミニスラちゃんは恐らく、がんばってご飯を再開したい衝動を抑えているだけだ。
山坂の目はまるで今まで知らなかったことを体験できた少年のような目で輝いていた。
そして、鏡はないがきっと今の俺はすごい笑顔だろう。
よぉし、俺は獲物が罠に掛かる瞬間をちゃ~んと目撃したぞぉ?
さぁて、収穫の時間だぁ~。